事業所得と雑所得の違いと境界線|給与所得者の原稿料・印税はどっち?

事業所得と雑所得では大違いなのだが

所得税の課税対象となる所得は10に区分けされます。それぞれの区分により課税所得の計算方法が異なるので、どの所得とされるかは重要です。

しかし、中にはその区分が曖昧でよくかわらないものがあります。

それが「事業所得」と「雑所得」です。

そこで今回は、事業所得と雑所得の違いとその境界線についてまとめてみます。

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事業所得と雑所得の違い

事業所得とは、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生ずる所得」をいいます。

一方、雑所得は、「他の9つの所得に該当しない所得」とされています。

この事業所得となるか雑所得となるかで課税所得の計算上次のような違いがあるのです。

(1)他の所得との損益通算

事業所得であれば、事業から赤字が生じた場合、その赤字と給与所得など他の所得と通算をすることができます。

その結果、給与所得等の金額が小さくなることで税負担が軽減されたり、源泉徴収された金額が還付されることもあります。

一方で、雑所得であれば、仮に赤字が生じたとしても、その赤字を給与所得など他の所得と通算することはできず切り捨てられてしまいます。

(2)青色申告特別控除・青色専従者給与等

事業所得であれば、正規の簿記の原則による帳簿作成をすることの見返りに種々の税制上の特典のある「青色申告制度」を利用することが可能です。

具体的には、最大65万円の控除ができる「青色申告特別控除」や生計を一にする親族に対する給与でも必要経費に算入できる「青色専従者給与」、他の所得と通算をしてもなお控除しきれない純損失について以後3年間に繰り越すことができる「純損失の繰越控除」などがあります。

一方で、雑所得であれば、青色申告制度の利用ができないため、これらの税制上の特典を利用することはできません。

事業所得と雑所得の境界線

これだけ課税所得計算上大きな違いのある事業所得と雑所得ですが、その境界線は曖昧です。

そのため、どちらの所得となるかについて、いくつも争われています。

最近のものでは、大学の准教授が執筆及び講演等の業務から生じる所得についての平成26年9月1日裁決で、事業所得となる要件が明示されました。

所得税法第27条第1項は、事業所得について、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得である旨規定し、その委任を受けた所得税法施行令第63条において、事業所得の事業に当たるものとして、11項目にわたり業種を例示するとともに、その他対価を得て継続的に行う事業がこれに当たる旨規定している。

このように、所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条に規定する「事業」については、その意義自体について一般的な定義規定を置いていないところ、その意味するところは、自己の危険と計算において独立して行う業務であり、営利性・有償性を有し、かつ、反復継続して業務を遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるものであると解される。

そして、ある所得が事業所得に当たるか否かを判断するに当たっては、当該所得が社会通念上「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる営利性、有償性、反復継続性をもった活動によって生じる所得か否かによって判断すべきであり、この場合において「事業」といえる程度の規模・態様においてなされる活動といえるかどうかは、自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無その者の精神的肉体的労務の投入の有無人的・物的設備の有無その者の職業・経験及び社会的地位等を総合的に勘案して判断すべきである。

平成26年9月1日裁決|国税不服審判所

事業所得の要件について、最高裁判所で「給与所得と事業所得」との判断基準として示した「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意志と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得を事業所得」としたものを踏襲した上で、「雑所得と事業所得」との判断基準として、その「事業といえる程度の規模・態様」についても言及しています。

自己の計算と危険においてする企画遂行性の有無

取材活動、営業活動が実際に企画遂行されていた

精神的肉体的労務の投入の有無について

その業務に従事していた時間が限定的なものとはいえない程度である

人的・物的設備の有無について

その事業を遂行するのに必要な物的設備を有し人員の配置をしている

職業・経験及び社会的地位について

生活に十分な給与収入を他から得ていることなどがない

これらを総合的に勘案した上で、事業所得か否かを判断するということです。

実際は必要経費算入の程度の問題

これをみると、給与所得者が収受した印税や原稿料はすべて雑所得となりそうですが、必ずしもそうとは言えないでしょう。

問題は、そのために必要経費に算入した金額や事業所得の赤字額の大小ではないかと。

この裁決例でも、大学准教授が、どうみても家事関連費と思われるような旅費交通費や新聞図書費などを全力で必要経費に算入したことを税務署が「それはやりすぎなんじゃないですか?少しは否認させてもらいますよ」と妥協を求めたのを全面的に突っぱねたことが出発点であったのではないかと思われるからです。

見逃せないような金額を強引に必要経費に算入し損益通算による税金の還付を受けながら、税務調査で指摘されても妥協をしなかったのであれば、税務署も厳格に基準を適用せざるを得ないということでしょう。

それがすべての申告に適用されるとは限りません。

高速道路だって100キロを少しでも超えて走れば即ペナルティというわけではなくとも、150キロで走っていれば「50キロオーバー」とされるのと同じです。

税務では判例や裁決例の数字をそのまま信じないほうがいい理由

だいたい本人が「プロだ」と言ってるのを、いくら売り上げが少ないからと税務署が「お前はプロじゃない」と否定することなどできません。

他に給与があったって、「本業は執筆だが、食えないから働きに出ている」というのを100%覆すのは難しいでしょう。

事実「37年間もの長期に渡って、事業所得と称したイラスト制作の赤字と給与所得との損益通算で税金を全く払っていなかった」とのことでこんな本も出たくらいですし。

まあ、この本が売れたおかげで、税務署の事業所得に対する認定は厳しくなったようですが。

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正直、税務署もそんなに少額の赤字の損益通算までいちいち税務調査に出向くこともできませんし、課税所得全体に占める事業所得の赤字額のバランスをみて、そこまで大きな金額でなければ大目に見られているか、あまりに長期間赤字が継続したり赤字額が大きければ、税務調査で一部否認を認めることで落とし所を探るというのが、「実務上の事業所得と雑所得の区分」の運用なんでしょうね。

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