節税を考えるなら知っておくべき税率と税負担|法人税・所得税・消費税・相続税・贈与税
節税とは低い税負担で課税がされること
節税というと「税金を支払わなくて済む」と考える人もいますが、多くの場合、税負担が0になるということではなく「低い税負担で済むこと」を意味します。
そこで今回は、節税を考える上で知っておきたい税負担の率について検討をしてみることにします。
所得税等
個人の所得については、その発生原因により10の所得区分に分けて所得額が計算された上で、そこからその人の人的特性による控除である所得控除を差し引いた金額が課税所得となり、一定の税率が課されて計算がされます。
その際の税金は、所得税の他、復興特別所得税、住民税が課されます。
なお、住民税については、一律10%ですが、所得税は、課税所得の階層ごとに税率が変わる累進課税が採用され、復興特別所得税はその所得税額の10.21%とされています。
それら個人の課税所得に対する税率合計は次のとおりです。
課税所得 | 所得税等の税率合計 |
1,950千円以下の部分 | 約15%(15.105%) |
3,300千円以下の部分 | 約20%(20.210%) |
6,950千円以下の部分 | 約30%(30.420%) |
9,000千円以下の部分 | 約33%(33.483%) |
18,000千円以下の部分 | 約40%(40.630%) |
40,000千円以下の部分 | 約50%(50.840%) |
40,000千円超の部分 | 約55%(55.945%) |
例えば、課税所得が6,000千円の人が課税所得を100千円減らすことができれば、その約30%である30,000円だけ個人の税負担を軽減できるということです。
なお、所得区分によっては、不動産や株式等の譲渡所得、退職所得など他の所得と合算されることなく、その所得のみに特定の税率が適用される「分離課税」が適用されるものもあります。
また、事業所得や不動産所得については、一定額を超える部分について事業税が別途課税されることがあります。
法人税等
法人の所得に対しては、法人税の他、地方法人特別税、それに事業税と都道府県民税が課されます。
これらのうち、事業税だけは、その申告をした時の損金となります。その分、表面的な税率よりも実際の税負担が低くて済むことになります。
その実際に負担をした税負担率を「実効税率」と言いますが、この法人の実効税率は約30%です。
ただし、資本金が1億円以下であるなど「中小法人」の課税所得8,000千円以下の部分については、実効税率は約20%に軽減されています。
つまり、中小法人の課税所得に対する実効税率は次のようになります。
課税所得 | 実効税率 |
8,000千円超の部分 | 約30% |
8,000千円以下の部分 | 約20% |
課税所得が8,000千円超である中小法人が課税所得を1,000千円減らすことができれば、約300千円の税負担を軽減することができ、課税所得が8,000千円以下である中小法人ならば、約200千円の税負担を軽減できるということ。
また、課税所得が8,000千円超の中小法人が、二つの会社に事業を分けたとすると、新たに設立した中小法人の課税所得となった金額に実効税率の差である約10%を掛けた金額だけ税負担が軽減されることになるのです。
こうやって所得税等と法人税の税率構造をみると、課税所得が1,950千円を超えると個人の税率と法人の税率はほぼ並び、3,300千円を超えるともう法人の税率のほうが低くなることがわかります。
あるいは、「利益を出すと税金で半分持って行かれる」などと言う人もいますが、法人だとさすがにそんなに課税はされないということもわかるでしょう。
むしろ、節税用の保険などに加入し全額損金となったとしても、当面の税負担が軽減される金額は支出額の約20%ないし約30%に過ぎず、節税対策をすれば税金の支払が当面少なくなることで手許の資金が増えるはずと思ったものの、実際には支出額のほうがずっと多く手許の資金は少なくなるということです。
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消費税等
消費税の税率は現在のところ10%です。
そのため、消費税の課税対象である支出が必要経費ないし損金として認められることにより、消費税の納税額は、その税抜金額の10%だけ減ることになります。
さらに、その税抜金額だけ、個人事業の事業所得や法人の課税所得が減るので、新たに必要経費や損金に算入された費用の税抜金額に適用される所得税等の税率ないし法人税等の実効税率を掛けた金額だけ所得税等や法人税等の税負担も軽減されます。
逆に言えば、消費税の課税対象である支出について、税務調査でその必要経費算入ないし損金算入を否認された場合、その税抜金額に適用される税率を掛けた所得税等または法人税等に加え、その金額に応じた消費税額も追徴課税されるということです。
相続税と贈与税
相続税については、亡くなった被相続人が保有していたプラスの財産からマイナスの財産である債務等を控除した遺産総額から、基礎控除(30,000千円+6,000千円☓法定相続人の数)を差し引いた「課税遺産総額」が計算されます。
この課税遺産総額を法定相続分で分けたものとして仮定した金額にその金額の階層ごとに定められた税率を掛けた金額を合計することで、ひとまず「相続税の総額」が計算されるのです。
その税率は次のとおりです。
法定相続分に応じる金額 | 税率 |
10,000千円以下の部分 | 10% |
30,000千円以下の部分 | 15% |
50,000千円以下の部分 | 20% |
100,000千円以下の部分 | 30% |
200,000千円以下の部分 | 40% |
300,000千円以下の部分 | 45% |
600,000千円以下の部分 | 50% |
600,000千円超の部分 | 55% |
例えば、課税遺産総額100,000千円、法定相続人が配偶者と子供二人の場合で、課税遺産総額を10,000千円減らすことができれば、
・配偶者(1/2)
100,000千円☓1/2=50,000千円→税率20%
10,000千円☓1/2☓20%=1,000千円
・子供(1/4ずつ)☓2人
100,000千円☓1/4=25,000千円→税率15%
10,000千円☓1/4☓15%☓2人=750千円
とそれぞれ相続税の負担が軽減されるので、17.5%(1,750千円/10,000千円)の相続税負担軽減になるということです。
ただし、配偶者が法定相続分または160,000千円まで相続をした部分には相続税が課税されない「配偶者の税額軽減」という制度があるため、この制度が適用できる場合、配偶者の相続税負担は元々0なので相続税の負担軽減はありません。
つまり、相続税負担軽減は子供のみの750千円、7.5%となります。
一方、贈与税ついては、年間1,100千円の基礎控除額を越えた金額(課税価格)について、その課税価格の金額の階層に応じた税率を掛けた金額が課されます。
わざわざ贈与をするのは、相続税の負担をできるだけ軽減したいということがほとんど。
そこで、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与税について適用される「特例税率」をみると次のようになります。
課税価格 | 税率 |
2,000千円以下の部分 | 10% |
4,000千円以下の部分 | 15% |
6,000千円以下の部分 | 20% |
10,000千円以下の部分 | 30% |
15,000千円以下の部分 | 40% |
30,000千円以下の部分 | 45% |
45,000千円以下の部分 | 50% |
45,000千円超の部分 | 55% |
仮に上記の人が相続税の負担を軽減しようと10,000千円の生前贈与をしても2,100千円の贈与税の負担が生じ、相続税の負担軽減額以上の負担となる上、わざわざ先に税金を支払わなくてはならない。
もし、相続税の負担を軽減するために生前贈与をするならば、その生前贈与に課される贈与税の税額が将来課されるであろう相続税額よりも少なくては意味がありません。
そんなのは当たり前のことだと思われるかもしれませんが、実際には、自分の将来の相続税の負担がどれくらいなのかを知らず、中には相続税の負担などないのに無意味な生前贈与を検討している人が驚くほど多くいるのです。
節税の実現にはまずは課税構造を理解する
課税構造の違いに着目した節税対策は、節税した分だけ後で納税が増え、単に税金の支払期限を延期するだけの「繰延型」ではなく、その節税効果が取り戻されることのない「永久型」です。
要するに、税金が課されるのは避けられないのであれば、できるだけ負担の少ない”関所”を通るということ。
そのためには、「誰がどうするとどのように課税対象額が計算され、どれくらいの税率が課されるのか」ということをきちんと理解しておく必要があるのです。
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