「長生きしすぎるリスク」への保障|トンチン保険という選択肢
人生100年時代、長生きしすぎるリスクは無視できない
リンダ・グラットンらが指摘した「人生100年時代」が見えてきた中、満足な年金支給が期待できないとなれば、不足するお金をどうするのかという問題が浮かんできます。
長生きすることは、幸せなことである反面、「長生きしすぎる」ことは実はリスクではないのかと。
そこで、今回は、「長生きしすぎリスク」にどう備えれば良いのかという話をしてみようと思います。
保険の本来の効果
リスクに備えるということになると、その手法としてはまず「保険」が頭に浮かびます。
もし、保険がなければ、どんなに確率は低くとも万一生じた場合に自分ひとりではまかないきれない損失に備えて、お金を手許に置いておかなくてはなりません。
それでは誰も満足な経済活動などできないところ、僅かな負担で瞬時にその準備ができ、万一に備えてお金をプールしなくても済むというのが、保険の本来の効能です。
しかし、保険はその制度維持のために莫大なコストが掛かります。
ですから、保険は資産運用には向いておらず、起きる確率は低くとも、自分ひとりではまかないきれない損失をカバーするため、損を承知で渋々加入すべきものなのです。
ですが、実際には、全く逆の意味で加入しているケースが多いのではないかと。
例えば、入院に対するリスクをカバーする保険でも、「日帰り入院からの医療保険」など、コストが保険料の20-70%も掛かると言われるので、期待値で考えればコスト負けすることは確実であり、仮に発生したところで支払いが可能であれば加入する意味などありません。
本来であれば、確率は低くとも損害額が大きくなる「60日以上の就労不能部分から保障をする就労不能保険」の方に損を承知で渋々加入すべきでしょう。
しかし、実際に、どちらが売れるかというと間違いなく前者の方なのです。
長生きしすぎるリスクをカバーする保険
個人年金保険は、掛金よりも多くのお金がもらえることが期待されているはず。まさに貯蓄としての機能で、老後の足りない資金をカバーするということでしょう。
しかし、特に保険会社が個人よりも良い運用成果を上げられるのかというとそんなことはありません。
それであれば、わざわざ高いコストを支払って保険会社に運用を委託するよりも、自分で個人向け国債でも買って安全運用をしたほうが良いのではないかと。
保険で貯蓄は割に合わないのです。
むしろ、保険本来の機能である「自分一人ではまかなえない損失をカバーする」という視点に立ては、仮に掛金を下回るお金しか受け取れない可能性があったとしても、それで万一の損失への準備ができるのであれば、やむを得ないのではないかと。
そんな発想でできたのが「長生きリスク」に備える「トンチン保険」というものです。
これは、この仕組みを17世紀に考えたロレンツォ・トンティから取ったものと言われています。
具体的には、50歳から70歳までの間に積み立てたお金を70歳から年金として受給する保険です。
これだけであれば、従来の個人年金保険と同じようなものでしょう。違いは、死亡保障は行わず、解約返戻金を低くすることでその分、年金原資を大きくするというもの。
しかし、このトンチン保険の場合、早く死んでしまった場合もらえる年金額が掛金総額を下回ることになります。
では、その損益分岐点は何歳生きたときかというと、なんと男性で概ね90歳。
いくら平均寿命が伸びたとはいえ、90歳以上生きるのは、全体の半分以下。「50歳まで生きた人で90歳まで生きるのは5人に1人」と言われています。
それであれば、せっかく掛けたお金が”元本割れ”する確率が高く、割に合わない保険に思えます。
しかし、保険の本来の姿である、「確率が小さいが、万一起きた時に自分一人ではまかなえない損失をカバーするため損を承知で渋々加入するもの」と考えれば、むしろ合理的な保障といえるのではないかと。
金融資産が多い富裕層で、どう考えても死ぬまでにお金を使い切れないだろうというくらいのお金を持っている高齢者であっても、「いつまで生きるかわからないから」という理由で、お金を際限なく貯め込んでしまうという人をたくさん見てきました。
もちろん、年齢が高くなるほど、お金への依存心が強くなるのは、人間の本能的な部分があるかもしれませんが、「長生きしすぎリスク」を切り離すことができるならば、その分だけでも、もっと自由にお金を使えるようになるかもしれません。
行動経済学では、「人は同じ金額であっても損失を利益の2倍から2.5倍強く感じ、回避しようとする」と言われています。
そこから考えると、”元本割れ”による損失はイヤと言う大多数の人にはウケないかもしれませんが、公的年金だけでは足りないという人で特に手許資金に余裕のある人には、「長生きしすぎリスク解消」のための有力な選択肢になるのではないでしょうか。
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