持ち家のない「家なき子」に対する小規模宅地等評価減の適用要件規制強化
自宅については相続税の評価額を大幅に引き下げる規定が
平成27年以降の相続から、相続税の基礎控除が従来の6割に引き下げられたため、相続税の納税義務者が亡くなった人の4%から8%へと「倍増」しました。
「倍増」と言っても、全体の92%の人には、相続税は関係のない話なのですが、多額の遺産を残す方にはこの改正は、大きな影響があります。
この遺産のうち、多くの人にとって最大のものは自宅でしょう。
その自宅の敷地については、一定の要件を満たす限り330平方メートルまではその金額を「8割引き」で評価できるのです。
この「小規模宅地等の評価減」という規定には、種々の適用要件があるのですが、そのうち「誰が相続するのか」について、平成30年度の相続から従来よりも厳しくなった部分があります。
そこで今回は、小規模宅地等の評価減の改正のうちいわゆる「家なき子」に対する適用要件強化についてまとめてみることにします。
小規模宅地等の評価減の概要
小規模宅地の評価減とは、亡くなった人(被相続人)が相続時に使用していた居住用、事業用、賃貸用の土地について、相続税の評価上、一定の面積までその土地の評価減をすることを認める規定です。
用途ごとの限度面積と減額される割合は次のとおりです。
相続開始の直前における宅地等の利用区分 | 要件 | 限度面積 | 減額割合 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
被相続人等の事業の用に供されていた宅地等 | 貸付事業以外の事業用の宅地等 | ① | 特定事業用宅地等に該当する宅地等 | 400 | 80% | |
貸付事業用の宅地等 | 一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業(貸付事業を除く)用の宅地等 | ② | 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 | 400 | 80% | |
③ | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200 | 50% | |||
一定の法人に貸し付けられ、その法人の貸付事業用の宅地等 | ④ | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200 | 50% | ||
被相続人等の貸付事業用の宅地等 | ⑤ | 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 | 200 | 50% | ||
被相続人等の居住の用に供されていた宅地等 | ⑥ | 特定居住用宅地等に該当する宅地等 | 330 | 80% |
なお、二つ以上の適用対象の土地を所有していた場合の限度面積は次のようになります。
特例の適用を選択する宅地等 | 限度面積 | |
---|---|---|
特定事業用等宅地等(①又は②)及び特定居住用宅地等(⑥) (貸付事業用宅地等がない場合) |
(①+②)≦400⑥≦330 両方を選択する場合は、合計730㎡ |
|
貸付事業用宅地等(③、④又は⑤)及びそれ以外の宅地等(①、②又は⑥) (貸付事業用宅地等がある場合) |
(①+②)×200/400+⑥×200/330+(③+④+⑤)≦200 |
*相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については、この特例の適用を受けることはできません。
特定居住用宅地等の適用要件
用途ごとのそれぞれの適用要件については、被相続人とその土地を相続した人との関係性や事業の継続性など様々な要件があります。
被相続人の「特定居住用宅地等」(自宅)についての要件は次の通りです。
区分 | 特例の適用要件 | |
---|---|---|
取得者 | 取得者等ごとの要件 | |
被相続人の居住の用に供されていた宅地等 | 被相続人の配偶者 | 「取得者ごとの要件」はありません。 |
被相続人と同居していた親族 | 相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人 | |
被相続人と同居していない親族 | からの全てに該当する場合で、かつ、次の及びの要件を満たす
相続開始の時において、被相続人が一時居住被相続人、非居住被相続人又は非居住外国人であり、かつ、取得者が一時居住者又は日本国籍及び日本国内に住所を有していない人ではないこと。 被相続人に配偶者がいないこと 被相続人に、相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でその被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)である人がいないこと 相続開始前3年以内に日本国内にあるその人又はその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと その宅地等を相続税の申告期限まで有していること |
|
被相続人と生計を一にする被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等 | 被相続人の配偶者 | 「取得者ごとの要件」はありません。 |
被相続人と生計を一にしていた親族 | 相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人 |
相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
本来は、被相続人の配偶者や同居していた親族が、多額の相続税負担をすることで、その自宅に住み続けられなくなるというような事態をさけるのが、この規定の目的です。
ですが、被相続人に配偶者も同居していた親族もいない場合には、同居していない親族であっても一定期間持ち家がないのであれば、この特定居住用の小規模宅地の評価減の適用できる余地があります。
この一定期間持ち家でない非同居親族のことを税務の世界では「家なき子」といいます。知らない人が聞いたら住む家がないのかと驚いてしまいますね。
家なき子に対する適用要件の厳格化
この「家なき子」も特定居住用宅地等の小規模宅地等の評価減の適用対象としていたのは、被相続人の死去にともない、独立していた子どもが実家に戻ってくることを想定し、その時に多額の相続税の負担のために売らざるを得ず住めないというのを回避することを目的としています。
適用要件に、「過去三年間は自分の家を持っていないこと」を要件にしたのもそのためです。
ところが、この制度を悪用し、実家に戻る気などサラサラなく、はじめからサッサと自宅を売るつもりの人まで、相続時に一時的に「家なき子」の要件を満たそうとする行為が横行しました。
そこで、平成30年4月1日以降発生した相続から、次の者は特定居住用宅地等の小規模宅地等の評価減の適用対象者から外されることになったのです。
(1)相続開始前3年以内に3親等内の親族又はその者と特別な関係にある法人が所有する家屋に居住したことがある者
(2)相続開始時に居住していた家屋を相続前に所有していたことのある者
これにより、
・相続開始前に自分の家を子どもに贈与したり
・相続開始前に自分の家を親族等に売却したり
・相続開始前に自分の家を売却してもその家に賃貸で住み続けたり
することで、作為的に「家なき子」になり小規模宅地等の評価減を受けるという対策は封じ込められたのです。*
*平成30年4月1日から平成32年3月31日までに発生した相続については、仮に平成30年3月31日に相続が発生していた場合には、家なき子に該当するケースは、経過措置として、特定居住用宅地等の小規模宅地等の評価減が適用されます。
平成30年度の改正で、相続直前に賃貸用不動産を購入するケースについても小規模宅地等の評価減の適用要件の規制が強化されています。
相続税は、課税が一度限りなので、その”ハードル”を超えるだけでその節税効果が将来取り戻されることはありませんが、いつ相続が発生するのか誰にもわかりません。
その間に、組んだ節税対策が法改正で無意味なものになることもあるということを理解しておく必要があるでしょう。
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