良い借金・悪い借金?|借金のメリットとデメリットを冷静に検証する

借金はしたほうがよいのか、しないほうが良いのか

事業を行う上で、「借金を積極的に活用すべき」という意見と「借金はできるだけしないほうがよい」という意見は、常に平行線であり、なかなか結論は見いだせません。

そのためか、中には、設備投資や増加運転資金の調達のような前向きの借金はしてもいいが、赤字の穴埋めのような借金はしてはいけない「良い借金・悪い借金」論なども。

そうはいっても、赤字の穴埋めのための「赤字資金」融資だって、会社の財務体質を悪化させ、将来より大きな問題を生じるにしても、その融資がなければ資金ショートをして即倒産をするのであれば、その時点では、絶対にするべき「良い借金」であるわけです。

そうなると、やはり、借金には、メリットもデメリットもあり、それを十分理解した上で、借金とどう付き合うかは、自らが判断をするしかないのではないか。

ということで、今回は、借金の効能・メリットとリスク・デメリットを個人の感情論を抜きにして冷静にまとめてみようと思います。

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借金の効能・メリット

(1)信用が買える

「信用が買える」といっても、別に借金が多いほうが人から信用されるというわけではありません。

できるだけ資金繰りが有利な商取引を考えるのであれば、注文があった時点で前金でお金をもらい、そこから商品を仕入れて、代金を後で支払うということでしょう。

しかし、それでは、売上高はなかなか伸びていきません。

では、売上高をより伸ばすにはどうすればよいのか。得意先のために、商品を先に購入して在庫とし、販売代金については後でまとめて払ってもらうようにします。

これらは、得意先のために代金の立て替え払いをしているのと一緒であり、得意先に「信用を供与」しているということです。

得意先に対する信用の供与が手許の資金で賄えないが、借金で可能になるならば、借金で信用を買うことができるということになるでしょう。

(2)安全が買える

事業を行えば、常に順風満帆ではなく、売上が低迷することや予定外の支出に見舞われることもあります。

その時に即倒産とならないためには、それらに備えて手許のお金を余計に積んでおく必要があります。

また、手形の決済など目の前の支出が賄えないと資金ショートをするというのであれば、仮に赤字だとわかっても前金がもらえるなら受注をするしかなく、結果的により大きな資金繰り悪化を招きます。

さらに、「この仕事が受注できなければ会社は倒産」というような切羽詰まった営業では売れるものも売れません。

つまり、手許の資金がないと、打つ手が限られジリ貧になる反面、手許資金が潤沢であれば、取るべき意思決定の選択肢が増えるので、手許資金があるときとないときとでは、結果が加速度的に大きな差になっていくのです。

この手許資金の厚みを借金をすることで実現できるのであれば、不測の事態に備えた安全と意思決定の選択肢の幅を買うことができるということになるでしょう。

(3)時間を買う

競争力の上がることが期待できる設備があったとしても、自己資金での購入にこだわるならば、その自己資金を貯めるための時間が必要です。

その間に、ライバルが同じような投資をし競争力を高めてしまえば、こちらは競争力を失いジリ貧になる。結果的に赤字を穴埋めするために借金をせざるを得ないということも。

それが、借金をすることで、すぐに設備投資を可能になるのであれば、借金により、自己資金を蓄えるのに必要な時間を買うことができるということになるでしょう。

事業の成否は、使ったお金がどれだけ回収できるかということであり、その成果のブレ幅である「リスク」は投資額に応じて大きくなります。

つまり、借金をするということは、自己資金という制約を超えた金額の投資を可能にするということであり、成果のブレ幅が大きくなる一方、事業の成長スピードは加速します。

まさに、借金は事業の加速装置であるということ。それだけ、スピードもアップするのでコントロールの難易度は、小さな投資額のときよりも上がるということでしょう。

借金のリスクとデメリット

(1)金利変動リスク

「借金が大きくなるとお金が返せないので大変」などと言われますが、それは間違いです。

そのまま、手許のお金が増えているので、そこからお金を返せばよいのです。

借金をしてお金が返せなくなるのは、その投資したお金がうまく回収できなかったから。

つまり、「お金の使いみち」の問題であり、自己資金か借金かという「お金の集め方」は、その投資の成功確率に影響を与えないでしょう。

では、あえて、借金をすることで増えるものはないのか。考えられるのは利息の支払いです。

ただし、これも自己資金であればコスト0で調達ができるというわけではありません。

自己資金=出資者のお金という視点でみると、出資の方が融資よりも回収できるかどうかのリスクが高いため、より高いリターンを求めるでしょう。

その期待に応えないと次の資金調達ができないので、お金を集めた側はその期待に応えねばならず、結果的にお金を出した人の期待=お金を集めた人のコストということになります。

つまり、出資による調達のほうが、融資による調達よりもずっとコストは高い。オーナー社長は自分が出資者ですが、その出資による期待リターンを我慢しているのに過ぎないのです。

では、借金をすることで新たに追加されるリスクや負担はないのか。

それは「金利変動リスク」です。調達したときには低金利であったものが、その後金利水準が高騰するということがあるでしょう。

もちろん、金利がさらに低下する可能性もあります。リスクというのは「危険」だけではなく「機会」を含んだ「ブレ幅」のことなのです。

(2)規律が緩む

「支出は収入の限界まで増える」「仕事は与えられた時間の限界まで増える」といわれます。これを「パーキンソンの法則」といいます。

つまり、規律が緩むと、知らず知らずのうちに貴重なリソースの無駄遣いが起き、それは際限なく大きくなるということ。

もし、借金をせず、手許の資金の範囲内での活動にこだわっていれば、規律の厳しい支出をしていたものが、借金をすることで手許資金が余裕ができると、その分だけ規律が緩みリソースの無駄遣いが生じやすいということです。

借金をしてでもジリ貧にならないような手許資金を持ち、意思決定の選択肢の幅をもたせたとしても、選択肢の幅が増えたが故に間違った選択をしたら何もならないということでしょう。

いずれにせよ、借金のメリット・デメリットを判断するには、無駄な支出や投資の成果という「お金の使いみち」の問題と自己資金か借金かという「お金の集め方」の話をごっちゃにしないで、明確に切り分けた議論が必要ということなのです。

自分の経験や感情論はひとまず置いて判断を

借金をしたほうが良いのかしないほうが良いのかという議論が、かみ合わない理由の多くは、個人的に「借金で大変な苦労をした」、「借金をして投資をして上手くいった」という個人的な経験や感情に基づくものが多いことによるのではないかと。

そのため、借金を「する、しない」についても、他方を「過度な」「無駄な」「むやみな」ものとして比較するという無意味なものになりがちです。そりゃ、どんなに効能のあるものだって、ダメなものになるに決まっています。

その手段の有効性を正しく判断するためには、まずは「適正」なものを前提とすべきだし、むしろ、その「適正なものとはどんなものであるか」を考えることのほうが重要ではないかと。

まずは、「事例1つ」の個人の経験や個人的な感情は、ひとまず置いて、冷静にその功罪について考えてみてください。

その上で、「借金が好きか嫌いか」をも考慮し、実際に借金をするしないを決断すればよいのではないでしょうか。

借金は躊躇しない。でも規律は厳しく

実は、「借金をしてもいいのか、できるだけしてはいけないのか」という質問は余り意味はなく、まず見るべきなのは、「手許資金の厚み」のほうではないのかと。

ですから、私自身、「借金をしてもいい?できるだけしてはいけない?」と聞かれたら、相手によって答えは変えています。

十分成長が見込めるのに、自己資金での事業にこだわっている人には、「無借金経営にこだわるなんて、手足を縛って格闘技をするようなものよ。それで競争に負けたらどうするの?借金をすることで今までとは別の世界が見えますよ」と。

一方で、お金があるとその使いみちをまず考えてしまうような人には「借金はいくら返したって損金にならないですよ。税引き後のお金で返済するのって大変だよね」という感じに。

借金を考える上での私なりの正解は、ジリ貧にならず十分な打ち手が取れるだけの手許資金を持つ。そのためには自前のお金で足りなければ、躊躇することなく借金をする。当然、無駄な支出が生じないために規律厳しく統制をしなくてはならないということではないかと考えます。

まあ、そうはいっても、借金に関わりなく、お金に余裕があると規律が緩みやすいのは事実。私も節約は大の苦手です。

中には、稼ぎが少ないときには、子供の頃から毎日家計簿をつけていて家計簿の本まで出し「立呑みのハムカツ最高ですよ」と言っていたのに、ちょっと稼げるようになると、ミシュランの★付きの店でメシ食いながら「え?家計簿?もうあんなのつけていないですよ。その時間があったらもっと稼いだほうがいいじゃないですかwww」なんて言うようになるやつもいますから。

そういう人には、この本でも読んで、緩んだ規律を締め直してほしいものですね。

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