ドラマでよく見る「税金対策でわざと損をする」ってどういう意味?

損をしたら損な気がするんだが

よくドラマで、悪役と思しき人が「税金対策であえて損をする事業をやっている」という話が出てきます。

実際にそんなことあるんでしょうかね。今回は、税金対策であえて損をするなんてことが本当にあるのかについて考えてみようと思います。

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税率が100%を上回らない限り損をしてお金が増えることはない

税金対策でわざと損をするというのは、損をした金額以上の節税が期待される、結果的にお金が増えるということでしょう。

しかし、損をした金額×税率=節税額なのですから、税率が100%を超えない限り節税額が損をした金額を上回ることは絶対にありません。

つまり、わざと損をすることで仮にその分税負担が軽減されたとしても、その事業を行うことで確実に手許のお金は減ることになるのです。

儲かったときに先行投資を

予想外に利益が上がってしまった場合に、このまま税金を取られるのは嫌だとお金を使ってその利益を減らそうとすることがあります。

ただ、無駄にお金を使っては、税率が100%を超えない限りお金は減ってしまいます。

あえてお金を使うのは、来期以降の売上高獲得につながる先行投資をするということ。

例えば、広告を期末に仕掛けることで広告費を当期の損金としながら、翌期以降にその広告費以上の売上高の獲得が期待できる場合などでしょう。

つまり、税金対策であえて損をするというのは、その時点では損をしたとしても、将来それ以上の利益が見込まれないと意味がないということです。

先行投資に節税効果はない

では、その支出が将来利益となって回収されたときはどうなるのか。

本来、収益ー費用が利益となり、その利益に対して課税がされますが、既に、支出をした時点で費用とされているのであれば、収益全額に税金がかかります。

つまり、先行して広告費などの費用の支払いをしたとしても、その時点の税負担は軽減するものの、その支出が回収された時点で税負担が同じだけ増加するので、トータルでの節税効果はないのです。

これは、固定資産の減価償却であってもの同じことです。

減価償却自体をみると支出もないのに損金が生じているようですが、資産を取得した時点では支出もしているのに損金になっていないものが遅れて損金になっただけ。収益として回収された時点で税負担が増えるので節税効果などありはしません。

本当にトータルの税負担が減ったとすれば、その投資が上手く収益として回収できずに損をしたということであり、その損の分だけ税金が減ったというだけのことです。

「支出もないのに損金になる節税対策」の真実を全力で検証する

支出時に損金になったものは帰ってきたときに益金となるのに対し、支出時に損金にならなかったものは帰ってきたときにも益金になりません。

つまり、支出時に全額損金になる事自体には、節税効果などないのです。

ですから、その経済行為の損得を考える上では、全額損金算入の節税効果はないものとして判断をすべき

その上で、支払う金額のほうが受け取る金額よりも明らかに多いというのであれば、まさに金をドブに捨てているようなものでしょう。

ですから、将来、支出額以上の回収ができないのに、節税対策としてわざと損をするような事業に手を出すというのは少なくとも法人税の節税に関してはありえない。

要するに、ドラマでよく見られる「税金対策でわざと損をする事業に手を出している」というのは間違いだということです。

新聞記事にも税務に関する間違いは多々ある

まあ、ドラマに目くじらを立てても仕方がいないですが、新聞や経済誌でも、税金については、よくわからないで書いているケースが多い。

これなんかも明らかに間違っています。

 問題になっているのは、「法人向け定期保険」。主に中小企業が契約し、経営者や役員の死亡の際に保険金が支払われる。いくつかの条件を満たせば、保険料は全額経費扱いになる。

 企業は保険料支払いで利益を圧縮し、法人税支払いを減らせる。加入後10年程度で解約すれば、支払った保険料の多くが「解約返戻金」として戻る。利益を上げて税金を払うより、保険に入って返戻金を受け取った方が手元にお金が残る。返戻金は課税されないように、役員退職金などの経費に充てる。

 日本生命保険が昨年4月に発売した「プラチナフェニックス」の場合、60歳で契約し、保険料を10年間支払った後解約すると、当時の基準で支払った保険料の約85%が手元に残る。

 これに対し、通常通りに法人税を払うと、利益のうち手元に残るのは約66%だ。保険に入った方が、手元に残るお金は3割近くも多くなる。

 生保各社は同様の商品を相次いで投入しており、第一生命保険が今年3月発売した商品では、手元に残るお金が、法人税を払った場合より4割超も多いケースがあった。

「節税保険」実態解明へ 金融庁、商品設計を問題視|朝日新聞

支出時に全額損金になったものは、受取時に全額益金になるので、その時点で課税がされます。

「いや、そのときには退職金支給で益金と相殺されるので課税は生じない」

それは、退職金の税制優遇措置であり、生命保険に加入をしなくても退職金支給をすれば受けられるものです。

退職金を支給しない場合と退職金を支給する場合でキャッフュフローを計算すれば、退職金の節税効果がある分、キャッシュが増えるのは当たり前。

生命保険による節税効果を検証するのであれば、同じ金額の退職金を支給する前提で、生命保険に加入する場合と生命保険に加入をしない場合で将来のキャッシュフローを比較しないと正しく判定はできません。

結論は、何をどういっても、全額損金算入自体には節税効果がないのですから、解約返戻率が100%を下回る時点で、保険加入によりお金は減るのです。

仮に、節税により手許のお金を残す最適解はなにかといえば、「退職金は支給をする、でもその準備は生命保険ではしない」ということでしょう。

「保険じゃなくて定期積金だと税引後の利益で退職金の準備するから大変」という間違いを全力で正す

金融庁は、保障の実需に合わないいびつな生命保険の商品設計と節税を謳った販売方法に苦言を呈しているのであり、別に節税保険に効果がありすぎるから問題視しているわけではないはずです。

この記事を読んで、「金融庁が規制しなければいけないほどこの生命保険には節税効果がある」などと思わないように。おそらくこの記事を書いた記者はそう思っているのでしょうが。

行き過ぎた節税対策の封じ込めは、金融庁ではなくて国税庁の仕事です。

もちろん、その保険加入が実需に合うものであれば良いですが、ありもしない節税額から逆算をしたような過大な保険加入をしているのであれば、金をドブに捨てているようなもので、決して資産防衛・企業防衛なんかじゃないですよ。

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