難解な不動産取引の消費税|入居者のいるマンションを転売目的で取得した場合

不動産取引の消費税は厄介

うちのお客様の中では、インターネット広告運用代行業と並び不動産販売業は経理処理が複雑で”厄介”な業種と言えます。

その不動産取引業の消費税については、非常に分かりづらく処理にも手間がかかります。

そこで、今回は、わかりにくく複雑な不動産取引の消費税の取り扱いについて軽減税率に伴うインボイス方式への変更も絡めてまとめてみることにします。

スポンサードリンク

個別対応方式と一括比例配分方式

消費税については、最終消費者が負担した税額を事業者が代わりに納税をする間接税です。

そのため、事業者は、本来消費税の負担をすることがなく、その納税額は、売上等に伴い預かった消費税額ー仕入れ等に伴い支払った消費税額(仕入税額)となるはずです。

しかし、実際には、消費税の納税額の計算上「控除できる消費税額」(仕入控除税額)は、消費税の課税対象となる売上高等(課税売上)を獲得するために必要とされた仕入れ等に伴うものに限定されています。

言い換えれば、消費税の課税対象とならない売上高等(非課税売上)を獲得するために必要であった仕入れ等に伴い支払われたものは消費税の納税額の計算上控除することが出来ません。

不動産取引では、建物の譲渡は課税売上であり、土地の譲渡は非課税売上です。

通常、建物のみを譲渡することはなく、土地建物の両方が譲渡されますが、この時の仲介手数料は「共通対応」の仕入れ等とされ、その消費税額に「課税売上割合」(課税売上高/課税売上高+非課税売上高)を掛けたものが仕入控除税額となるのです。

つまり、原則として、これらの不動産取引を行う業種では、その仕入れ等について消費税の課税対象であるかどうかの判断に加えて、その仕入れ等が課税売上に対応したものなのか、非課税売上に対応したものなのか、共通して対応したものなのかを分けて集計をしておかなくてはいけません。

この方法を「個別対応方式」といいます。

しかし、これはあまりに面倒だという場合、その仕入れ等が課税売上対応か非課税売上対応か分けることなく、仕入れ等に伴って支出した消費税の総額(仕入税額)に課税売上割合を掛けた金額を仕入控除税額とすることも可能です。

この方法を「一括比例配分方式」といいます。

消費税の控除方式の選択で税額に大きな差が!個別対応方式と一括比例配分方式

「うちは、そんな面倒なことをしたことはない」という方もいるでしょうが、実は課税売上高が5億円以下の事業者については、「課税売上割合が95%以上であれば課税売上割合を100%とみなす」というルールがあるのです。

そのため、不動産販売業や医療機関など非課税売上の割合が高い業種以外、実質的に仕入れ等に伴って支出した消費税の総額が控除されています。

一方、土地の売上高があるため、通常課税売上割合が95%未満となることの多い不動産取引業の場合、この個別対応方式を選ぶか、一括比例配分方式を選ぶかで消費税納税額が大きく変わることがあるのです。

収益物件として購入した場合

用途による区分

土地についてはそもそも非課税取引なので消費税は関係ないですが、建物の取得については、その建物の用途にかかわらず課税取引として購入対価に応じた消費税の支払いをしなくてはなりません。

不動産販売業者が自社で保有し賃料を得るため「収益物件」を購入した場合、その用途が「居住用」かそれ以外の「事業用」かで消費税の取扱いが異なります。

事業用の建物の賃料は課税売上ですから、事業用の建物取得に伴い支払った消費税は消費税の納税額の計算上控除ができます。

一方で、居住用の建物の賃料は非課税売上ですから、居住用の建物取得に伴い支払った消費税は控除できません。

高額の建物の消費税を”自腹”で負担するのは痛い。そこで、一括比例配分方式を選択し、課税売上割合を作為的に上げてでもなんとか建物取得に伴う消費税の控除を受けようという試みとその規制のいたちごっこが繰り返されているのです。

1000万円以上の設備投資をしたらしばらく簡易課税は選択できないこともー高額特定資産取得の消費税の特例

ひとまず、収益物件の取得に伴う消費税をまとめると次のようになります。

収益物件の取得に伴う消費税

土地の取得
消費税の支払いなし
建物の取得事業用部分課税売上対応(仕入税額控除可)

居住用部分非課税売上対応(仕入税額控除不可)

購入先による区分

現在、消費税の納税額の計算上控除ができる「仕入税額控除」について、帳簿の保存に加え、取引の相手方(第三者)が発行した請求書等の保存を要件としています。

これを「請求書等保存方式」といいます。

この請求書等保存方式では、建物の仕入税額控除の可否は、課税売上対応か非課税売上対応かという「用途」だけで判断がされ、「誰から購入をしたのか」については、影響はありません。

しかし、2023年10月に、仕入控除税額について、登録された「適格請求書発行事業者」が発行した「適格請求書」(インボイス)に記載された消費税額に基づき計算がされる「インボイス方式」への変更が予定されています。

このインボイス方式では、「用途」だけでなく「誰から購入したのか」も仕入税額控除の可否に影響を与えます。

というのも、免税事業者や個人消費者は「適格請求書」を発行することができないため、収益物件として建物を取得した場合、その消費税額は事業用であれ居住用であれ仕入税額控除ができないことになるのです。

つまり、収益物件としての建物を取得した際の消費税についてまとめると次のようになります。

「請求書等保存方式」(2023年9月まで)

居住用課税事業者から仕入税額控除不可

免税事業者・個人消費者から仕入税額控除不可
事業用課税事業者から仕入税額控除可

免税事業者・個人消費者から仕入税額控除可

「インボイス方式」(2023年10月から)

居住用課税事業者から仕入税額控除不可

免税事業者・個人消費者から仕入税額控除不可
事業用課税事業者から仕入税額控除可

免税事業者・個人消費者から仕入税額控除不可

販売用不動産として購入した場合

入居者の有無による区分

不動産を仕入れそのまま転売したり、リフォームをして価値を上げて販売をする場合、この不動産は、一般的な商品と同じように取り扱われます。

商品として仕入れた不動産を売却した場合、土地の売上高は非課税売上ですが、建物の売上高は、その物件の用途に関わらず課税売上です。

ですから、販売用として仕入れた建物を売却した場合、その物件の用途が事業用であれ、居住用であれ、どちらも課税売上に対応する仕入れとなり消費税の控除が可能なのです。

では、テナントの入居している物件を転売ないし、リフォームして売却した場合はどうなるのでしょう。

すぐに転売しない限り、入居者からの賃料を受け取ることが出来ます。

つまり、その建物の仕入れは販売目的であったとしても、その不動産販売による売上高に加えて入居者からの賃料も獲得できることになります。

その賃料は、事業用であれば課税売上、居住用であれば非課税売上です。

事業用の場合には、賃料も不動産販売売上高も共に課税売上なので問題はないですが、居住用の物件については、賃料については非課税売上、不動産販売売上高については課税売上となるので、入居者のいるマンション等を販売目的で取得した場合、その建物に係る消費税は共通対応として、その金額に課税売上割合を掛けた金額しか消費税の控除はできません。

会員相談室Vol.31|東京税理士界

さらに、その建物の用途については、原則「課税仕入れ等を行った時の状況による」とされており、そのマンションが収益用として取得したものをその後に商品として販売したとされると、その建物取得は非課税売上対応として、個別対応方式では全く控除の余地がないのです。

「どんな目的で取得をしたか」などという曖昧な判断材料で、その消費税の取扱いが大きく変わるのはとても厄介です。

実際の税務調査で、全て上記のような指摘をされているかといえば疑問もありますが、ここが論点となった場合には、裁決例などでも「転売が主目的だからといって、入居者のいるマンションの仕入れを課税売上対応のみとすることはできない」とされているので注意が必要でしょう。

最低限、購入時点での用途は収益物件であるとされることがないよう、当初から販売目的で取得したものと言えるような証拠書類を揃えておくしかないですね。

間違っても、決算書に有形固定資産として決算書に計上したり、減価償却などしないように。

ひとまず、販売用不動産を取得した際の消費税についてまとめると次のようになります。

入居者のいないまま販売する不動産

土地の取得
消費税の支払いなし
建物の取得事業用部分課税売上対応(仕入税額控除可)

居住用部分課税売上対応(仕入税額控除可)

入居者のいる販売用不動産

土地の取得
消費税の支払いなし
建物の取得事業用部分課税売上対応(仕入税額控除可)

居住用部分共通対応(仕入税額×課税売上割合)

ただし、取得時点で「収益物件」とされると非課税売上対応(仕入税額控除不可)

購入先による区分

インボイス方式になると、原則として「適格請求書」に基づき仕入控除税額が計算されるため、「適格請求書」が発行できない免税事業者や個人消費者からの仕入れについては、消費税の控除ができないことになります。

しかし、古物商や質屋や宅建取引業を営む者が免税事業者や個人消費者から「棚卸資産」を取得した場合には、「適格請求書の交付を受けることが困難な場合」として従来どおり消費税の仕入税額控除を受けることが出来るのです。

消費税の仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式が導入されます|国税庁

つまり、インボイス方式に変わっても、自社で運用をする収益物件と異なり、宅建業者が販売用不動産として仕入れた場合には、消費税の取扱いは従来どおりということです。

もうこれだけでも何がなんだかよくわかりませんが、さらにいうと、いきなりインボイス方式に変更すると影響が大きいので、一定期間ごと段階的に、免税事業者や個人消費者からの仕入れについて仕入税額に一定割合を掛けた金額だけ控除が可能とする「経過措置」も設けられています。

期間控除可能な割合
2023/10から2026/9まで仕入税額×80%
2026/10から2029/9まで仕入税額×50%

軽減税率ってこんな面倒な思いまでしてやるもんなんでしょうか。

そもそも、素直に「事業者は本来税負担をする必要がないので、支払った消費税は全額控除対象」としてくれれば、消費税の難解な規定のかなりの部分はなくても良くなるはずなんですがね。国税庁は一体何がしたいんでしょう。

セミナー音源No.14:消費税の基本と節税そして大改正

インフィードモバイル

9割の人が間違えている「会社のお金」無料講座公開中

「減価償却で節税しながら資産形成」
「生命保険なら積金より負担なく退職金の準備が可能」
「借金するより自己資金で投資をするほうが安全」
「人件費は売上高に関係なく発生する固定費」
「税務調査で何も指摘されないのが良い税理士」

すべて間違い。それじゃお金は残らない。
これ以上損をしたくないなら、正しい「お金の鉄則」を