新たにもう一社設立するときの株主は、個人、法人どっちが有利?

グループ会社の株主は社長個人?既存会社?

資金調達や販売戦略などにより、新事業については、既存会社ではなく新たに会社を設立して行うこともあります。

その際によく聞かれるのが、「新会社の株主は、既存会社が良いのか、社長個人が良いのか」というものです。

結論は、どっちでもそんなに差はないと思うのですが、今回は「新会社の株主が親会社の場合と社長個人の場合の違い」についてまとめてみようと思います。

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株主の違いは事業には影響なし。あるとすれば譲渡時の課税関係

新会社の株主が社長個人であっても親会社であっても、事業自体は何ら影響はないです。

お客様は、その株主が誰なのかなんて、上場企業の子会社などそれ自体が信用力を高めるものでなれば、興味もないことです。

資金調達についても、その株主が親会社でも社長個人でも、結局グループ全体で金融機関は与信の評価をするし、どちらにせよ、融資には社長の連帯保証を求めるでしょうから、両者の違いもないです。

では、株主が親会社か社長個人かの違いはどこにあるのでしょうか?

それは、新会社の株式を譲渡したときの譲渡損益の課税上の有利不利ということでしょう。

社長個人が株主のときの株式譲渡損益の課税関係

株式投資による譲渡損益が、「売った時の価格ー買った時の価格ー諸費用」であるということは、個人であっても法人であっても変わりがありません。

株式譲渡で利益が上がった場合、個人には、「申告分離課税」といって、他の給与所得などと合算することなく、その譲渡益(株式の譲渡所得)に対して20.315%の税率で、譲渡益の金額にかかわりなく一律で課税がされます。

では、株式譲渡で損をした場合は、どうなるのでしょうか?

上場株式や上場している投資信託などの金融商品の損失については、他の上場株式や上場投資信託などの譲渡益や配当と通算(相殺)をすることができます。

さらに、それらを通算してもさらに損失が残る(「欠損金」といいます)場合には、確定申告をすることで、その欠損金を翌年以降3年間に渡り繰り越すことができ、その間に発生した上場株式や上場投資信託等の譲渡益や配当と相殺をすることができるのです。

しかし、非上場の株式等の損失については、平成28年より上場株式等の譲渡益と相殺はできなくなりました。

つまり、他の非上場株式等同士でしか利益と損失を相殺できない上に、欠損金が生じても翌年以降に繰り越すことはできず切り捨てられてしまうのです。

親会社が株主のときの株式譲渡損益の課税関係

一方、法人の場合には、株式譲渡損益を他の事業活動と区別することなく、すべての利益と損失が合算した上でその事業年度の所得となります。

法人の課税所得に対する実効税率(事業税を損金と考える)は原則約30%です。

ただし、資本金が1億円以下などの中小法人であれば、課税所得800万円までの部分は、その実効税率が約20%と軽減されます。

なお、事業活動全体で生じた欠損金は、翌期以降10期間繰り越され、その期間の利益と相殺することが可能です。

株主が法人か個人かによる株式の課税関係の比較

つまり、個人と法人での非上場株式の譲渡損益に対する課税関係をまとめてみると次のようになります。

個人 法人
儲かった時 20.315%の申告分離課税

★★

他の事業の所得と合算した上で

(1)課税所得が800万円超の部分

約30%の課税 ★

(2)課税所得が800万円以下の部分

約20%の課税 ★★

損をした時 他の非上場株式等とのみ通算し、欠損金は切り捨て

 

他の事業の所得と合算した上で、欠損金は翌期以降10期繰り越し

 

★★★

 

(★の数が多いほど有利)

ひとことでいえば、非上場株式の株式の譲渡損益については、儲かった時の課税は個人のほうがやや有利で、損をした時のリスクヘッジは法人の方がずっと有利ということでしょう。

万一、事業が失敗したら既存会社によるリカバリーも

確かに、社長個人が株主として出資をした新会社の事業が失敗した場合、その損失は他の所得と通算する余地が無いといえます。

ただ、あくまでも、それは、その新会社を第三者に損失覚悟の価格で譲渡したり、事業を清算して会社を解散したときのことです。

「既存会社が株主ならば、万一新会社の事業が失敗しても、その赤字は本業と通算できるから損失をカバーできる」という法人の方が有利という前提は、既存会社が現在ないし欠損金を控除する期間で相応の利益が上がるということでしょう。

それであれば、新事業に失敗してしまった会社を既存会社のバックオフィス(事務処理系)部門や営業支援を担当させる会社として再生をさせることで、結果的に既存会社の利益と新会社の事業の損失を通算できるということになります。

そうなると、結局、新会社の株主が既存会社であっても社長個人であっても、新会社を譲渡して儲かった時には社長個人が出資したほうが課税上有利となることもあると言うレベルしか両者には差がないということになるのではないかと。

あるいは、もし、相続税対策まで実施する必要があれば、新会社の株主を事業承継者にすることも考慮します

もちろん、何もしていない新会社に勝手に既存会社の利益を付け替えるようなことは出来ません。

新会社の人員により「実際に業務がなされていること」、そして「その請負金額が第三者間の取引価格と比較して妥当であること」が求められます。

このあたりは、特に、新会社の事業が失敗した後であれば、税務調査でも厳しく見られることなので、きちんと対処する必要はあるでしょうね。

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