税金・社会保険から考える独立起業するなら個人事業で?それとも法人設立?

自分の肩書はフリーランスか社長か

会社をやめて独立起業をすると「会社の看板」はなくなり、「自分の看板」で勝負しなくてはなりません。

では、自分の看板たる肩書として、フリーランスである「個人事業」から始めるのが良いのか、「法人を設立」し一人社長として始めるのが良いのか悩むことも多いもの。

そこで今回は、「独立起業した場合、個人事業として始めるのがよいのか、会社を設立するのがよいのか」という点についてまとめておくことにします。

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法人と個人の所得に対する課税の比較

法人税・所得税の税率構造の違い

さて、個人であれ、法人であれ、稼いだ儲けに税金が掛かることは同じです。しかし、法人と個人ではその課税の仕組みが異なります。

まず、税率については、法人は課税される利益(課税所得)に対して原則として約30%の一律課税です。

特例的に、資本金が1億円以下の中小企業の課税所得が800万円以下の部分については、軽減税率が適用され、その税率は約20%となっています。

それに対して、個人は課税所得に対して15%〜55%の7段階の累進課税です。*

累進課税とは課税所得が増えるに連れて、適用される税率が段階的に上がっていくのですから、この税率だけをみても、課税所得が少ないうちは個人事業のほうが適用される税率は低く、課税所得が多くなると法人の方が税率は低くなることがわかるでしょう。

*この他に、基準所得税額✕2.1%の復興特別所得税が掛かります。

法人と個人の課税所得計算の違い

税金は、課税所得に税率をかけて計算されますが、税率だけでなく課税所得の計算方法も個人事業と法人では異なります。

個人事業の場合、売上高から実際に掛かった経費(実額経費)を差し引いた金額が「事業所得」となります。ここから、社長自身の報酬を差し引くことはできません。

一方で、法人の場合には、売上高から実際に掛った経費を差し引いた上に、社長自身の役員報酬を差し引いた金額が、法人での課税所得となるのです。

もし、それらを差し引いた金額が0となるのであれば、原則として法人では課税がないことになります。

個人事業では差し引けなかった社長自身の報酬が、法人では差し引けるのであれば、法人の方が圧倒的に有利であるように思えます。

しかし、法人の課税所得の計算上差し引いた社長の役員報酬は、社長個人の収入として所得税等の課税の対象になります。

それでは、個人事業も法人も同じではないのかと思われるかもしれません。

実は、個人事業としての「事業所得」と給与としての「給与所得」ではその計算方法が異なるのです。

既に申し上げたように、事業所得は売上高から実額経費を差し引いたものです。

一方で、給与所得は、給与として得た給与収入から実額経費に代えて、給与収入の額に応じて定められた「給与所得控除」という概算経費を差し引くのです。

個人事業であれば、事業所得の計算上、売上高から差し引くことができたのは、実額経費のみでした。

それに対して、法人であれば、まず法人の課税所得の計算上、売上高から実額経費が差し引かれています。

さらに役員報酬として差し引かれたものは、個人の給与収入となるものの、給与所得の計算上、そこから給与所得控除という概算経費まで二重に差し引くことが出来るわけです。

個人事業であれば、実額経費しか差し引けなかったものが、法人であれば実額経費に加え概算経費まで差し引くことが出来るのですから、課税所得の計算上は個人事業よりも法人の方が有利だと言えます。

なお、個人事業であれば、「青色申告」を選択し、一定のルールに従った帳簿をつけるなどという要件を満たすことで、「青色申告特別控除」というものが最大65万円差し引くことができます。この控除は法人にはないものなので、この点は、個人事業の方が法人よりも有利であると言えます。

では、具体的に、個人事業と法人では課税所得にどのような差があるのでしょうか?

例えば、売上高が1000万円、必要経費(実額)が600万円であったとしましょう。この時の利益は400万円です。

個人事業で青色申告を選択し、一定のルールに従った帳簿をつけていた場合、ここから青色申告特別控除65万円を差し引いた335万円が事業所得の金額となります。

一方、法人化した場合には、売上高1000万円から必要経費(実額)600万円を差し引いた400万円が社長の役員報酬を控除する前の利益となります。ここで役員報酬を400万円とすれば、法人の課税所得は0円となります。

役員報酬400万円は、個人の給与収入となりますが、ここから給与所得控除134万円を差し引いた266万円が給与所得となります。

このように法人化することで「概算の経費」と「実額の経費」が二重に控除できるのです。

法人の課税所得が0円で利益に対する課税がないとすれば、このケースで言うと、個人事業から法人化することで、課税所得の金額を69万円(335万円-266万円)引き下げることが可能になるということです。

この給与所得控除という概算経費の金額は、一定の金額までは給与収入の金額が大きくなるに連れて金額が大きくなります。*

つまり、より多くの役員報酬額を取れるだけの利益が上がるようになるにしたがって、法人化による節税のメリットもより大きくなるのです。

*給与所得控除は、現在、給与収入1000万円以上は220万円が上限となります。2020年度分から給与収入850万円以上は195万円が上限となります。

個人事業と法人での事業税の課税の仕組みの違い

事業に対する利益には、さらに課税がされます。それが「事業税」というものです。

法人でも個人事業でも事業の利益に対して、事業税という地方税を負担しなくてはいけません。この事業税の課税方法も法人と個人事業では異なります。

個人事業の場合、事業所得の金額(青色申告特別控除前の金額)から「事業主控除」290万円を差し引いた金額に、事業の種類に応じて3-5%の税率を掛けて事業税の額を計算します。

一方、法人の場合には、法人税の課税所得とほぼ同じ計算方法で課税対象となる金額を計算し、定められた税率を掛けることで事業税の額を算出します。

売上高から実額経費と役員報酬額を控除した後の法人税の課税所得が0であれば、いくら税率を掛けたとしても事業税は課税されないことになります。

もらった役員報酬には事業税はかかりません。

つまり、法人化して利益を給与所得とすることで、個人事業であれば課税されていた事業税を軽減したり回避したりすることも出来る。

事業所得が事業主控除の額を大きく超えるようになることで、法人化による事業税軽減のメリットも大きくなるのです。

税金的には、まずは個人事業・軌道に乗ったら法人化

一方で、法人になると、住民税の均等割というものを会社でも負担する必要があります。

これは、法人が赤字であれ黒字であれ、課税所得に関わりなく掛かる税金で、最低で年間7万円です。

それらを総合して両者を比較することになりますが、事業の儲けが小さいうちは個人事業のほうが、利益が一定額を超えると法人の方が有利であると言えます。

つまり、どれだけ儲かるかわからないうちは、個人事業としてはじめ、事業が軌道に乗り安定的に利益が上がるようになってから法人にした方が良いことことがわかるでしょう。

では、税金上法人化をした方がよい分岐点はどこにあるのでしょうか?

一律に申し上げることはできませんが、事業所得の金額が安定的に500万円程度になった際には、税金面では法人化を視野に入れたほうが良いことになるでしょう。

まずは個人事業・いきなり法人化の消費税の比較

利益に対する課税だけでなく、消費税についても、まずは個人事業から始めるのか、いきなり法人化するのか、比較する必要があるでしょう。法人でも、個人事業でも、「基準期間」の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じます。

法人でも、個人事業でも、「基準期間」の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の納税義務が生じます。

この基準期間とは、実際に消費税額の計算する事業年度のことではなく、その期間の2期間前のことを指すのです。

では、設立初年度の基準期間はいつなのでしょう。

当然、基準期間はありません。その翌期も2期前である基準期間はない。つまり、事業を開始してから2期間は基準期間がないため、原則として消費税の納税義務はないのです。*

本来、消費税は、得意先より「預かった消費税額」から支払先に「支払った消費税額」を差し引いた金額を納税します。その納税義務がないことで、その差額は「益税」として手許に残ることになります。

では、個人事業を法人化した場合はどうなるのでしょうか?

同じ人が事業をしているならば、法人化した前の個人時代の期間が基準期間になるのでしょうか?

実は、個人事業と法人はたとえ同じ人が事業をしていたとしても、全く別のものとして取り扱います。

つまり、個人事業で2期間運営をした後で、法人化をすると設立からさらに2期間、消費税の納税義務がなくなるのです。

いずれにしても、消費税の納税義務をできるだけ回避したいのであれば、ひとまず個人事業としてはじめ、基準期間の売上高が1000万円超となり、消費税の納税義務が生じた時点で法人化をするのが良いことになるのです。

*事業年度開始の日の資本金等の金額が1000万円以上の法人の場合、その課税期間から消費税の納税義務が生じます。

 また、法人でも個人事業でも、前期の開始から6ヶ月経過までの期間の課税売上高と給与支払総額が共に1000万円超の場合には、その翌期から消費税の納税義務が生じます。

まずは個人事業・いきなり法人化の社会保険料の比較

個人事業で一定の人数に満たない従業員しか雇用しない場合、それらの従業員に対し、社会保険の加入義務はありません*。

従業員各自が国民健康保険と国民年金に加入してもらうことになります。

一方、法人の場合、代表者本人が給与を取るだけで、たとえ一人も従業員を雇用していなかったとしても社会保険加入義務があるのです。

社会保険料の負担は、会社と個人で折半されますが、会社と社長が一体の事業開始直後の会社であれば、どちらも社長自らが負担をするようなものです。

その負担は、従業員についての会社負担分で給与の約15%、社長については個人分会社分双方を負担するので給与の30%程度にもなることもあります。

これらは、ある程度の役員報酬額を取ると国民健康保険と国民年金の負担をはるかに超えるようになるのです。

社会保険料の負担のうち、厚生年金については、掛けた金額が多い分、将来給付を受ける金額が多くなることが期待できますが、起業直後はできるだけその負担は避けたいものでしょう。

もちろん、社会保険に加入をしていることで良い人材を集めやすいというメリットはあるかもしれません。

しかし、自分一人で事業を行うか、ごく少数の人しか雇い入れないうちは、ひとまず個人事業で始め、事業が軌道に乗って広く外部から多くの従業員を積極的に雇用するようになった時点で、法人化をした方が社会保険料負担の観点からは有利ということになるのです。

*個人事業であっても、製造業等一定の業種では従業員を常時5人以上雇用する場合には、社会保険加入義務が生じます。

まずは個人事業・いきなり法人化の社会的信用力の比較

法人化する理由の一つに、「個人事業よりも法人化した方が社会的な信用力がある」とよく言われます。

しかし、実際に事業を行っている人ならばわかると思いますが、そんなことはまずありません。

例えば、金融機関から融資を受けるにしても、法人化することで個人事業よりも高い評価を得るなどということはありません。

バーチャルオフィスで一人しかいない会社なのに「代表取締役兼CEO」なんて名刺作ったって、満足しているのは本人だけですから。銀行だってそんな会社には、おいそれと預金口座すら開設してくれないですよ。

特に、飲食店や個人向けのサービス業であれば、その店が法人化しているかどうかなどお客様からすれば興味もなく、その店の屋号しか知らないということのほうが多いはずです。

要するに、法人化をすることで社会的な信用が高まるほど甘くはないということです。

個人事業と法人の税務申告・税務調査の違い

さらに付け加えると、申告の手間や税務調査の頻度も個人事業と法人では異なります。

個人事業であれば、なんとか自分で税金の申告まで出来るものが、法人の場合には、申告書の様式が複雑になり一人で申告まで行うとかなり手間がかかります。

税務調査の頻度も、事業規模にもよりますが、個人事業であれば、ぜいぜい10年に一度程度しかないものが、法人になると5-7年程度に一度とその頻度が高まるのです。

もちろん、大手企業や官公庁と取引口座を開設するに当たり、法人であることが必須とされていることが、ままあります。

そのような相手から仕事を受注したいのであれば、否応なしに法人化をせざるを得ないでしょう。

つまり、どうしても法人化をしなくてはいけない理由がないのであれば、まずは個人事業としてはじめ、事業が軌道に乗ってから法人化をする方が、無駄な支出をしないですむので、生き残りの難しい起業直後の時期を乗り切りやすくなるはずなのです。

会社に残った人の目を気にして、いきなり法人化したい気持ちはよくわかりますが、あなたが生きていく世界は、そんなもの気にしているようじゃ生きていけない世界ないのです。

ああ、私は独立したときに、個人事務所の他に見栄でいきなり会社作って、聞かれもしないのに代表取締役の名刺も配ってましたけどね。

だって、勢いだけで独立した26歳の若造でしたから。

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