基準期間の課税売上高が1000万円以下でも消費税還付の余地が|特定期間での納税義務判定の選択

消費税の納税義務は基準期間の課税売上高で判定

事業者は、取引に際し預かった消費税から支払った消費税を差し引いた金額を国に納税する必要があります。

ただし、一定規模以下の事業者については、事務負担等を考慮し、消費税の納税義務がない「免税事業者」となることができるのです。

この消費税の納税義務の有無は、原則として、その課税期間の前々期である「基準期間」の消費税の対象となる売上高(課税売上高)により判断するのですが、それだけでなく「特定期間」という期間の課税売上高等により消費税の納税義務を判定することもあります。

そこで、今回は、その特定期間による消費税の納税義務の判定の「選択肢」についてまとめてみることにします。

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基準期間による納税義務の判定

消費税の納税義務の有無については、当期の課税期間ではなく、その前々期である「基準期間」の課税売上高により判定することになっています。

そのため、法人設立当初の二期間については、基準期間がないので、原則として消費税の納税義務がありません。*

結果的に、預かった消費税から支払った消費税を差し引いた金額が、事業者の手許に残ってしまう「益税」が生じることになります。

では、なぜ、こんな益税を生じてまで、わざわざ消費税の納税義務を前々期である基準期間により判定するのでしょうか。

それは、「事業者がその課税期間の期首の時点で、今期は消費税の納税義務があるのかを把握できていないといけない」という考え方によるものといえます。

というのも、消費税の納税義務があるかないかで、経理処理方法は大きく異なります。

それがもし、当期の課税売上高により消費税の納税義務を判断するとなると、その課税期間の売上高を集計してみるまで、当期の消費税納税義務があるのかわからないということになります。

免税事業者のつもりだったので、消費税など関係ないとまともに集計をしていなかったのが、いきなり決算のときになって、「はい、課税売上高が1000万円を超えたのであなたは課税事業者ね」と言われても、経理処理をさかのぼって直せないでしょう。

まあ、実際には、会計ソフトを使っていれば簡単に直せますけど、中小企業や個人事業主の中にはそうでない方もいるということです。

では、前期の課税売上高で納税義務を判断すればよいのではないか。

決算というのは、通常、事業年度終了から2ヶ月以内に行われます。その時点で前期の正確な課税売上高が把握されることもあるでしょう。

この前期の決算完了の時点では、すでに当期は始まっています。

ですから、当期の課税期間の期首の時点で消費税の納税義務があるのかどうか判断できるようにするためには、前期ではなく前々期の課税売上高で判断をしなくてはならないのです。

特定期間による納税義務の判定

この基準期間の課税売上高による判定だけですと、特に設立当初は、二期間も基準期間がなく、その分本来支払われるべき消費税が事業者の手許に残ってしまう「益税」が生じてしまいます。

これは、今後消費税の税率が上がっていく中では「税率を上げる前に益税を潰せ」という批判につながるはず。

そこで、前期の課税期間の上半期の課税売上高などが1,000万円を超える事業者については、その翌課税期間から消費税の納税義務が生じるものとするいう改正がされました。

上半期で既に課税売上高が1,000万円を超えているかはその課税期間内で把握が可能なので、翌課税期間の期首では納税義務の有無の判定は可能ということでしょう。

この前期の上半期6ヶ月のことを「特定期間」といい、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合には、課税事業者となるのです。

なお、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定については、課税売上高に代えて、特定期間中に支払った給与等の金額により判定することもできます。

特定期間の判定|タックスアンサー

つまり、

・前々期の課税売上高が1,000万円以下

 かつ

・前期の特定期間の課税売上高が1,000万円以下

 または

・前期の特定期間の給与支払総額が1,000万円以下

であれば、当期の消費税の納税義務は生じないということになるのです。

*その他、資本金額等による判定もあります。

納税義務の免除|タックスアンサー

消費税の納税義務がないことは必ずしも良いことではない

「消費税の納税義務が生じないことは益税を生じるので事業者にとってはありがたいことであり、できるだけ免税事業者であることが望ましい」と誰もが思うことでしょう。

それは、事実なのですが、消費税の納税は、預かった消費税額と支払った消費税額の精算であるため、支払った消費税額のほうが預かった消費税額よりも多い場合、その差額の還付を受けることが出来ます。

しかし、消費税の免税事業者はその消費税の申告をしないため、消費税の還付を受けることが出来ないのです。

そのような場合には、本来消費税の納税義務がなくても、多額の設備投資をしたことなどにより支払った消費税額が預かった消費税額を上回る場合には、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、あえて消費税の課税事業者となることで消費税の還付を受けることも可能です。

ただ、この「消費税課税事業者選択届出書」は、原則としてその課税期間が始まる前日までに提出する必要がある上、一度課税事業者を選択してしまうと最低でも二期間連続で消費税の納税義務者とならなくてはなりません。

つまり、その設備投資をした事業年度は還付を受られても、その翌事業年度に消費税の納税をしなくてはならないこともあるのです。

*法人設立など事業開始の事業年度については、消費税課税事業者選択届出書はその課税期間終了の時までに提出をすればよいです。ただし、その期間を含めて最低3期間消費税の納税義務者となる必要があります。

特定期間による納税義務の判定要素は選択可能

基準期間の課税売上高による消費税の納税義務の判定により、消費税の納税義務が生じないとなった場合にも、特定期間の課税売上高による消費税の納税義務の判定は必要です。

この「特定期間による判定」で消費税の納税義務が生じた場合には、届出に関わりなく、消費税の納税義務が生じます。

当期の課税期間に設備投資等により支払った消費税額が預かった消費税額を上回った場合で、「特定期間による判定」で消費税の納税義務が生じた場合、事前の届出も必要なく、二期連続して消費税の納税義務者となる必要もなく、消費税の還付を受けることが出来ます。

その判定要素は、特定期間の課税売上高が1,000万円以下かどうかですが、課税売上高の代わりに給与支払総額によって判定することも「できる」とされています。

つまり、基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、特定期間の課税売上高と給与支払総額がそれぞれ1,000万円超と1,000万円以下であった場合、特定期間については、課税売上高か給与支払総額かのどちらか都合の良い方を選択できるということです。

たとえば、当期に預かった消費税額が支払った消費税額を上回った場合には、当期は免税事業者のほうが有利なので、特定期間の課税売上高と給与支払総額のうち、1,000万円以下のものを判断基準に選択することで消費税の納税義務を免れることが出来ます。

逆に、当期に預かった消費税額が支払った消費税額を下回った場合には、当期は課税事業者のほうが有利なので、特定期間の課税売上高と給与支払総額のうち、1,000万円超のものを判断基準に選択することで消費税の還付を受けることが出来るのです。

今期で一気に業績が低迷したときなど、特定期間による消費税の納税義務の判定について、課税売上高と給与総額のどちらを選択するかで、消費税還付の可否が異なることもあるので注意しましょう。

本来、消費税の還付が受けられるのに基準期間の課税売上高だけをみて還付を諦めていたとしても、税務署が「還付請求を忘れていますよ」なんて教えてくれませんからね。

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