遺言書の限界ー遺言でできることできないこと

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自分の死後も”きょうだい仲良く”という思い

相続税法改正についてマスメディアが扇動的に報じたためか、
遺産相続についても生前に準備をしておくべきだと
考える人が増えてきているようです。

事実、平成26年度の公正証書遺言作成件数は10万件を超えたとのこと。

遺言書を書くのは、相続人が遺産相続でもめることなく
自分の死後も仲良く暮らして欲しいという願いがあってのことでしょう。

万一、遺産分割協議が整わない事態に陥ったとしても、
遺言書には判決と同様の強い法的効果があり、
その遺言書に従った遺産分割をすることができます。

しかし、遺言書があれば、すべての遺産分割のトラブルを未然に
防ぐことができるとは限りません。

そこで今回は、遺言書があっても起きうるトラブルから
遺言の限界について考えてみようと思います。

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遺言の内容を無視することもできる

遺言は、被相続人が「こんな相続をして欲しい」という
思いを表したものです。

しかし、相続人全員が納得すれば、遺言書を無視して
自分たちが良いと考える遺産分割内容とすることもできます。

ということは、仮に遺言があったとしても、その内容に不服な相続人は
「そんな遺言は無視して、みんなで遺産分割をやり直そう」
と提案をしてくるかもしれないということです。

しかし、遺言書により多くの財産が相続されることとなっている相続人は
そのような提案には耳を傾けることなく、遺産分割協議が
整わないので、結局遺言通りの遺産相続が行われます。

つまり、遺言書により法的に遺産分割を決定することができたとしても、
相続人全員がその内容に納得をするとは限らず、遺言通りの遺産分割協議を
推し進めることで遺族が仲違いしてしまうということもあるのです。

遺留分の減殺請求をされる

もし、全財産を愛人に相続させると遺言に書かれていた場合
はどうなるでしょうか?

法的要件を満たしていれば、遺言書に記載された通りの内容で
遺産分割がされます。

これでは、残された遺族は、生活が立ちゆかなくなってしまいます。

そのため、法定相続人には、遺産相続のできる
最低保証額というものが定められています。

これを「遺留分」といい、その金額は一言で言うと
法定相続分の1/2とされています。

(法定相続人が親だけの場合、遺留分は法定相続分の1/3となり、
兄弟姉妹にはそもそも遺留分はありません)

もし、この遺留分を侵害する遺言書が書かれた場合でも、
遺言自体は有効でその内容通りの遺産分割はされます。

しかし、その侵害された遺留分相当額について
その法定相続人から主に金銭での補償を求められる事があります。

これを「遺留分の減殺請求」と言います。

このような状態になると「実はもっと遺産はあるのではないか」
「生前に贈与を受けていたものがあるのではないか」などという
係争にもなりがちです。

せっかく、遺産分割で揉めないようにと遺言を書いたのに、
この遺留分を巡って係争になるということもありえるのです。

この遺留分を巡る係争を回避するためには、
そもそも遺留分を侵害しないような遺産分割内容にする。

あるいは、仮に遺留分の減殺請求をされたとしても
その支払いがスムーズにできるように、遺留分の対象とならない
生命保険金の受取人を「遺留分の減殺請求を受けるかもしれない人」
にしておくといった工夫が必要になるのです。

いずれにせよ、遺言書があっても係争の恐れはあるということです。

新しく作り直されたものが優先する

遺言には、主に2つの形式があります。

一つは、自分で書く「自筆証書遺言」

もう一つは、公証人のもとで作成する「公正証書遺言」です。

自筆証書遺言は、コストも掛からず作成できる反面、
紛失や偽造されることに加えて法的要件を満たさないリスクがあります。

一方、公正証書遺言なら紛失したり偽造されることはなく、
法的要件を満たさないこともありえない代わりに、作成する際にコストが掛かります。

なお、遺言は何度でも描き直しが可能で、最も日付の新しいものが
有効になります。

複数の遺言が発見された場合には、
公正証書遺言が自筆証書遺言に優先するなどという取り扱いはなく、
公正証書遺言を作成した後で自筆証書遺言が書かれた場合には、
自筆証書遺言が優先します。

そのため、せっかくコストと手間をかけた上で公正証書遺言を
作成したとしても、その後の日付で作成された自筆証書遺言が
発見されたら、そちらの自筆証書遺言の記載内容が優先されるのです。

この自筆証書遺言には、「これは偽造だ」
「きっと無理やり書かされたものだから無効だ」と
その遺言書の真偽についての係争になることも考えられます。

実際に、京都の有名なかばん屋さんで、二通の自筆証書遺言の真偽を巡って
二度も最高裁までの判決を経るなど骨肉の争いとなった例もあります。

このときも、後から作られた三文判が押されたような簡素な自筆証書遺言が
最終的には「信用ならずに無効」とされましたが、一度目の最高裁の判決では
有効とされた上に、本来事業を承継するはずだった後継者が一度は会社を追われ、
別ブランドを立ち上げざるを得なくなったのです。

つまり、遺産相続争いを回避するために作成された遺言書が原因になったり、
せっかく公正証書遺言をつくってもそののち自筆証書遺言を捏造され、
結果的に血みどろの係争になってしまうこともあるということです。

遺言書により誰かが傷つくことも

遺言書による遺産分割の内容と言うのは、誰がいくら相続できるという
金額を表しているだけではありません。

「親が子どもたちのことをどのように評価していたのか」
ということを表すものでもあるのです。

そのため、親の死後その遺言書を見ることで、
親の自分に対する評価を知り大きく傷つく人も出てきます。

それを回避するためには、生前に遺言を残す側が
自ら相続人に向かってどんな思いでこの遺言書を書いたのかを
説明するのがよいとよく言われます。

ただ、これも、ちょっと怖いんですね。

というのも、そこで発表された遺言書の内容に不満があった相続人が、
露骨に親への態度を変えてくることもあります。

あるいは、遺言内容を説明した時に、親が全く想定をしていなかった
子ども達のホンネを目の当たりにすることになり、
親が大いにショックを受けることもあるのです。

そんな姿をみると、こんなつらい思いをさせてまで
生前に遺言内容を伝える必要はあったのかと心苦しくなります。

いずれにせよ、遺言書により法的に遺産分割を整えることができますが、
人の心まで整えることはできないということは理解しておく必要があるでしょう。

もちろん、何の問題もなく遺産相続を乗り切り、
親の死後も仲の良いきょうだいはたくさんいますが、
「自分の死後もきょうだい仲良く」という一見ささやかな親の願いは
それほどたやすく実現するわけではないということですね。

大切なのは、常日頃の家族のつきあいかたということのようです。

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