不動産の譲渡所得の計算上差し引く取得費は買った時の価格ではない

買った時よりも売った時の価格が安ければ譲渡所得はない?

不動産を譲渡すると税務署から「譲渡所得の申告についてのお尋ね」という書類が送付されてくることがあります。

個人が不動産を譲渡して利益(譲渡所得)が出た場合、確定申告をし、所得税と住民税を納めなくてはなりません。

しかし、不動産の譲渡により損失が生じていれば、確定申告は不要です。

つまり、不動産を買った時よりも安い値段で売ったのであれば、譲渡所得の確定申告は不要ー

かというと必ずしもそうではありません。

今回は、不動産の譲渡所得の計算方法を見てみることにします。

不動産譲渡による取得費は取得価額とは別のもの

不動産の譲渡所得は下記の算式で求められます。

譲渡所得=譲渡対価ー取得費ー譲渡費用

ザックリ言えばその不動産を売ることでどれだけ儲かったかということ。

単純に考えれば、売った時の値段から買った時の値段を差し引き、そこから売るためにかかった費用を差し引くことで求められそうですが、実際には違います。

売った時の値段から差し引くのは買った時の値段(取得価額)ではなく、そこから減価償却費という価値減耗分を差し引いた金額(取得費)なのです。

なぜ減価償却費を控除するのか?

不動産譲渡の利益を計算するのであれば、売った時の値段から買った時の値段を差し引けば良いはず。

では、なぜ減価償却費を買った時の値段から差し引くのでしょうか?

その建物を賃貸していたとしましょう。その賃貸による不動産所得の計算上、必要経費として減価償却費を控除しているはずです。

その上で、売った時と買った時の差額を不動産譲渡の利益としてしまっては、一つの建物なのに減価償却の累計額分だけ賃貸時と譲渡時で二重に所得計算上控除されてしまうことになります。

そのため、譲渡時の利益を計算する際の差し引く取得費の計算上、減価償却費を差し引くことにしているのです。

結果的に、賃貸時に減価償却により税負担が軽減された金額が、譲渡した時に一気に利益に加算され税金が課されるということです。

つまり、「減価償却費はお金も払わないのに必要経費になって節税になる」というのは全くの誤解だということがよく分かるでしょう。*

*個人の場合、所得の区分が不動産所得(総合課税)ではなく譲渡所得(分離課税)となることから、適用される税率の違いにより節税になることもあります。

非業務用の建物でも「減価の額」の控除が必要

賃貸や自分の事業に使っていたという業務用の建物であれば、その不動産所得や事業所得の計算上減価償却費を控除しているので、建物を譲渡した時にその減価償却累計額を取得価額から差し引いた金額を取得費とする理由は理解できます。

しかし、自宅や別荘など非業務用の建物であっても、価値減耗分の金額を差し引かなくてはなりません。

この理由は良くはわかりません。

おそらく、自宅=自分が店子の不動産投資として、本来であれば相場家賃を「自分から」もらい(「帰属家賃」といいます)、代わりに固定資産税や減価償却費というコストを負担した上でその損益は所得計算上なかったものとしているのだと思います。

なお、差し引かれる価値減耗分の金額は、減価償却費ではありません。「減価の額」といいます。

具体的には、その建物が業務用とした時の法定耐用年数を1.5倍した年数に応じた減価償却の累計額を取得価額から控除します。

1.5倍するのは、非業務用なので業務用よりは減耗するのが遅いという理由のようです。

いずれにせよ、不動産を譲渡した時の所得計算は、単純に買った時と売った時の価格だけを比較してはいけないということ。

譲渡所得の申告の有無についても、建物の「買った時の価格」は、減価償却や減価の額を控除したところで判断しないといけないのです。

No.3261 建物の取得費の計算(タックスアンサー)

居住用不動産の譲渡には3000万円の特別控除には要注意

なお、マイホームを譲渡し一定の要件を満たす場合、その譲渡所得の計算上3000万円の特別控除が可能です。

つまり、上記により計算される譲渡所得の金額が3000万円以下であれば、譲渡についての所得税・住民税は課税されないことになります。

ただし、この居住用不動産の特別控除を適用するには、確定申告をすることが要件となっています。

ですから、3000万円特別控除を適用すれば譲渡所得が0となるにしても、確定申告だけはしなくてはいけないのです。

また、この特別控除は「合計所得金額」の計算後になされるものなので、国民健康保険料の計算や所得税法上の扶養親族の判定は、この特別控除前の所得金額とされることに注意してください。

No.3302 マイホームを売ったときの特例(タックスアンサー)

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