軽減税率によるインボイス必須化は消費税導入以来最大の改正である

軽減税率導入のベースとなるインボイス

再延期されることなく平成31年10月に消費税率が10%に増税されたとすれば、同時に食料品と新聞の一部に軽減税率が適用されます。

この軽減税率を適正に運用するには、消費税を控除する際に、その支出が10%のものなのか8%のものなのかを明確にしなくてはなりません。

そのために、消費税の「仕入税額控除」の計算について、平成35年10月以降、従来の「請求書等保存方式」から「インボイス方式」への変更が予定されています。(平成28年度税制改正大綱より)

実はこの改正の影響は非常に大きく、消費税導入から30有余年の中で最も大きな改正になるかもしれません。

そこで、今回はインボイス方式についてまとめてみようと思います。

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帳簿方式からインボイス方式に*

平成31年10月の軽減税率導入当初は、経過措置として簡便的な経理処理方法が認められますが、平成35年10月からは本格的にインボイス方式(適格請求書等保存方式)に変更されます。

消費税は、課税売上に伴い預かった消費税から課税仕入れに伴い支払った消費税額を差し引いた金額を納税します。

インボイス方式とは、消費税の納税額を計算する際に、預かった消費税額から控除をする消費税(仕入税額控除)について、登録された「適格請求書発行事業者」が発行した「適格請求書」(インボイス)に記載された消費税額に基づき計算をする方式です。

現在の「請求書等保存方式」は、帳簿の保存に加え、取引の相手方(第三者)が発行した請求書等の保存を仕入税額控除の要件としているものの、請求書等に適用税率・税額を記載することは義務付けられていません。

単一税率であれば、これでも逆算(割り戻す)することで消費税額を求めることはできますが、複数税率ではそれが難しいということでインボイス方式が軽減税率導入の前提とされるわけです。

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出典:財務省

(実際には、現在でも税率変更により同一事業年度に複数の税率の課税仕入れが混在することもあり、別に請求書等保存方式でも軽減税率への対応が不可能ではないとは思います)

*消費税増税延期に伴い、インボイス方式への移行も当初の平成33年4月から平成35年10月に延期されました

免税事業者からの仕入れは仕入税額控除ができない

従来の請求書等保存方式であれば、支払い先が消費税の課税事業者であれ免税事業者であれ、同じように請求書等の総額から支払った消費税相当額を逆算し、その金額を預かった消費税額から控除をして消費税の納税額を計算することができました。

しかし、インボイス方式では、インボイスに記載された消費税額しか仕入れ税額控除ができません。

ところが、免税事業者は、インボイス発行が可能な「適正請求書発行事業者」としての登録ができず、インボイスが発行できないのです。

当然のことながら、免税事業者からの仕入れについては、消費税額の仕入税額控除ができないことになります。

そうなると、発注側としては、同じ金額(税込み)で発注をするのであれば、仕入税額控除の可能な課税事業者を選択し、免税事業者は除外をするはずです。

課税売上高が1000万円前後の事業者は、課税事業者と免税事業者を行ったり来たりすることで、その都度消費税が控除の対象になったりならなかったりするのであれば、発注側も混乱を生じることでしょう。

中には、免税事業者であっても、消費税額を上乗せして請求していた者もいるはずです。しかし、インボイス方式になれば、それはまずできません。

一方、免税事業者であっても、商品仕入れや事務所家賃、水道光熱費、通信費、消耗品費などの課税仕入れについては消費税額の支払いをしています。それを課税売上に上乗せした消費税額で吸収していた(時には益税になっていた)ものが、インボイス方式ではその消費税額の上乗せができなくなる。

つまり、課税仕入れに掛かる消費税額については、免税事業者の自腹での持ち出しになるということです。

消費税を上乗せしていた免税事業者にとっては、今までは益税だったものが自腹持ち出しになるのですからエラい違いです。

公正取引委員会が「消費税が上がった分を転嫁させないような得意先は違反だから取り締まる」と”密告制度”までやっていたのに、これではそもそも消費税分上乗せできないじゃないかと。

消費税転嫁対策コーナー(公正取引委員会)

そうなると、免税事業者のほとんどは、届出をすることで課税事業者になることを選択するはずです。(実際にインボイス方式を採用している国ではそうなっている模様)

結果的に消費税の免税事業者制度は、ほとんど課税仕入れのないフリーランスなど以外、誰も選択しない制度になることでしょう。

インボイス方式で経理処理の手間は確実に増える

課税事業者になれば、インボイスを発行するのに特別のソフトウエア等の購入が必要であり、その発行の手間やコストは小規模事業者には痛手です。

(インボイスを発行しない免税事業者であれば良いのでしょうが、自腹での消費税負担を回避するため、小規模事業者でも課税事業者を選択しているはずです。)

インボイスを受け取る側も「勘定科目ごとに消費税の控除方式を決定」していたものから、それだけではなく「相手先により消費税の控除方式を判断する」という経理方式へと大きな変更が必要になるでしょう。

通常は、費用の勘定科目やその内容によりグループ化した補助科目ごとに初期値となる消費税の控除方式を定めているはずです。そのほうが経理処理のミスも少なく入力スピードも上がりますから。

しかし、それに加えて相手先ごとによって消費税の控除方式(課税対象・課税対象外に加えて軽減税率適用の有無など)を判断するとなるとその分だけミスも多くなり手間も確実に増えるでしょう。

5年後には、領収証を読み取り仕訳を自動判定する技術も今よりずっと進化しているとは思いますが、どうせインボイス方式に移行するなら、その読み取り精度を下げないよう領収証のフォーマットを全事業者で統一ないし読み取りで消費税の控除額や方式を判定できるようにして欲しいところです。

このまま実施されず変更される可能性も

平成28年度税制改正大綱にも

軽減税率制度の円滑な運用及び適正な課税の確保の観点から、中小・小規模事業者の経営の高度化を促進しつつ、軽減税率制度の導入後3年以内を目途に、適格請求書等保存方式(インボイス制度)導入に係る事業者の準備状況及び事業者取引への影響の可能性、軽減税率制度導入による簡易課税制度への影響、経過措置の適用状況などを検証し、必要と認められるときは、その結果に基づいて法制上の措置その他必要な措置を講ずる。

という記載がなされており、小規模事業者への悪影響が大きい場合には、経過措置とされた簡易的な「みなし計算」が温存されるなどの措置が講じられるかもしれません。

なにせ、消費税導入を円滑にするために設けられた免税事業者制度や簡易課税制度が30年近くもずっと残っているのですから。

いずれにせよ、軽減税率に30年余り続く消費税の仕入税額控除の抜本的な仕組みを変えるほどの意義があるのかは、大きな疑問があります。

税制改正大綱では、軽減税率とセットで語られていますが、あくまでもインボイスは、今後の消費税率アップで見過ごせなくなった益税を排除するための措置として軽減税率とは別に理解することが必要なようです。

軽減税率ばかりに注目が集まっていますが、実はその裏で特に免税事業者にとって大きな消費税改正が予定されていることを覚えておいてください。

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