銀行員が読む「粉飾決算の見抜き方」の教科書から学ぶ、銀行が決算書を疑うポイント

コツさえわかればすぐ使える 粉飾決算の見分け方

銀行員向けのテキストは街でフツーに入手できる

銀行研修社、きんざいなどの出版社から出されている銀行員がその基礎スキルを学ぶための”教科書”は、都心の大手の書店であれば一つのコーナーになるほど多くのものが並んでいます。

融資渉外や財務、税務などの検定の教科書などから信用保証の取り扱い、果てはセールストーク集まで。

それらを読むと、銀行が融資をする際にどんな行動原理で物事を判断しているか、決算書をどの様に見ているのかなどを知る手がかりになるでしょう。

さて、融資を申し込む企業の決算書の中には、融資審査で有利になるよう何らかの粉飾が加えられていることもあります。

それをそのままで判断していては、正しい与信管理ができないので、銀行もそれらの粉飾を見抜き、真の姿に補正をした上で融資可否の判断をしています。

そこで、今回は「銀行員向けの粉飾決算の見抜き方」のテキストから銀行がどんなことに注意しながら会社が提出した決算書を見ているのかを学んでみようと思います。

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決算書は損益計算書よりも貸借対照表重視

財務分析のテキストでは、売上総利益率、売上高経常利益率など、「損益計算書」の分析に比重が置かれていることが多いものです。

しかし、実際には、銀行は、会社の財政状態を表す「貸借対照表」のほうを重点的に見ています。

どのような比重で決算書をみるかというと、「資産が6、負債が3、損益計算書全体で1」くらい。

これは、銀行が融資したお金が踏み倒されることなく回収できるのかを見るためにその会社の財産の換金価値を重視していること、損益計算書の利益自体が貸借対照表上の資産等の評価額によっていくらでも変わってしまうものであること、そしてその資産によって粉飾がされやすいことが原因だと言えるでしょう。

もちろん、損益計算書による利益をベースにした財務分析も行われますが、その前に提出された決算書について貸借対照表を中心に、正しいと思われるものに補正がされているということなのです。

では、具体的にどんな点を注意せよと書かれているのかを教科書から見てみます。

”粉飾三点セット”を見抜け

粉飾=利益の水増しをするのに、手っ取り早いのは売上総利益(粗利益)を水増しするということです。

売上総利益は、

・売上総利益=売上高ー売上原価

であるので、売上総利益を増やすには、売上高を増やすか、売上原価を減らせばいい。

売上原価は、

・売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高ー期末商品棚卸高

ということから、売上原価を減らすのであれば、当期商品仕入高を減らすか、期末商品仕入高を増やせばいいということになります。

しかし、これらの粉飾をするのに現預金(キャッシュ)が絡んでしまうとその残高が合わなくなってしまいます。

そのため、これらの利益水増しをする場合には、キャッシュの移動を伴わない伝票や評価だけの調整で済むものが選ばれやすいのです。

具体的には、

・まだ納品が完了しておらず来期に計上すべき売上高なのに「売掛金の水増し」

・既に納品を受けている仕入れなのに「買掛金の未計上」

・実際には価値のない商品について「在庫金額の水増し」

という3つの方法が用いられます。

これらの粉飾の形跡はきっちりと売掛金、買掛金、商品の残高として貸借対照表に残ります。

しかし、これらの残高を単独で見ても、金額が正しいものなのか水増しされたものなのかはわかりません。

そこで、推移をみます。つまり、過去の金額と比較をするのです。

(1)売上債権の変化をチェックせよ

得意先に対する未回収の販売代金等を「売上債権」(売掛金、受取手形)といいます。これらは回収期間が両社間の契約により定められています。

つまり、回収期間が変更されない限り、一定割合で売上高が増えれば売上債権も増え、売上高も減れば売上債権も減る。

なので、売上債権を平均月商で割った「売上債権回転期間」はほぼ変わらないはずです。

・売上債権回転期間=売上債権/平均月商

この売上債権回転期間を三期間で比較をとってみます。もしこの期間が異常に長くなっていた場合、売り上げの伸び以上に売上債権が増えているということ。

これは、回収できない不良債権が発生しているか、利益計上のための架空の売上高が伝票だけで計上されている可能性があるといえます。

(2)買入債務の動きをチェックせよ

仕入先等に対する未払いの金額を「仕入債務」(買掛金と支払手形)と言います。

仕入債務も売上債権と同様に支払期間は契約で決まっています。そのため、支払期間が変わらない限り、一定の割合で取引量が増えれば仕入債務も増え、取引量が減れば仕入債務も減る。

ですから、売上債権回転期間と同様に仕入債務の残高を平均月商で割った「仕入債務回転期間」の三期間の変動を見て、急激に回転期間が短くなっている場合は、粉飾の可能性があります。

・仕入債務回転期間=仕入債務/平均月商

なぜなら、当期の仕入れを減らし利益を確保するため、最終月末分の買掛金や支払手形の一部を故意に過少に計上している可能性があるからです。

(3)在庫金額の変化をチェックせよ

売上債権や仕入債務以上に粉飾しやすい項目があります。

それは棚卸資産(在庫)です。

なぜなら、外部からの検証がしにくいことと、架空売上高計上や買掛金未計上のような粉飾の場合、その分当期の消費税の支払額が増加してしまうのに対し、この棚卸資産の粉飾ではそのような影響がないからです。

やはり在庫金額を平均月商で割った「在庫回転期間」を三期間比較してみて、その回転期間が大きく伸びている場合には、同様に粉飾か不良在庫の発生の可能性が大きいといえます。

 ・在庫回転期間=在庫/平均月商

(4)粗利益率を合わせてチェックする

これらの回転率に異常があれば粉飾の疑いあり。

ここにもう一つの状況証拠が加わると”真っ黒”です。

その状況証拠とは「粗利益率」

通常、売上高が減少しているとなんとか売上高を確保しようと値下げをしたりバーゲンをしたりということを考えます。つまり、粗利益率は下がることのほうが多いのです。

これが逆に売上高は減少しているのに粗利益率も異常に改善されている場合、架空売上高や在庫の水増し計上、あるいは仕入債務の故意の未計上の可能性は非常に高いといえます。

こんな決算書を出しておいて「なぜ、売上高は減少しているのに粗利益率が下がっているのか?」と銀行から聞かれると「不採算の得意先や商品の売り上げが減ったから」などということが多いですが、銀行は「はいはい、またか。嘘つけ」と思って聞いています。

ですから、もし本当に不採算部門からの撤退などをする場合には、その時点で銀行に報告をしておいたほうがよいでしょう。

資金ベースを重視せよ

実は、決算書の信憑性が高くない場合でも、会社の経営状態を比較的良く表している指標があります。

それは「経常収支比率」です。

経常収支比率とは、通常の営業活動からの経常収入とそれらを獲得するために支出した経常支出との割合で示されます。

・経常収支比率=経常収入/経常支出×100

例えば、本当は赤字なのに融資を引き出すために売掛金や在庫を水増ししたり買掛金を故意に落としたりしてなんとか黒字にしたとします。

このような状態だと損益計算書から計算される経常利益は黒字なのに、実質的には赤字なので、経常収支比率は100%を下回るということが多くなります。

もちろん、そこだけをみて粉飾とはいえませんが、売上高経常利益率と経常収支比率(この場合は100%からのプラスマイナスの率)に大きな差があれば、やはりおかしい。

いずれにせよ、この比率が100%を超えていれば経常収入が経常支出を上回っているため資金繰りは安定しており、100%を切っていれば本業での資金繰りに不安があります。

この比率が105%を超えれば優良企業、95%を切ればかなり資金繰りは厳しく、三期連続で95%を切っていると相当資金繰りは逼迫しているはずです。

その他の資産はほとんど価値なし

売上債権、棚卸資産以外の資産の中で特に注意が必要なのは、仮払金と開発費、そして貸付金です。

仮払金や開発費については、実際には「支払い済みの領収証の塊」のようなものであり、換金価値などないといえます。

本来当期の費用とすべきなのにそれでは赤字になるので無理やり仮払金や開発費とした粉飾である可能性もあります。

さらに貸付金は、その発生自体を問題視しています。

これは利益をなんとか確保しようと社長の役員報酬を下げたものの生活費が足りない分を引き出したり、実際には会社の経費なのに損金にすると赤字になるので社長個人が負担したことにするなどにより発生することも多く、そのようなケースでは回収可能性はほとんどありません。

それ以前に、いくら融資をしてもどこか別のところでお金が使われるというのであれば、そんな会社には怖くて融資はできないことになります。

そのため、決算書に貸付金の記載があると「その発生の理由とどのようにして解消するのか」という問い合わせが銀行からよくされるのです。

いずれにせよ、「その他の資産」はバッサリないものとして財政状態や経営成績は見られていると思って間違いないでしょう。

損益計算書は営業外損益をチェックせよ

損益計算書は、通常の営業活動による損益である営業利益だけでなく、営業外損益もチェックせよと。

ある銀行員向けに書かれた教科書によると、

「雑収入の中には、有価証券売却益や関係会社からの手数料などが考えられるが、それらの金額が経常利益の大半を占めている場合には、まず、実質的には赤字と思って間違いない。

雑収入を計上して何とか経常利益を出そうとしている場合が多いのだ。

そのため、雑収入が経常利益の70%以上の場合、粉飾の可能性が高い」(コツさえわかればすぐ使える粉飾決算の見分け方|都井清史著)とのことです。

実際のところは、「本業で利益が出ておらず、このままだと経常赤字になってしまうのを回避したい、それも出来ればそんなに税金は支払いたくない」という中でなんとか益出しできるものを探し少額の利益を確保したものもあり、すべてが数字を仮装するような悪意の粉飾ではないとは思います。

それでも「銀行の判断は、本業では儲かっていないというものだ」と言われれば、そのとおりだと言わざるをえないでしょう。

減価償却費の過小計上に注意せよ

正規の減価償却費を計上すると赤字になってしまうので、減価償却費を過小に計上したり、減価償却そのものをしていない場合もあります。

これは、実は税務上は認められた処理です。そのため、税理士の中にも「減価償却を調整することで利益を確保することに問題はない」と思っている人もいます。

しかし、これでは適正な損益計算の比較ができないため、銀行は粉飾の一つとして理解しています。そのため、固定資産台帳や過去の減価償却額の推移もチェックしています。

そもそも融資の可否を判断する際の「返済財源」の金額については、「税引き後当期純利益+減価償却費」として計算されることが多いので、融資のために減価償却費を減らして利益を確保することはあまり得策ではないでしょう。

こうやって銀行員向けの教科書を見てみると、小手先で決算書の数字をいじっても、銀行はきちんと補正をした上で財務分析を行っているということがよくわかりますね。

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