役員退職金を生命保険で準備をすると99%損をする

ケチな社長はなぜお金を残せないのか?

まだやってたのか、こんな提案

バブル時代に全盛を迎えた「全額損金型の生命保険を活用した役員退職金プラン」

その後の税制改正で繰延効果も少なくなるものの、手を変え品を変え、ますます実需に合わない生命保険を使ってまだやってたんですね。

繰り返し本などにも書いていますが、保険には、発生確率が極めて少ないが発生した場合の損失が大きい場合、それに備えて資金を準備しておくと資金を寝かせてしまうことになるのに、その損失に対する備えを資金を備蓄する時間を掛けることもなくすぐに”切り離す”ことができることには大きな効果があります。

その反面、運営コストが極めて高いので、保険は、万一損害を生じた時に一人ではカバーすることができない損失に備えて「損を承知で」渋々加入するものであり、発生確率の高い退職金の準備には本来向いていません。

私の本の中では15冊中2冊のみの初版止まりでひとっつも売れずに”終わった本”ですが、大事なことなのでその意味をここで転載しておきます。

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Q: 自分の退職金の準備をするなら、生命保険に加入をする?定期積金する?

A:生命保険に節税効果はない。無駄に資金を寝かさないためにも退職金は定期積金で準備をする

生命保険で節税しながら貯金という考えのここがおかしい

保険には保障の機能がついているのだからお金が減るのは当然のこと。

ただ、「うまく保険を活用すれば節税になって結果的にお金が増える」ということがまことしやかに言われています。

そのため、社長の退職金を生命保険で準備をするという節税対策が取られることが多いでしょう。

いわゆる掛け捨て型(定期保険)は原則として、掛けた時点で会社の損金になります。

ただ、特定の保険商品の場合、掛け捨てのはずなのに、掛け金の中に実際に必要な保険料を上回る前払い分が含まれているため、解約返戻金が生じる保険があります。

何度も税制改正による狙い撃ちがあり、かなり条件は厳しくなりましたが、今でも「保険料を掛けた時に損金にしながら、いざというときには解約返戻金が手にできる」という保険商品はあるのです。

その節税保険の効能として次のような説明がされることがあります。

保険料を100万円支払って損金にする。利益が100万円減るのでその税金を約35%としても35万円の節税になるので実質の保険料負担は65万円。

解約返戻金のピークが80万円だとすると100万円の保険料を支払っても80万円しか帰ってこないのであれば、その解約返戻率は80%で「元本割れ」のように見えるが、実質65万円の負担で80万円帰ってくるならその「実質返戻率」は約123%になる。

保障機能もついた上に、節税にもなって高い利回り。これなら、社長が生命保険に加入したくなるはずだ。

この話のどこがおかしいのでしょうか?

一言で言えば解約返戻金に税金が掛かるということを無視しているということです。

解約返戻金80万円も収益ですから税金約35%が掛かります。つまり、解約返戻金の手取りは52万円(80-80✕0.35)なわけです。

すると実質65万円の負担で52の解約返戻金の手取りですから、やっぱり「元本割れ」で解約返戻率は80%(52÷65)に戻ります。

要するに、保険料を掛けた時点で税金の支払が減った分が、解約返戻時に増えて元に戻ったということ。

つまり、生命保険により節税になったと思われていた分は、実はその税金の支払期限が延期されたのに過ぎないということなのです。

こういう節税対策を私は「繰延型節税」と言っています。

実は、世の中で言われている合法的な節税対策の90%くらいは、この繰延型節税なのです。

たとえ掛け金と同じ金額の解約返戻金であってもこんなに損である

社長の中には、「今は儲かっていても将来儲かるかは不透明。だから今は税金を払いたくない。掛けた金額分だけでもいずれお金が帰ってくるのであれば、たとえ単なる税金の支払期限の延期であっても、十分価値はある」という方もいるでしょう。

しかし、そもそも、今手に出来るお金と10年後に手にできるお金は同じ価値ではありません。

新規投資の損得判断のところで既に申し上げたように「将来受け取る100円は今持っている100円よりも価値は低い」のです。

相手が保険会社なので将来もらえるかどうかのリスクはあまり関係ないかもしれませんが、現在価値への割引率を低めの5%で見積もったとしても、10年後に受け取れる100万円の現在価値は約61万円(100万円÷1.629)の価値しかないことになるのです。

ですから、10年後に同じ金額を返してもらったとしても実は約4割も目減りした状態で返されているわけです。

そう言われて実感が無いとしても、保険料の支払いがなければ返済可能であった融資を受けていたら、その分の支払利息だけ余計にコストが掛かっているので、同じ金額だけ返されても損をすることは誰でもわかるはずです。

確かに、将来儲かるかどうかわからないと不安なら、いつでも使えるように手許のお金を厚くしておくべきです。そのために無駄な支出である税金の支払いを抑えたいというのはわかります。

ただ、税金を節約するよりも多くのお金を保険料として支払って手許のお金を薄くした上に早期に解約したら大きく目減りするというのは、将来の不安への蓄え方としては本末転倒です。

節税は無駄な支出を減らして手許の資金を厚くするための手段のはずなのに、その節税が目的化して手許の資金を薄くしてどうするのでしょうか。

税引き後の利益でお金の準備をするのは本当に大変なのか?

将来の退職金の準備のために生命保険加入を勧める際に次のようなことが言われることがあります。

もし、同じ金額を支払うために定期積金で準備をしようとするなら、税引き後の利益で積まなくてはいけないものが、生命保険なら損金に計上しながら退職金の準備が出来る。

例えば、役員退職金のために1000万円を10年掛けて積み立てる。毎年必要な積立額は100万円。

生命保険ならば支払い時に約35%の税負担が軽減されるので、毎年100万円保険料を支払ったとしても、税金が35万円減るので実際の支出増は65万円で済む。

それを定期積金でやろうとすると税引き後のお金で毎年100万円のお金を積み続けなくてはいけないから大変だ。

でも、本当にそれだけのお金を準備しなくちゃいけないのでしょうか?

役員退職金を支給した時に、その金額は原則として全額が会社の損金となりその分だけ税負担が軽減されます。

つまり、役員退職金を支払った時に1000万円から350万円の税金が差し引かれるのですから、本当に退職時に積み立てておくべき金額は650万円(100万円-35万円)で良いことになります。

それであれば、毎年掛けるべき定期積金の金額は65万円(650万円÷10年)で、負担すべき毎年支出は保険の時と同じになるのです。

定期積金だと税引き後の利益で退職金の原資を捻出しないといけないので生命保険よりもしんどいというのは明らか間違いだとわかるでしょう。

—退職金を一気に支払ったら、その年の利益を圧迫する。生命保険なら退職金の負担を決算書上毎期に振り分けられるだろう。

確かに掛け金が費用になる生命保険にはそのような効果はあります。

しかし、それであれば、役員退職についての「引当金」を毎期計上すればよいでしょう。

引当金とは、将来発生する損失について事前に費用として見積計上することです。

もちろん、役員の退職金に対する引当金は損金にはならず税金の負担は減りませんが、決算書上は、保険料支払と同様に毎期引当分だけ分割して計上は可能なのです。

—いや、万一退職時に儲かっていなかったら役員退職金支給で赤字になるだろう。そうしたら節税効果はなくなるから、十分な退職金が支払えないはずだ。

確かにそうでしょう。でも、万一赤字になれば、その赤字は翌期から9期間繰り越されますし、場合によっては前期の法人税が繰戻還付されることもあります。

それだけの期間があれば、かなりの部分の赤字は相殺できるはずです。

どうしてもその期間をもってしても赤字が解消しきれないのであれば、その後の役員報酬を大幅に減らすことで、利益は確保される上に、役員報酬に対する所得税・住民税の負担は大きく軽減されるでしょう。

定期積金だとその後9期間ではどうやっても解消できないような大赤字になるような役員退職金支給には不向きということになりますが、それだけ業績が長期間低迷すると予測されるようであれば、たとえ保険の返戻金を受け取ったとしても役員退職金を減額するのではないでしょうか。

生命保険に加入しないでも退職金の節税効果は受けられる

いやいや、解約返戻金のピークで役員退職金を支給する。そうすれば、解約返戻金と役員退職金は相殺されて法人の利益は増えない。結果的に、保険料の掛け金が損金になって税金が減った分だけ得をするだろう。法人税の税率は約35%なのに、役員退職金であれば、税負担は大幅に軽減される。だから生命保険による役員退職金の節税対策は効果があるという反論も聞こえてきそうです。

確かに、退職金については通常の役員報酬よりもはるかに税負担が軽減されています。

しかし、その効果は、生命保険の節税効果ではなくて役員退職金の節税効果です。

生命保険に加入しなくても受けられるメリットを生命保険による節税のメリットと混同してはなりません。

意思決定による損得計算のところでも説明をしましたが、その行為の損得を考える際には、その行為を行った場合と行わなかった場合の将来の増分現金流入を比べなくてはなりません。

生命保険加入の節税効果を検証するのであれば、生命保険に加入して退職金を支給した場合と生命保険に加入せずに退職金を支給した場合で比較をしないと意味が無いのです。

結果的に、支払期限延期効果しかない生命保険に加入しても、多額の生命保険会社の事業経費分だけ差し引かれた上に現在の価値よりも低い金額が戻されるすぎないことになるのです。

このような全額損金型の生命保険を活用した役員退職金プランの他にも、実需に合わないような保険の加入形態を工夫したりした節税手法や法の網目をくぐるかのような節税用の保険が次々と発売されていますが、法規制とのいたちごっこを繰り返してきています。

保険での節税対策が効果を発揮するまで長い時間が掛かるなか、国はいつでも税制を改正することができます。試合の途中でこちらが上げたゴールを「今のゴールはなし」と勝手にルール変更が出来るような相手とサッカーの試合をしているようなものなのです。

特に国が予測していないような節税効果があがる商品こそ規制の対象になりやすいことを忘れてはいけないのです。

◆お金を残す鉄則

 保険による法人税節税効果は幻想のようなもの。金融商品を本来の目的以外で利用しようとするとお金を減らす。

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