個人型確定拠出年金と小規模企業共済に加入している社長は退職金の支給時期に注意しよう
目次
社長にとって現状で最強の節税は退職金でもらうこと
所得水準の高いオーナー社長にとって、法律上の効果も安定的で節税効果の大きいものに退職金支給があります。
退職金でもらうと、勤続年数に応じた退職所得控除を差し引いた上で1/2にした金額を他の所得と合算することなく分離課税(低い税率で済むことが多い)とすることができるのです。
なお、もらった時に退職所得となるものには、自分がオーナーの会社からの退職金だけでなく、小規模企業共済や確定拠出年金もあります。
今回は、これらを重複してもらうとどうなるのかについてまとめてみようと思います。
小規模企業共済と個人型確定拠出年金
(1)小規模企業共済
小規模企業共済は中小企業基盤整備機構が運営する個人事業主や会社役員などが対象者の退職金準備のための制度です。
掛け金は月額一人70,000円まで、受取共済金額は加入時期により確定しています。
メリットは
・掛金は、小規模企業共済等掛金控除として支払額全額が個人の所得控除の対象
・受取共済金は、一時金なら退職所得、年金なら公的年金等雑所得として優遇
デメリットは
・解約共済金の場合、掛金納付期間が240ヶ月以内だと”元本割れ”も
・運用益は定期積金以下レベルで、「現在価値」に割り引くと実質的に目減りすることもある
ということです。
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(2)確定拠出年金(個人型)
確定拠出年金(個人型)は、給付される年金額が運用成績により変動する、いわば「変動給付」年金のことであり、運用方法については自らが選択することはできます。
第一号被保険者である自営業者等であれば、掛金は月額68,000円まで(ただし、「確定給付型」の国民年金基金と合わせて)で小規模企業共済との重複加入も可能です。
メリットは
・掛金は、小規模企業共済等掛金控除として支払額全額が個人の所得控除の対象
・受取金は、一時金なら退職所得、年金なら公的年金等雑所得として優遇
・運用時の利益については非課税のまま再投資が可能
デメリットは、
・運用成績によっては”元本割れ”のリスクあり
・掛金の減額は可能だが、脱退しても一時金支給には厳しい制約あり
・年金受給開始時期は加入期間に応じ60歳以降のみ
というものです。
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小規模企業共済も確定拠出年金も、制度の目的は老後資金の準備を支援するということであり、そのために「掛金は全額所得控除」「もらうときは退職金」として税負担を軽減しているのです。
重複して退職金をもらうと退職所得控除の制限が
退職所得については、勤続年数に応じた「退職所得控除」を差し引いた上で1/2をした金額を他の所得と合算することなく分離課税により税額が計算されます。
この退職所得控除は、勤続年数20年までは1年につき40万円、勤続年数20年を超えた部分については1年につき70万円です。(1年未満の年数は切り上げ)
そのため、退職所得控除については
・勤続年数20年まで
40万円☓勤続年数
・勤続年数20年超
(勤続年数-20年)☓70万円+800万円
では、同じ年度に複数の退職所得を得た場合にはどうなるのでしょうか?
すべての退職金についてそれぞれの勤続年数に応じた退職所得控除を差し引くことができるわけでありません。
一定期間内に重複してもらった退職金については、勤続期間が重複している部分の退職所得控除は差し引くことができないのです。
あとからもらった方の退職金についての退職所得控除額は、次のように計算します。
1.前回もらった退職金がその勤続年数に応じた退職所得控除を控除しきれた時
(1)勤続年数に応じた退職所得控除額
(2)重複期間を勤続年数として計算した退職所得控除額
(3)今回の退職所得控除額=(1)-(2)
2.前回もらった退職金がその勤続年数に応じた退職所得控除を控除しきれていない時
(1)勤続年数に応じた退職所得金額
(2)重複期間を以下の算式*で計算した年数とした退職所得控除額
(3)今回の退職所得控除額(1)-(2)
*「重複期間の年数」
前回もらった退職金が800万円以下
前回もらった退職金額÷40万円(1年未満切り捨て)
前回もらった退職金が800万円超
(前回もらった退職金額-800万円)÷70万円+20年(1年未満切り捨て)
となんだかよくわからないですが、ポイントは、一定期間内に複数の退職金をもらうと
・それぞれに退職所得控除が満額控除できるわけではない
・前回の退職金から控除しきれていない退職所得控除があってもそのまま繰り越されるわけではない
・退職所得控除に制限はあっても「1/2軽減」と「分離課税」は適用できる
ということです。
重複すると制限を受ける期間は小規模企業共済と個人型確定拠出年金では異なる
「一定期間内」に重複してもらうと退職所得控除に制限があるとのことですが、ではその「一定期間」とはどれくらいなのでしょうか?
原則は、「同じ年とその前年4年間」です。つまり、複数の会社から退職金を受け取るのであれば、5年以上期間を開けてもらったほうが、退職所得控除の制限はなく税負担は小さくて済むということです。
小規模企業共済も、同様に取り扱われますので、小規模企業共済を受給した際には、それから5年間以上期間をかけてから他の退職金をもらったほうがよいわけです。
厄介なのは、確定拠出年金です。こちらの退職所得の制限がある「一定期間」は「同じ年とその前年14年間」なのです。
ただ、制限を受ける期間は「前後◯◯年」ではありません。
ですから、制限を受ける期間の長いものから先にもらうことで、重複による退職所得控除の制限を回避することも可能になります。
例えば、確定拠出年金は60歳で満期となり原則はその時点で支給がされます。この時は何ら制約なく勤続年数(加入期間)に応じた退職所得控除を差し引くことができます。
その後65歳になった時に老齢給付として小規模企業共済を一時金でもらっても、小規模企業共済は「同じ年とその前年4年間」に他の退職金をもらっていなければ、そこから差し引く退職所得控除の金額に制限はありません。
つまり、小規模企業共済についても満額の退職所得控除を差し引くことが可能です。
さらに、70歳以降に自分がオーナーの会社からの退職金をもらえば「同じ年とその前年4年間」には他の退職金はもらっていないので、ここでも満額の対象所得控除を差し引くことができるのです。
逆に言えば、確定拠出年金について運用非課税のメリットを継続しようと61歳以降に受給時期を遅らせたり、加入期間が10年未満であれば受給時期が61歳以降となるので、小規模企業共済の65歳での老齢給付と期間が重複し退職所得控除に制限が出る可能性があります。
また、小規模企業共済や確定拠出年金に加入している社長は、自分がオーナーである会社からの退職金支給時期によっては、せっかくの退職金についての税制優遇措置を小さくしてしまうこともあるということです。
ですから、目の前の会社の業績だけでなく、他の退職金とされる受給額との全体のバランスを考慮して、会社からの退職金の受給時期を定めるようにしたほうがよいでしょう。
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