消費税の控除方式の選択で税額に大きな差が!個別対応方式と一括比例配分方式

 

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事業者は本来消費税を負担せず

消費税は、最終消費者がその負担をします。事業者は、本来消費税の負担はしていません。

最終消費者に物やサービスを届ける事業者は、売上代金とともに「預かった消費税額」からその売上高を獲得するために掛かった経費等とともに「支払った消費税額」の差額を精算するために国に納税しているにすぎないのです。

しかし、「支払った消費税額」がすべて「預かった消費税額」から控除することができるわけではありません。

この「控除対象消費税額」の計算には大きく分けて2つの方法があり、どちらを選択するかによって消費税の納税額が大きく変わることがあります。

そこで、今回は、控除対象消費税額の2つの計算方法についてまとめてみたいと思います。

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控除できる消費税額は課税売上に対応する部分のみ

消費税の課税対象となる売上高等のことを「課税売上」、消費税が非課税となる売上高等のことを「非課税売上」といいます。

国内での事業者による物の販売やサービスの提供のほとんどはこの課税売上ですが、利息の受取や土地の譲渡や賃貸収入、医療行為や教育、そして居住用物件の賃料などは非課税売上となります。

消費税の納税額は「預かった消費税額」ー「支払った消費税額」ですが、支払った消費税額(課税仕入に係る消費税額)のすべてが控除できるわけではありません。

控除ができるのは、「課税売上に対応する部分」のみなのです。

つまり、一般的な商品の販売やサービスの提供のためになされた支出である仕入れや手数料の支払いについては、課税売上に対応するものとしてその支払った消費税額は控除が可能です。

しかし、居住用の物件の賃料を得るために支出された建物の取得費や修繕費などは、非課税売上に対応するものとしていくら消費税を支払ったとしても消費税額の控除ができないのです。

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では、「課税売上と非課税売上に共通して対応する部分」はどうすればよいでしょうか?

例えば、その会社が事業用の物件と居住用の物件を賃貸していた場合、課税売上も非課税売上もあることになります。

そのオフィスの賃料や水道光熱費など一般的な管理費はそのどちらにも共通して対応しているはず。

この「共通対応部分」については、課税売上と非課税売上の割合に応じて按分することになります。

この全体の売上高に占める課税売上の割合のことを「課税売上割合」といいます。

課税売上割合=課税売上高/課税売上高+非課税売上高

つまり、共通対応部分については、その支払った消費税額に課税売上割合を掛けた金額だけ消費税額を控除できるということです。

個別対応方式と一括比例配分方式

(1)個別対応方式

支払った消費税額について、それぞれ「課税売上に対応するもの」「共通対応するもの」「非課税売上に対応するもの」に分けて控除対象消費税額を計算する方法を「個別対応方式」といいます。

そして、課税売上に対応する部分の消費税額はすべて控除し、共通対応する部分の消費税額については課税売上割合を掛けた金額が控除対象となります。つまり控除対象額は次のようになります。

個別対応方式の控除対象消費税額

=課税売上に対応する部分の消費税額+共通対応する部分の消費税額☓課税売上割合

この方法が原則的な計算方法です。

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(2)一括比例配分方式

個別に経費等を「これは課税売上に対応する、こっちは非課税に対応する、いや共通に対応するかな」と分けるのは面倒くさいものです。

そのため、一々個別に支払った消費税額を分けることなく、課税仕入に係る消費税額(支払った消費税額の総額)に課税売上割合を掛けた金額を控除対象消費税額とする方法も特則として認められています。

このような方法を「一括比例配分方式」と言います。こちらの控除対象消費税額は次のようになります。

一括比例配分方式の控除対象消費税額

=課税仕入に係る消費税額☓課税売上割合

なお、この方法を選択するために特に事前の承認手続きは要らず、申告書に一括比例配分方式を選択した旨を表示すれば良いのですが、一度選択をしたら最低二年連続で適用をしなくてはいけないという”縛り”があります。

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仕入税額控除の計算方法(タックスアンサー)

マンションの消費税還付も一括比例配分方式で堂々と

一般的な事業者は課税売上割合はほとんど100%であり、非課税売上自体あまりありません。

そのような事業者が、個別対応方式を選んでも一括比例配分方式を選んでもそれほど消費税の納税額に差はありません。

しかし、そのような事業者であっても、ある設備投資をした場合には、控除額の計算方法の選択で大きく消費税の納税額が変わることがあるのです。

それは、非課税売上に対応する多額の設備投資をした時。

その最たる例が、居住用のマンションを建設・取得したときです。

居住の物件の賃料については非課税なため、その居住用物件の取得に要した費用は非課税売上に対応するものとなります。

個別対応方式であれば、消費税額の支払いをしていても、非課税売上に対応する部分は一切控除対象とはなりません。

しかし、一括比例配分方式であれば、その消費税額が課税対応なのか非課税対応なのかはお構いなしに課税仕入に係る消費税額の総額に課税売上割合を掛けた金額だけ控除対象となります。

もちろん、その居住用物件の賃料しかなければ、売上高はすべて非課税売上であり、課税売上割合も0%となるので、どちらにせよ、消費税額の控除はできません。

そこで、建物の引き渡しの日の課税期間だけ、自販機の売上(課税売上)を計上して、課税売上割合を上げる「自販機スキーム」という租税回避行為が横行しました。

本来、その控除をした事業年度以降3年間の課税売上割合が著しく減少していた場合には、その控除された消費税を返還しなくてはならないという”関所”がありますが、その手前で簡易課税選択や免税事業者となることでその関門をすり抜けることができたのです。

課税売上割合が著しく変動した変動したときの調整(タックスアンサー)

しかし、二度の税制改正により、その抜け穴は封じ込められています。

1000万円以上の設備投資をしたらしばらく簡易課税は選択できないこともー高額特定資産取得の消費税の特例

ただ、課税売上割合は高く、元々多額の課税売上高のある会社であれば、居住用の物件の賃料が多少上乗せされたところで、課税売上割合はそれほど下がりません。

それに、課税期間の課税売上高が5億円以下の場合、「課税売上割合が95%以上であれば100%とみなす」という「95%ルール」を適用することも可能です。

そのため、元々課税売上高の金額も多く課税売上割合の高い事業者であれば、一括比例配分方式を適用することで、その居住用物件の取得に係る消費税額のすべてかほとんどを控除することも可能になるのです。

課税売上割合がその後も大きく変わらないのであれば、控除を受けた消費税額を返還する必要もありませんでした。

しかし、今度は、金地金の転売を繰り返すことで課税売上割合を高めて消費税の仕入税額控除を図るという租税回避行為が横行したため、とうとう1000万円以上の貸付居住用建物については、その仕入税額控除ができなくなったのです。

1000万円以上の居住用建物の消費税仕入税額控除禁止の衝撃|役員社宅の取得にご用心

 

学校法人などの事業用賃貸物件の取得は個別対応方式で

学校法人の収入の大半は授業料であり、その売上は非課税売上となります。

つまり、通常課税売上割合は非常に低いことが多いです。

そのような学校法人が、収益事業として事業用の賃貸ビルなどを取得した場合に、個別対応方式であれば、その事業用賃貸物件の取得に要した消費税額は課税売上対応部分なので全額控除が可能です。

しかし、うっかり前期や当期に一括比例配分方式を選択してしまうと、その金額に非常に低い課税売上割合を掛けた金額しか控除ができなくなってしまいます。

実際に、前任の税理士が誤って”計算”をして1億円以上過小にしか還付を受けていなかったものを、”なんとか取り戻す”という作業をしたこともあります。

この個別対応方式でいくか一括比例配分方式でいくかという選択は、学校法人だけではなく、課税売上割合の低い医療機関や居住用物件メインの不動産賃貸業や土地の販売の割合が高い不動産業でも同様に注意が必要なのです。

個別対応方式、一括比例配分方式どっちが得?

では、個別対応方式と一括比例配分方式のどちらが有利なものなのでしょうか?

原則である「個別対応方式」ではなく、特則である「一括比例配分方式」に変更をしても、共通対応部分の控除対象消費税額は同じです。

つまり、課税売上対応部分の「課税売上割合以外=非課税売上割合」に応じる部分だけ控除対象消費税額が減る代わりに、非課税対応部分の「課税売上割合」に応じる部分だけ控除対象消費税額が増えるということに。

ですから、

 課税売上対応部分の消費税額☓非課税売上割合<非課税売上対応部分の消費税額☓課税売上割合

であれば、あえて一括比例配分方式を選んだほうが良いことになります。

ただ、これは、実際に細かく計算してみないとわかりませんし、一括比例配分方式は二年間連続適用という縛りもあるので、翌課税期間の状況によってその選択が不利になることもあります。

つまり、どちらがよいのか実は選択時点ではわからない「神のみぞ知る」という面もあるのです。

消費税は、処理方法の選択によって大きく税額が変わる上に、事前にその選択方法の届出が必要であったり、一度特則を選択をすると原則に戻せない”縛りの期間”があったりと非常に難解で怖い税金なんですよね。

この先もっと消費税率が上がれば、その差も大きくなるので一層注意が必要になるでしょう。

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