確定拠出年金ならばどのくらい運用で元本割れをしてもトータルで損をしないのか?

節税メリットの多い確定拠出年金だが損をするのが嫌いな人には

掛金は全額所得控除等の対象で運用益は非課税な上に受け取った時には退職金や公的年金等として税負担が少なくて済むなど税制上の恩典の多い確定拠出年金。

ただ、「儲かった時の節税メリットが大きい」と言ったところで「損をするのが大嫌いな人」にはあまり響かないものです。

そんな方は、その「節税効果は確定拠出年金をすることで得をしたお金なので、その分までは仮に運用で失敗してもトータルで損をしない」と考えてみるのはいかがかなと。

そこで、今回は「損をするのが大嫌いな人」向けに、確定拠出年金であれば、どのくらいの運用による元本割れあればトータルで損をしないのか、そしてどのレベルのリスクの商品であれば投資を検討してもよいのかを見ていくことにします。

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損をしても良いお金=確定拠出年金による節税メリット

運用で損をしても、節税メリットのほうが大きければ、トータルでその確定拠出年金をやらないときよりもやったときのほうがお金は増えることになります。

では、その節税メリットはどのくらいの金額なのでしょうか?

これはその人の課税所得により大きく変わります。

正確には、確定拠出年金加入前と加入後の税金を比べればよいのですが、ザックリというと

・確定拠出年金掛金額☓課税所得に適用される「最高税率」(所得税・住民税・復興特別所得税)

ということになります。

所得税は累進課税であり、課税所得の金額に応じて”階段”のように適用される税率が上がります。

節税対策により課税所得が少なる場合、その効果が及ぶのは最も高い税率の階段です。

このもっとも高い階段の税率を「最高税率」と呼ぶことにします。

確定拠出年金の掛金は全額が所得控除の対象となります。所得控除が増えることでその分だけ課税所得が減る。ですから、その減った課税所得=確定拠出年金掛金にその課税所得に適用される最高税率を掛けた金額が確定拠出年金による節税効果なのです。

(所得控除により階段が一つ下がる場合、それぞれの階段ごとの金額にそれぞれの階段に応じた税率を掛ける必要があります)

では、具体的に最高税率はどのくらいなのか?

個人所得に対する税金は、所得税だけではなく、住民税と平成49年までは復興特別所得税も課税されますが、それぞれの課税所得ごとの最高税率は次のようになります。

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なお、課税所得は、年収そのものではなく、給与所得者であれば給与収入から給与所得控除を差し引いた「給与所得」から社会保険料控除や基礎控除などの「所得控除」を差し引いた金額です。

また、個人事業主であれば、売上高から必要経費を差し引いた「事業所得」から「所得控除」を差し引いた金額です。

例えば、年収1000万円の社長であれば、給与所得控除は220万円であり、社会保険料控除額などと基礎控除を合わせた所得控除が約180万円なので、課税所得は約600万円、最高税率は30.42%となります。

もし、第二号の被保険者として個人型確定拠出年金に上限の月額23,000円を掛けたとするならば年間で

・23,000円☓12☓0.3042=約83,900円

の節税メリットを得られるということです。

また、個人事業主であれば、個人型確定拠出年金の上限は67,000円となるので、同程度の課税所得600万円の場合には

・67,000円☓12☓0.3042=約244,500円

の節税メリットとなります。

つまり、この金額までなら仮に確定拠出年金の運用で損をしてもまだトータルで損はしていないことになるわけです。

課税所得が600万円前後の人なら、掛けた金額に対しては、30.42%も運用で元本割れをしてもまだトータルでは損をしないということ。

課税所得が4000万円超の人なら、なんと55.945%も運用で元本割れをしてもまだトータルで損をしないということになります。(管理手数料は除く)

これは投資をする上ではものすごい有利であるといえるでしょう。

ここまでのリスクならほぼトータルでは負けない

どうしても損をしたくないのであれば、確定拠出年金の運用先として定期積金などの元本確保型の商品を選択すれば良いでしょう。

しかし、確定拠出年金のメリットの大きなものに「運用益も非課税」というものがあります。確かに定期積金であれば運用で損をすることは絶対になく(管理手数料は除く)、確実に所得控除による節税メリットだけは得をします。

これだけでも確定拠出年金をやるメリットはありますが、せっかく「多少運用で損をしたとしても節税メリットという”かさ上げ”のお陰でトータルで損をしない」という有利な運用ができるのであれば、トータルで損をしない範囲での投資をして、運用益非課税というメリットを追い求めてもよいのではないでしょうか?

さて、元本が確保されていない運用先であっても、投資信託であれば、過去の運用成績から未来の運用成績のブレ幅はある程度予測ができます。

そのブレ幅については、「標準偏差」という結果のバラツキの特性を表す指標を用います。難しい理屈はひとまず置いておくと、投資の成果でもよく見られる平均値付近の出現数が最も多く平均から離れるにつれて左右対称に出現数が減るという普遍的な結果のバラツキ(正規分布といいます)であれば、

・平均からプラスマイナス標準偏差の間に結果が収まる確率は約68%

・平均からプラスマイナス標準偏差の2倍の間に結果が収まる確率は約95%

・平均からプラスマイナス標準偏差の3倍の間に結果が収まる確率は約99.7%

となります。

ここから、過去の平均リターンが年5%で標準偏差が15%の投資信託であれば

・+20%(5%+15%)から−10%(5%-15%)の幅で運用成績が収まる確率は約68%

・+35%(5%+15%☓2)から-25%(5%-15%☓2)の幅で運用成績が収まる確率は約95%

・+50%(5%+15%☓3)から-40%(5%-15%☓3)の幅で運用成績が収まる確率は約99.7%

ということになるのです。

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投資信託の運用成績のブレ幅を予測する

このことから、「損をするのが大嫌いな人」が悲観的にものを考えるとしても、

・せいぜい元本割れが生じるとしてもその10%の範囲内であることが多く、それを越えて損失が拡大するのは20%を超えて35%まで儲かる場合を含めて約32%の確率である。

・仮に25%もの元本割れをしたとしても、節税メリットが30.42%(課税所得が600万円の場合)あるので、トータルではこの投資によりお金は減らない。

・25%超も元本割れをするのは、35%超儲かることを含めて全体の約5%の確率であり、万一そうなるとしても全体の約99.7%は40%の元本割れの幅に収まるので、節税メリットと相殺すればトータルの損失はせいぜい元本の10%弱(40%-30.42%)にとどまる。

・トータルで10%弱を越える損失となるのは、全体の約0.3%の確率にすぎない。

と予測されるのです。

この不確かさ=リスクを受け入れる代わりに、平均で年5%のリターンで複利運用をする成果を期待できる上に、その運用益が非課税となるのであれば、損をする人が大嫌いという人であっても魅力的な資産運用方法となるのではないでしょうか。

ちなみに、カテゴリー別の過去5年間のリターンと標準偏差はモーニングスターにでています。

カテゴリー別のリスクリターングラフ|モーニングスター

所得水準の高い人ほど確定拠出年金による節税メリットも大きいですが、そもそもリスク許容度も大きいはずです。

それであれば、確定拠出年金をうまく使うことで「トータルで損をする確率を極小化しながら期待リターンを得て運用益非課税のメリットも受けられる」という財産形成にチャレンジしても良いのではないでしょうか。

「え?60歳までお金が引き出せないのは、万一お金を使わなくてはいけない事態になった時に困るから確定拠出年金には加入したくないですって?」

流動性を意識するのは大切なことですが、万一そんな事態になったら、そのときには、社長だったら、融資を受ければいいのではないでしょうか。

融資が受けられず「確定拠出年金に入っていなければ助かった会社が確定拠出年金に入っていたために会社が破綻した」などという確率は相当低いはずでしょう。

投資なので結果は誰にもわかりませんが、確率論に基づいた「期待値」で考えれば、稼いでいる社長にとって確定拠出年金は、相当得な気がしますけどね。

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