【異論】土地建物の金額を固定資産税評価額で按分する時の建物の消費税額の計算方法

土地と建物の金額が不明な場合には合理的な按分を

契約書上、土地と建物の金額が明示されず一括で金額が表示されている場合、それらの金額を土地と建物とに合理的な根拠にて按分しなければなりません。

その計算根拠の一つに「土地と建物の固定資産税評価額の比で按分する」という方法があります。

その方法を巡って、税務署に挑んでみたので、それを公開してみようと思います。

売主は土地が多い方が有利、買主は建物が多い方が有利

契約書に直接、土地・建物の金額が明示されていなくても、消費税額が表示されていれば、建物にしか消費税は掛からないので、その消費税額を消費税率で割り戻すことで建物本体の金額を計算することはできます。

しかし、個人からの買い取りを中心に総額だけを定めて土地建物の按分は売主、買主がそれぞれ行うという契約は意外と多いものです。

要するにお互いが有利になるような余地を残しているということでしょう。

その際、売主は譲渡に伴う消費税額の納税額を少なくするため、非課税である土地の割合が多いほうが有利であり、買主は消費税の納税額を少なくするためと将来の減価償却費額を多くするため、建物の割合が多いほうが有利となります。

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土地・建物の合理的と思われる按分方法とは

消費税の理念からすれば、売主、買主とも同じ金額でなくてはならないのですが、実務上は、売主・買主が異なった計算方法を採っていたとしても、それそれが合理的であると思われる計算方法に従っていれば特に修正を求められるようなことはないはずです。

では、具体的にはどんな方法があるのでしょうか?

消費税の基本通達では、

・譲渡時における土地及び建物のそれぞれの時価の比率による按分

相続税評価額固定資産税評価額を基にした按分

・土地、建物の原価(取得費、造成費、一般管理費・販売費、支払利子等を含みます。)を基にした按分

とされております。

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単発の譲渡であれば、売主・買主ともに幾つかの方法で計算した上でその結果を比較検討し最も有利な方法を選択するでしょう。

しかし、不動産会社のように継続反復して売買取引を行う場合、毎回有利な方法をそれぞれ選択するというのは、会計処理の妥当性に疑問を生じますし、手間もかかります。

そのため、比較的簡単に計算可能な「固定資産税評価額による按分」が採用されることも多いといえます。

固定資産税評価額に建物の消費税は含まれている?いない?

例えば、土地・建物合計の取引金額が3000万円、土地の固定資産税評価額が1200万円、建物の固定資産税評価額が800万円だったとします。

では、具体的にどうやって土地・建物の固定資産税評価額で按分するのでしょうか。

(1)建物の固定資産税評価額は消費税込みであると考えて按分する方法

まず、土地・建物合計の取引金額3000万円を土地と建物のそれぞれの固定資産税評価額の比で按分します。

土地:3000万円☓1200万円/(1200万円+800万円)=1800万円

建物:3000万円☓800万円/(1200万円+800万円)=1200万円

この時、建物については消費税額が含まれていると考え、税率で割り戻すことで建物の本体価格を算出します。

1200万円÷1.1(消費税率10%)≒1090万円

(2)建物の固定資産税評価額は消費税別であると考えて按分する方法

自治体が固定資産税評価額を算定する上で、消費税額について考慮がされているということはないはずです。その証拠に年の途中で消費税率が変わったとしても固定資産税評価額は変わることはないでしょう。

そう考えれば、固定資産税評価額に消費税は含まれておらず、その消費税が考慮されていないはずの割合で按分した建物の金額を、あたかも税込金額であるかのように消費税率で割り戻して建物の本体価格を算出するのはおかしいことになります。

そこで、建物の固定資産税評価額を消費税別の金額だと捉え、その金額を1.1倍(消費税率10%)した金額を建物の「消費税込相当の固定資産税評価額」とした上で按分をします。

建物の固定資産税評価額(税込相当):800万円☓1.1=880万円

土地:3000万円☓1200万円/(1200万円+880万円)≒1730万円

建物:3000万円☓880万円/(1200万円+880万円)≒1270万円

この建物の金額は消費税込ベースなので、建物の本体価格は次のようになります。

1270万円÷1.1(消費税率10%)≒1154万円

(1)と(2)では、消費税の控除対象税額は約6.4万円、減価償却の対象金額も64万円(税込処理)異なることになります。もし、これが継続反復されるとなればその差は大きなものになるはずです。

さて、固定資産税評価額による按分方法としては(1)(2)のどちらが正しいのでしょうか?

税務署は(1)を正しい固定資産税評価額による按分方法と考えています。

多くの税理士も同様ではないでしょうか。少なくとも私はそう叩き込まれてきました。

ですが、(1)については、既に説明したとおり建物の消費税額が固定資産税評価額算定上考慮されていないことから整合性を欠く点もあり、むしろ(2)のほうが理にかなっているともいえるでしょう。

実際に、大手を含めた不動産会社の中には(2)の方法で継続的に処理をしている例もあるようです。

しかし、別件の消費税の更正の請求に際し、(2)の方式にて計算をしたところ、予想どおり税務署からは「一部更正が認められないところがある」として(1)の方式で消費税の更正の請求を出し直して欲しいとの回答が。

それに対して、還付額も大きく、あれこれ追加資料を出せと何度も要求されていたこともあり、「こちらから出し直す気などない。更正が認められないのであれば、その根拠をきちんと書面で出して頂きたい」旨の返答を致しました。

結果は、時間は掛かりましたが「合理的な方法ではないとは言い切れない」として、こちらが主張する(2)の計算結果での還付がされることになった次第です。

* *

「税務署が認めないかもしれない」と戦う前に”引け”ば、”ぶつかる”ことはないですが、得られるものも少ないです。

自分が(少しでも)正しいと思ったなら、まずは突っ込んでいって”押せないか”チャレンジしてみてもいいんじゃないでしょうか。

別に悪いことをしているわけじゃないですし。

理にかなった根拠であれば、最後はちゃんと税務署も認めてくれるものです。

まあ、そこまでいくのに、結構手間は掛かるんですけどね。

*当事務所は今後もこの方法で申告いたしますが、他の申告について計算結果を保証するものではありません。

インボイス制度下での宅建業者の仕入れの特例

インボイス制度になると登録した適格事業者との取引については、適格請求書に消費税額、消費税率の明示がされるようになるため、このような議論はなくなるはずです。

しかし、インボイス制度下でも、宅建業者による販売目的での建物の仕入れについては、相手が個人や免税事業者であっても仕入税額控除は可能です。

そのため、個人からの建物の買取などについては、消費税額の明示がされない契約も残ることになるでしょうね。

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