無借金経営は目指すべき姿なのか?愚の骨頂なのか?

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借金抑制派と借金容認派の見えているものの違い

「無借金経営は愚の骨頂」となかなか刺激的な本が出て来ましたね。

金融機関との正しい距離感を探るためのなかなか良い本だと思います。

さて、財務コンサルタントの中にも借金は出来るだけしないほうが良いという「借金抑制派」と借金を有効活用してより利益効率の高い経営をすべきという「借金容認派」に別れる気がします。

私自身は、どちらかと言うと借金容認派なわけですが、見ているのは借金という視点ではなく、手許資金の厚さの方です。

手許資金が厚ければ、取るべき選択肢が増えるのに対し、手許資金が薄いと、選択肢が狭まりジリ貧になる。

結果的に、手許資金の厚さが、その会社の業績の格差をスパイラル状に広げていくことになります。

それであれば、過度に借入に躊躇することなく、ジリ貧にならないような手許資金を確保すべきというのが私の基本姿勢です。

そのことに合わせて、拙著「つぶれない会社に変わる!社長のお金の残し方」の中でも、「借金で、信用・安全・時間が買える」と言っています。

しかし、中には、借金抑制派の方から異論を挟まれることもあるので、ここで改めて補足説明をしてみたいと思います。

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借金で買える3つのもの

「もちろん、借りずに競争に勝てればそれでいいですけどね。私は社長が嫌いな借金で3つのものが買えると思っています」

「なんです?その借金で買えるものって機械や車ということですか?」

「一つ目は信用が買えます」

「ええ?借金が多い方が信用されるんですかい?」

また納得がいかないのか訝しげな目で私を見はじめた。

「いや、そういう意味じゃないです。ここで言っている信用とは『商売上の立替金』なんですよ」

「商売上の立替金ですって?うちは別に立替金なんて支払ってないけどな」

社長はますます首を傾げている。

「一番リスクが少ない販売スタイルを考えてみてください」

「一番いいのは注文を受けてから製造したり仕入をすることですよね。それもお客様からは先にお金をもらい、仕入先にはその入金があってから支払いをする。これならば代金を踏み倒されることも売れ残りの在庫を抱えることすらないでしょう」

「そりゃそうだ。でも、それじゃ得意先はうちの商品を買ってくれないし、仕入先も『うん』とはいいませんよ」

「そうなんです。これじゃせっかくの販売チャンスを逃してしまう。もっと売上を伸ばすためには、先に商品を仕入れて在庫を持つし、得意先には後でまとめて支払ってくれればいいというでしょう。
そのためには、得意先からの入金の前に仕入先にお金を支払わなければならないわけです」

「よほど強気の商売じゃない限り大体はそうだろうな」

「つまり、売上代金を回収するまで、仕入代金を立て替えて支払っているようなものです。結果として、代金を立て替えて上げるという経済上の『信用』を無償でお客様に提供することになる。それが手許の資金ではできないところを借入で賄うことができれば、『信用』を借入で買ったということになるんじゃないですかね」

「なるほど、そういう意味ですか」

「二つ目は安全が買えます」

「どんなに業績のよい会社だって、売上不振の時期やトラブルに巻き込まれることはあります。

中には一企業の努力ではどうしようもない環境の変化だってあります。

そんな時にすぐに倒産の危機になるようでは、とてもまともに会社経営なんて出来ません」

「安定的な成長をしたいのであれば、すぐに使うギリギリの金だけではなくて、非常食としてのキャッシュを『厚く』持っておく必要があるのです。

その『現預金の積み上げ』を借入金で行えれば、まさに安全を借金で買ったということになるでしょう」

「なるほどな、これはよくわかる」

「三つ目は時間が買えます」

「時間なんて売っているもんなんですかね?売ってくれるなら買いたいくらいですよ」

社長はやっと突っ込みどころを見つけたようでニヤニヤしている。

「例えば、導入すれば生産効率がもっと上がり、もっと儲かる機械があるとしましょう。
社長のように無借金経営にこだわるなら、利益から税金を支払った残りである自己資金が貯まってからその機械を導入するということになるでしょう」

「まあ、そうだがそんなことしていたら同業者に出しぬかれちまう」

「そういうことです。だから借金で機械を導入すれば、自己資金を貯めるよりも早く生産性向上を手にできる。要するに借金で自己資金を貯めている時間を買うことができるのです」

納得したのか、社長は熱々の「あわびのステーキ」を頬張りながら大きくうなずいた。

「ああ、時間を買うとはそういう意味ですか」

「でもね、先生。借りた金は返さなくちゃいけない。そんなに一杯借りたら返せないでしょうよ」

「いや、備蓄用に借りたのであれば、借金をしたお金があるはずですよね。そこから毎月返せばいい。借金をすることで新たにお金が出て行くのは利息の支払いだけですよ」

「言われてみたら、そうだな。なぜか毎月の支払額が大きくなると大変だと思い込んでたよ」

「でも、その金で設備投資をしちゃったら手許に金がないので返済は大変だよね、先生。
やっぱり借金で設備投資をするのはリスクは大きいんじゃないかい?」

「もちろん毎月の支払は大変でしょうね。でもその支払いより余計に儲けるために設備投資をするわけです。
そもそも借入金で設備投資をした時と自己資金で設備投資をした時では、その設備投資の成功確率は変わらないはずですよね」

「まあ、確かにそうだな」

腕を組みながら社長は天井を見上げた後、目を閉じた。「設備投資のリスクは、その投資した設備が生かされず資金を回収できないというものなんです。

それは借入れで投資をしても自己資金で投資をしても一緒です。

借入で資金をまかなったことで新たに生まれるコストは『支払利息』であり、新たに生まれるリスクはその『金利が変動するリスク』のみなのです」

「なるほど、よくわかったよ」

ー「つぶれない会社に変わる!社長のお金の残し方」より

補足説明

Q:運転資金(立替金)については、売掛金を早く回収したり、ファクタリング(買取現金化)を活用すれば、借入などしなくて済むのでは?

A:売掛金を早く回収出来れば、確かに良いですが、相手は得意先です。

よほど取り扱っている商品に優位性がない限り、回収期間を短くするのは至難の業です。

延滞債権を生まないよう努力するのは当然ですが、「早く回収してこい」と営業マンにハッパを掛けるというのは、単なる「根性論」の「ドS経営」にすぎません。

また、売掛金のファクタリング(買取現金化)を使えば運転資金借入は不要かというと、それもどうでしょう。

確かに、売上債権を銀行に買い取ってもらうことで売掛金を早く現金化することができます。

しかし、銀行がファクタリングの対象とするのは、大手企業の系列協力工場への売掛金などであり、このファクタリング自体、大手企業の手形発行費用を削減するために行われているものです。

中小企業に対する売掛金を買い取ってくれる業者はまずないし、仮に買い取ってくれるにしてもその場合の割引料はどう考えても金利負担よりもはるかに高いものになります。借金を抑制すると言う目的のために、利益がなくなってしまっては全く意味が無いでしょう。

Q:必要なときに必要な額だけ借りるのが財務の健全化につながるのでは?

A:それが可能な優良企業はそうすればよいでしょう。

しかし、金融機関の融資に対する姿勢は常に変化しており、中小企業は、こちらが必要な時に必ずしも必要な額の資金が調達出来るとは限りません。

また、トラブルが起きて資金がショートしそうだという会社には銀行もお金は貸したくないのです。

ましてや、普段融資取引の全くない金融機関に対してトラブルで資金ショートが起きそうだからすぐお金を貸してほしいと言って融資に応じてくれる金融機関は少ないでしょう。

そんなトラブルに対しては、保険でカバーすれば良いと言う反論も聞こえてきそうですが、「得意先からの入金遅れ」というトラブルをカバーしてくれる保険というものはないはずです。

保険商品がないのであれば、「借りられる時に借りること」でトラブルや金融機関の融資の姿勢変化があっても資金ショートをしないだけの余分なお金をもつという保険を自らが掛けるしかないのです。

融資を受けると金融機関の意のままになってしまうと思い、手許の資金を薄くしてしまうことが、かえって金融機関のわがままに翻弄されることになるのです。

Q:自己資金での投資であれば、失敗しても手許の資金ゼロで済むが、借金で投資をして失敗したら借金が残るので怖いのではないか?

A:そもそも比較の前提条件がおかしいです。投資するだけの自己資金を持っている場合と、全く自己資金を持っていない場合の財務の安全性を比べても意味がありません。これでは、お金持ちと一文無しの財務安全性を比較しているのと一緒です。

借金によるリスクの比較でもなんでもありません。

比較をするのであれば、自己資金で投資をした場合と、同じ自己資金はあるもののあえて借金をして投資をした場合のリスクを比較する必要があるでしょう。

自己資金で投資をし、全額回収ができなかった場合には、手許の資金は0になります。

一方で、あえて借金をして投資をし、全額回収ができなかった場合には、当初の自己資金から支払利息を差し引いた金額が一旦残ります。

そこから、借金を返済していくことになります。

この場合、一括での返済を求められることはなく、約定どおりの分割返済となるので、残ったお金を取り崩して行くまでの時間は資金が底をつくということはありません。

しかし、自己資金全額をツッコんで投資に失敗した時には、自己資金が0なのでその場で倒産ということになるのです。

つまり、全額自己資金で投資をしたほうが資金が底をつくリスクが高くなりかえって危ないということになるのです。

借金抑制派と借金容認派の違いは、余分なお金を「無駄の温床」と考えるか「選択肢を増やす競争の源泉」と考えるかの違いなのかもしれません。

確かに、借金抑制派のいう余分なお金を持つことで、無駄が生まれやすいというのは一理あります。

ですから、そのようなことにならないようきちんとした数値によるコントロールをしなくてはならないでしょう。

あくまでも、申し上げているのは、選択肢の幅を増やすための手許資金を厚くする効能であり、それによって間違った選択肢を選んだのでは、意味が無いのですから。

* *

私は、何もジャンジャン借金をしてレバレッジを掛けまくり、ドンドン経営の効率とスピードをアップせよという「借金礼賛派」ではありません。

借金をしなくても手許資金が潤沢になるビジネスモデルであれば、借金などする必要はないですが、ビジネスモデルの性格上どうしても借金が必要であったり、借金をすることでメリットを手に入れることもあるのです。

そのような場合にまで、「借金は悪」という態度で財務を考えるのは、まるで手足を縛って格闘技の試合に出るようなもの。

それでは、ビジネスという試合で勝つのは難しいでしょう。「借金は怖いからするな」というアドバイスは「自動車は危ないから運転するな」と同じものです。

歩いて事足りるビジネスであれば良いですが、それでは競争に勝てないビジネスをしているならば、リスクを理解しコントロールする事でそのツールを最大限活用するのが企業経営者ではないでしょうか。

ということで、無借金経営は「目的」にするものではありません。

そのために、競争が不利になり負けてしまったら意味はないでしょう。もちろん、競争に打ち勝った「結果」として無借金経営が成し遂げられたのであれば、それは素晴らしいこと。

それであれば、愚の骨頂ではありませんね。

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