不動産賃貸契約・フリーレントの税務|税務理論上の考え方と実務上の取扱い

オフィスではフリーレント契約が多く見られる

事業用での不動産賃貸は、変更のためのコスト(スイッチングコスト)が高く、比較的長期間の契約に及ぶことも多いもの。

スイッチングコストが高いことから、テナント集めのために一定期間賃料を無料とする「フリーレント」という条項が契約に組み込まれることもあります。

では、そのフリーレントについての税務上の処理はどうなるのでしょうか?

そこで今回は、フリーレントの税務処理について理論上の考え方と実務上の取扱いの双方をみていくことにします。

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フリーレントの理論上の考え方と実務上の取扱い

結論

中途解約禁止条項があったとしても

・フリーレント期間の益金計上不要。契約で定められた支払日から益金計上

・フリーレント期間から契約期間全体の家賃合計を按分して益金計上

のどちらも実務上は容認されている

税務理論上の考え方

法人税に係る通達の考え方では、賃貸料収入については、契約等で支払日が定められている場合、前受に係る額を除き、その支払日に益金となるとされています。

つまり、契約書上、家賃の支払いを不要とすると定めているフリーレントについては益金計上をする必要はないことになり、実際に契約書で家賃の支払が定められた日から益金計上をすることになります。

しかし、フリーレント期間を定めているのは、その後も継続して賃貸契約をしてもらうための見返りのようなものでしょう。

それなのに中途解約などされてしまっては、貸す側としては、”おまけ”だけ取られてしまったようなものです。

そこで、フリーレント条項を設定する場合、賃貸契約の中途解約を禁止するという条項も合わせて設けられることも多いものです。

では、この場合の益金計上時期はどうなるのか?

税務上の益金計上時期については、「権利確定基準」という基本原則があります。これは、法的にお金をもらうことが確定した時点で益金計上をすべきという考え方です。

不動産賃貸についても、自分のものとすることが確定した金額があるならば、その時点で益金計上をしなくてはならないのです。

さて、賃貸契約時には、敷金や礼金のやりとりをすることも多いでしょう。

このうち、礼金について、返金することはないと定められているのであれば、そのお金は自分のものとすることが確定しているので、礼金を受け取った時点で全額益金に算入がされます。

敷金については、退去時の費用を除いて全額返金されることが一般的ですので、受け取った敷金は自分のものとすることが確定したお金とはならず、益金とはなりません。将来返済すべきお金として負債となります。

しかし、敷金の中には、「敷金償却」として、契約満了時には一定金額を差し引いて返金することが契約書で定められていることもあります。

この敷金償却分については、契約時点で、自分のものとすることが確定しているので、全額を契約した時点の益金としなくてはならないのです。

もし、契約書で中途解約禁止の条項が定められているのであれば、その契約期間全体の賃料が時の経過に応じて生じていくものを当初はフリーレントによる無料として”いびつな形”にして受け取っているようなものだとも考えられます。

そこで、中途解約禁止条項が定められている場合には、フリーレント期間であっても、契約期間全体の賃料合計を契約期間の月数で按分した金額だけ毎月益金として計上していく必要があるのです。

具体的には、契約期間24ヶ月で月額の賃料が50万円、当初の3ヶ月間はフリーレント(中途解約禁止条項あり)の場合、契約期間全体の賃料は50万円×(24ヶ月-3ヶ月)=1,050万円となります。

それを24ヶ月で受け取ることになるので、フリーレント期間を含めて毎月43.75万円ずつの益金計上をしなくてはならないということです。

この考え方は、借りた側にも当てはまるので、中途解約禁止条項がなければ、契約書で定められた支払日から損金算入、中途解約禁止条項があれば、契約期間全体の按分賃料を按分して月割で損金算入ということになるはずです。

なお、消費税の課税取引が生じた時期は、法人時の益金・損金計上時期を合わせるのが原則ですから、これらの益金・損金計上時点で消費税の課税取引があったものとして消費税の納税額の計算がなされます。

実務上は単なる値引きとして処理することも容認されている

しかし、実際に、中途解約禁止条項があったとしても、フリーレント期間にわざわざ月割で按分した家賃を計上しているケースは中小企業では見たことはないです。

事実、週刊税務通信が国税庁に確認を求めたところ、

不動産の賃貸借取引ですっかり一般的になった感のあるフリーレント取引。

法人税や消費税の取扱いについては以前、中途解約不能のフリーレント契約の場合は、その期間を含めた賃貸期間で賃貸料総額を按分し益金算入等する処理が妥当とする考え方を確認した(No.3007,3091)。

しかし、昨今のフリーレントは、取引実態が「賃料の免除又は値引き」といえるものがある。会計上、按分せずフリーレント期間に対応する賃料相当額を収益計上していない処理でも税務上認容されることがわかった。

最近のフリーレント取引の取扱いを確認、課税関係認識しない処理にも合理性|週刊税務通信

と記載しており、実務上、中途解約禁止条項があったとしても、税務署は、フリーレント期間に月割の益金計上を求めるようなことはしていないということでしょう。

つまり、中途解約禁止条項がある場合であっても、貸す側は、フリーレント期間について、契約期間全体の家賃を月割で按分して益金計上しても、契約書で定められた日に益金計上してもどちらでもよいということ。

まあ、借りる側についても、契約で定められていた日で損金算入しているものを、税務調査でわざわざフリーレント期間から損金算入せよという修正を求めるはずもないので、借りる側も、中途解約禁止条項がある場合には、どちらで処理をしてもまず問題はないと考えてもよいでしょう。

”税理士界の日経”ともいえる「週刊税務通信」がそう言っているのだから、それなりの信頼性はありそう。その後訂正もされていないですし。

これが、”税理士界の東スポ”とも言われる「週刊納税◯信」だったら、ちょっとどうかなと思うところですけどね。

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