軽減税率で簡易課税選択届出書の提出期間が延長される|だが、自販機スキーム、お前はダメだ

イケると思った軽減税率の原則課税、やってみたら無理だった

2019年10月から消費税が10%に増税されるのと同時に、酒や外食を除く飲食料品と定期購読される新聞については、軽減税率が適用されます。

中小規模の飲食料品を仕入れる事業者は、仕入控除税額の計算上、通常税率と軽減税率を区分けした経理処理が必要ですが、「まあ、それくらいできるだろう」と思っていたところ、「やっぱりそれは無理だわ」という事業者が出てくるところもあるでしょう。

そのため、そのような事業者については、期間限定で、本来であれば、その課税期間が開始する日の前日までに提出すべき「簡易課税制度選択届出書」をその課税期間の末日までと提出期限を延期する経過措置が設けられています。

そこで、今回は、軽減税率導入に伴う「簡易課税制度選択届出書」の提出期限の特例とそれを悪用しようとする事業者の封じ込め措置についてまとめてみることにします。

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簡易課税制度選択届出書提出期限の特例

「簡易課税」とは、基準期間(原則前々期)の課税売上高が5,000万円以下の事業者については、仕入控除税額を課税売上高に業種ごとのみなし仕入率を掛けた金額とすることができるいわば「簡便法」です。

この簡易課税制度を利用するためには、事業開始時などの例外を除き、原則として、その適用を受けようとする課税期間開始の日の前日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出しておく必要があります。

しかし、今回の軽減税率導入に伴い、予想よりも軽減税率と通常税率を区分けした課税仕入れの把握が困難だったということが、やってみてわかったというケースでは、その期に簡易課税の適用は受けられないことになります。

そこで、2019年10月1日から2020年9月30日まで日の属する課税期間の末日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出した場合には、その提出日の属する課税期間から簡易課税の適用を受けるとこができる特例が設けられたのです。

これは、「2019年10月1日から2020年9月30日まで」に一日でも重なる課税期間であれば、簡易課税制度選択届出書の提出期限がその課税期間の末日に延期されるということです。

例えば、3月決算の法人であれば、2019年4月1日から2020年3月31日までの課税期間について簡易課税の選択をしたい場合、2019年10月以降の期間が上記対象期間と重なるため、その簡易課税選択届出書の提出期限は、2020年3月31日までとなります。

また、同じ3月決算の法人で、2020年4月1日から2021年3月31日までの課税期間について簡易課税の選択をしたい場合には、2020年9月30日以前の期間が上記対象期間と重なるため、その簡易課税選択届出書の提出期限は、2021年3月31日までとなるのです。

一方、9月決算の法人については、2018年10月1日から2019年9月30日までの課税期間と2020年10月1日から2021年9月30日までの課税期間については、上記対象期間と一日も重ならないため、この特例の適用はありません。

つまり、簡易課税制度選択届出書の提出期限は、それぞれ、課税期間開始の日の前日までとなるのです。

なお、規定上、この規定を利用できるのは、「仕入れを税率ごとに区分することにつき困難な事業がある場合」とされていますが、その「困難な度合いは問わない」ので、自分が困難だと思えば適用は可能です。

高額特定資産を取得した場合には、著しく困難であることが必要

マンション建築費については、非課税売上に対応する仕入れであるため、たとえ高額であってもその消費税額は仕入税額控除の対象となりません。

しかし、例えば、入居者の募集前に自動販売機を設置し、作為的にその課税期間だけ「課税売上割合」(全体に占める課税売上高の割合)を高めておき、「一括比例配分方式」という計算方法を選択することで、消費税の仕入税額控除が可能でした。

ただ、その控除をした課税期間以降3期間の課税売上割合が著しく減少していた場合には、その控除された消費税を返還しなくてはなりません。

ですが、その手前で簡易課税制度を選択してしまえばあっさりすり抜けられるという穴だらけの規制だったのです。

そこで、そのようなすり抜けをさせないよう”消費税還付逃げ”封じがなされました。

・事業者が事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に

・高額特定資産(※)の仕入れ等を行った場合には、

・「高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の翌課税期間」から、「高額特定資産の仕入れ等の日の属する課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間」までの各課税期間においては、事業者免税点制度及び簡易課税制度を適用しない

※ 「高額特定資産」とは、一の取引の単位につき、課税仕入れに係る支払対価の額(税抜き)が 1,000 万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいいます。

おかげで、マンション消費税還付とは全く関係のない、1,000万円以上の設備投資をした事業者まで、以後3年を経過する日の属する課税期間までは簡易課税は選択できなくなったのです。

1000万円以上の設備投資をしたらしばらく簡易課税は選択できないこともー高額特定資産取得の消費税の特例

さて、本来であれば、1,000万円以上の高額特定資産を取得して消費税の仕入税額控除を受けた場合、以後3年を経過する日の属する課税期間までは簡易課税を選択することはできません。

ですが、この軽減税率導入に伴う経過措置に乗じて、うまく簡易課税選択届出書を提出し、設備投資についての消費税還付を受けながら、早く簡易課税を選択したいと考える人も出てくるのではないかと。

しかし、国税庁も過去の「自販機スキーム」などを考慮し、先回りの通達の整備がなされています。

というのも、高額特定資産を取得した場合で、この簡易課税制度適用届の提出期限の特例を使うには、仕入れを税率ごとに区分することにつき「著しく困難」であることが要件とされているのです。

そして、思いっきり具体的に下記のようなケースは「著しく困難ではない」と「軽減税率通達」で明示しています。

(注) 建設業、不動産業その他の主として軽減税率の対象となる課税仕入れを行う事業者に該当しない事業者が、当該事業者の事務所、営業所等に自動販売機を設置した場合の清涼飲料水の仕入れや、福利厚生、贈答用として菓子等を仕入れた場合は、著しく困難な事情に当たらない。

軽減税率通達24

要するに、元々飲食料品の仕入れをする卸・小売業や飲食店についての特例であり、全然軽減税率に関係ない事業者がちょっとだけ軽減税率の取引があったり、無理やり仕入れをしても、この簡易課税制度選択届出書の提出期限の特例の対象外であるということです。

いや、ホント面倒くさい。

元々、「非課税売上に対応する課税仕入れに対応する消費税は仕入税額控除の対象外である」とかいう規定がおかしいのですが、その上、こんな複雑な規定が上乗せされると、間違えずに消費税の処理をするのがドンドン難しくなってきました。

税率は10%に上がり、消費税申告についての選択ミスによる損害も大きくなる。

これじゃ、リスクばかりで、ますます若者の”税理士離れ”に拍車がかかりそうですね。

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