税務調査の裏側ー税務調査は現場で行われているのではない、電話で行われているのだ
税務調査に強い税理士ってどんな人?
「税務調査に強い」というアピールをする税理士もいます。
それはそれで良いのでしょうが、正直に言うと検証のしようがありません。
というもの、同じ税務調査で違う税理士が立ち会いや調査のまとめ作業を行うことはまずないのですから。
つまり、比較がしづらいので、一体誰と比べて税務調査に強いと言っているのかよくわからないのです。
では、税務調査に入られて何も修正をしなかったということが「その税理士が税務調査に強い」ということなのでしょうか。
必ずしもそうとはいえません。
税務申告には、白とも黒とも言える「グレーゾーン」は存在します。
そこをどこまで突っ込むかで、税務調査で指摘される確率は変わります。
グレーゾーンの「のりしろ」を最初から厚く取っておけば、そりゃ税務調査で何も指摘などされやしません。
もちろん、それがお客様のご要望であれば、そうするべきでしょう。
しかし、お客様のご要望がそうではない場合には、いけるだけツッコんで、多少否認されたってトータルでということもあるわけでして。
そもそも、最初から何も指摘されそうのない申告であれば、誰がやっても申告是認(修正事項なし)は簡単に取れます。
うちも、そう言う申告の方が多いですから。
逆に、悪質な脱税がされているのであれば、どんなに強気な税理士でも、「すみません。私も知りませんでした。以後そのようなことをしないよう厳しく伝えます」と格好悪く机に頭をこすりつけるしかないのです。
もちろん、世の中には「本当に税務調査に強い税理士」というのはいます。
ただ、そういう人はWEBで「税務調査には強い」という謳い方はまずしないと思いますよ。
だって、人に言えな(早めの自主規制
良し悪しはとりあえず置いておいて、そういうことができるのは少なくとも税務署長以上の役職で退官して、国税局から顧問先の斡旋がされるような人です。
国税OBと自ら言っても、若かりし頃に税務署に勤めて、調査官のまま辞めたような人には全く関係のない話なのです。
ということで、今回は、意外とお客様には見えることのない「税務調査ってこんなかんじで決着しているのだ」という話をしてみたいと思います。
税務調査で現場に来ているのは、決裁権者ではない。
税務調査の対応の仕方にも、税理士それぞれで違いがあるようです。
会社に税務署員が調査に来た場合に、ずっとその作業を監視するかのように立ち会う税理士もいます。
私など、全くその逆で、初日の午前中だけ代表者と一緒に会社の概況説明をして、後は、別室で待機、翌日以降はお客様から不安なのでどうしても来てほしいと言われない限り会社にも来ません。
税務署員には個室を用意し、事前に必要とされる資料はすべてこの個室に配置します。
社長には、初日の概況説明以外は外出を勧め、経理担当者にも税務署員からの求めがない限り応対をしないようにとアドバイスをしています。
なぜ、そんな対応なのか。
それは、個室で向きあうと余計なことを話したくなるからです。
「世間話をして、税務署員の気を逸らして、税務調査がはかどらないようにした」という人もいるようですが、残念ながらそれほど効果のあることだとは思いません。
税務署員は、必要なことは調べなくては上司に報告もできず、必要なデータが揃うまで翌日に助っ人の増員がされたり、調査の期間が伸びてしまうだけです。
(時間切れを狙うなら別の方法があるのですが、それは自主規制ということで)
また、現場に来た税務署員につばを飛ばしながら激しく議論をする人もいるようですが、それもあまり意味のあることには思えません。
というのも、はっきり言って、現場に来る税務署員のほとんどは決裁権者じゃないのです。
その人相手にやり込めたとしても、報告を受けた決裁権者に「それは違うだろ」と言われれば、結局そこでまた議論をしなくてはなりません。
現場に来た税務署員もそのことを知っているので、単に事実確認をしているだけで、その場でこれを修正しろということはまず言いません。
それなのに、ものすごい勢いで自説を唱えたとしても、「はあ、そうですか」としか、向こうも言いようがないのです。
また、税務署員に対して居丈高な態度を取る人もいるようですが、それもあまり意味はないような。
「用心棒」ってそういうもんじゃないです。
そういうのって相手からしたら全然怖くないですもの。
まあ、税理士としては、あなたを守りますとしっかり働いているところをお客様に見せたいのでしょうが。
私など「こんなにさわやかな対応をする税理士は、はじめてだ」と統括官に言われたこともありますからね。
むしろ怖いのは、終始笑顔なのに、たまに・・・
おかげで、お客様が隣で涙目になっていたりすることもあったりなかったり。
なので、現場での調査では、サッサと必要資料を提供し、必要な質問事項には答え、来たるべき決裁権者との戦いに備えたほうが良いというのが私のスタイルです。
なお、たまに決裁権者である統括官が現場に来ることがありますが、「知らない所で何かまずいことでもしているのか」と思うものの、大抵は新人のフォローか調査件数のノルマを達成するためであり、むしろ何もない「あっさりした」会社に来ることのほうが多いというのが私の経験上の感想です。
税務調査のまとめは、書面のやり取り+最後は電話
現場での調査(資料収集)の後、必要に応じて取引先などに対する反面調査(裏付け調査)というものが行われます。
それらのデータを元に、税務署として修正を求めたい事項を上げてきます。
その際、「内容を説明したい」と税務署員はやたらと税務署に人を呼びつけたがりますが、必ずしも行かなくても良いです。
一度など、山形県のさくらんぼの里の税務署まで「ちょっと来てくれ」と言われたこともあります。
当然「前回はこっちが行ったんだから、今回はそっちが来る番だ」と断りましたが。
その代わりに、私は、必ず指摘事項を書面で求めます。
従来は、この書面を出すことに税務署は消極的でしたが、それでも、ちゃんと交渉すれば、きちんと出してくれました。
平成25年より、この書面でのやり取りが制度化されたので、今後はそれが標準になることでしょう。
その上で、こちらの反論も書面で提出をします。
このようにすることで、お客様に対して、どんな指摘がされ、どんな反論をした結果、どんな落とし所で落ち着いたのかという交渉の経緯が明らかになると私は考えているからです。
何も根拠もなく「本当はもっといっぱい修正を求められたけど、私のお陰で半分になりましたよ」というのでは、説得力がないですから。
この後、税務調査の「まとめ」が行われます。
そこで、はじめて決裁権者である統括官と税理士が対峙することになります。
この時も、呼び出しをされることが多いですが、私は売上除外や架空経費の指摘がない限り「修正額が減るなら喜んで行きますけど」といって、まず行きません。
結果的に、まとめは電話を通して行われることになります。
実は、ここが、まさに税務調査の本番と言っても良いでしょう。
ここで、怒鳴り合いのような強い言葉のぶつけあいをするようなことは私はまずしません。
お互いに言葉は丁重で爽やかな声でありながら、眼の奥は全く笑っていないような慇懃無礼な会話の応酬が続くわけです。
しかし、最初にあれだけ税法の解釈や事実認定であれやこれやとやり取りしたことは、ほとんどすっ飛んでしまい、
(税)「それじゃ、修正申告はできません。そちらの主張通りに修正したら顧問契約解除されてしまいますよ」「そこまで自信がおありでしたら、そちらで更正(訂正)でもしたらどうです?」
(統)「じゃあ、いくらなら修正申告をしてくれるんです?」
(税)「これとこれくらいですかね」
(統)「それじゃ、うちも会計検査院に怒られますよ」「では、これとこれとこれは修正してくださいませんか。後は指導にとどめますから」
と最後は大人の決着を見ることがほとんどです。
要するに税務調査って税務署と税理士を代理人とした「和解交渉」のようなものなんですね。
では、どの項目は負けたふりをして修正に応じても良いか、どの項目は絶対に修正に応じてはいけないかについては、また別の機会にお話します。
*上記は、あくまでも私の税務調査の対応方針です。必ずしもこれがベストというわけではなく、税理士ごとにやり方は異なります。
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