会計をクラウド化するメリット・デメリットからみる現時点での会計処理の最適解|クラウド会計のミスマッチ

「ローカルは古い、これからはクラウド」は本当なのか?

会計処理について、データがパソコンや社内のサーバーに置かれる「ローカル」での処理だけでなく、ネット上に置かれたデータを処理する「クラウド」で行うものも見られるようになってきました。

データの保存・処理については、ハードやソフトを所有する「オンプレミス」から、所有をせず必要に応じてシェアをする「クラウド」に向かっているのは間違いないのですが、現時点で、会計をクラウドで処理することが正しいのかというと、ゴリゴリに5年間、クラウド会計とローカルの会計ソフトを併用してみて疑問を持つようになりました。

そこで、今回は、もう一度「クラウドのメリット・デメリット」から、現時点での会計処理の最適解を探ってみようと思います。

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クラウドのメリットは本来自動仕訳やデータ連携ではない

クラウド会計というとfreeeやマネーフォワードが思い浮かびますが、それ以外でも従来ローカルの会計ソフトを販売していた弥生会計やPCA、勘定奉行などもクラウド会計アプリを販売しています。

今回「クラウド会計」と言っているのは、freeeとマネーフォワードという小規模事業者向けの低廉なクラウド会計アプリのことです。

「freeeやマネーフォワードのメリットは?」と聞かれたら、多くの人は「預金データやクレジットカードデータから自動で仕訳生成をする機能が秀逸」「販売、勤怠管理データからの連動がスムーズ」ということを思い浮かべるのではないでしょうか。

しかし、実際には、これらの「自動仕訳生成」や「APIでのデータ連携」というのは、別にクラウド会計だからできる機能ではないです。

自動仕訳生成など単なる「条件式の積み上げ」であり、設定したルールを忠実に守るだけで、別にAI(人工知能)だのビッグデータだので何もしなくても最適な勘定科目を判断して決算書を作ってくれるわけじゃないですから。

巷では、テスラを「自動運転」というくらい、RPA(プログラムによる作業の自動処理)も含め、「経理の自動化」は過大評価されているのではないかなと。

テスラ Model Sに2年半乗って知った誰も言わない「自動運転」の現実

データ連携だって、別にローカルのソフトであっても、データ移行のひと手間さえ掛ければ、何ら問題なくできますからね。

本来のクラウド会計のメリットとは、「複数の人での同時処理とオープンなデータ共有」「リアルタイムでのデータの反映」ということでしょう。

一方で、クラウド会計のデメリットは、「ネット経由の処理であるためデータの集計に時間がかかること」「ネットに繋がらないと何も処理ができない」ということです。

期限厳守の会計処理、給与処理については、通信環境で使用ができないというのは無視できないリスクです。実際に、ソフトバンクは長時間の通信障害を起こし、freeeも決算期日に使用不能になったこともあります。

データ集計のスピードについても、主に小規模事業者向けのfreeeやマネーフォワードですと、ざっくりと言って年商3億円程度を超えたあたりから、そのデータ集計のタイムラグにストレスを感じるようになってきます。

特に、お客様が入力したデータに間違いがないか確認をしたり、決算のように各種のデータを行ったり来たりしながらいじくり回すような処理ではかなり”もたつき”を感じます。

そのため、私は、年商3億円程度以上のお客様でクラウド会計処理を希望する先については、クラウド会計と弥生会計を併用する「いいとこどり」の処理をしているわけです。

そうやってクラウド会計を「自動仕訳生成専用アプリ」とすることで、年商25億円程度の会社でも、クラウド会計の自動仕訳生成とデータ連携を活用しながら、ローカルでスムーズに修正や決算処理が出来ているのです。

MFクラウド会計と弥生会計を併用する場合の最も合理的な手順

クラウドの利点とは、リアルタイムでのデータの連携と同時閲覧編集やオープンな情報共有が可能になるということです。

ただ、基幹業務の中には、そのリアルタイム性や情報の共有に意味のあるものとそうでもないものがあります。

例えば、エアレジのような販売データ。これはリアルタイムのデータを見ることに意義はあるし、それをスタッフと共有することも意義はあるでしょう。

でも、会計って、そんなにリアルタイムで見るようなものじゃないですよね。

まとめての会計データ処理だったら、その都度データ連携ができればいいし、データのチェックや修正作業はローカルでやったほうがずっと早いんです。

給与計算もそうでしょ。毎日給与計算なんかやらないし、ましてやデータを共有することもない。特定の人がクローズドで作業しているので同時に閲覧編集なんて全く意味はないでしょう。

それに、クラウド版の給与計算は大抵の場合、従業員数による従量課金です。だから、従業員数の多い会社だとムチャクチャ料金が割高になるんです。

そもそも、freeeやマネーフォワードを使いたいという人は、大抵、経理処理が大嫌いで、触りたくもない。朝起きたら勝手に決算書が出来上がっていることを期待しているわけです。

しかし、実際には、そういう人ほど、別にリアルタイムでの会計処理を必要としているわけでもないし、データをスタッフ間で共有したいなんて思っていないんですよ。

実は、ここにクラウド会計の矛盾というか真の顧客ニーズとのミスマッチがあるのではないかということなんです。

生産性向上のポイントは、誰も望んでいないクラウド上で会計処理をすることではなくて、クラウド会計のほうが機能的に優れた自動仕訳生成機能やデータ連携をうまく使うということじゃないかと。

要するに、クラウドをあえて活用するのは、便利なこの部分だけでいいじゃんということです。

ローカル陣営の方向性は正しい。しかし力量不足が混乱の原因に

では、会計処理はどのようにするのが良いのでしょうか?

通信スピードやそもそもの会計処理の特徴を鑑みれば、現時点での会計処理の最適解は、ローカルでの会計処理を軸にして自動仕訳生成とデータ連携についてクラウドアプリを積極的に活用するということだと思います。

実際に、弥生会計やツカエル会計などの「ローカル陣営」は、顧客サイドでは期中の入力作業についてクラウドアプリで処理をし、会計事務所サイドではデータのチェック・修正や決算処理についてローカルで処理をして同期を取るということを目指しているようにみえます。

この目指すべき方向性は正しいと思います。

では、なぜ、本来クラウドに乗せるメリットの少ない会計処理について、freeeやマネーフォワードがもてはやされるようになったのか。

それは、ひとえに、ローカル陣営の開発力量不足だと思います。

弥生会計だって、預金データやクレジットカードデータからの自動仕訳生成はできます。

その使い勝手については、以前はノートパソコンを投げつけたくなるほどひどかったですが、今では、freeeやマネーフォワードの”背中が遠くに見える”くらいには追いついてきています。

freeeなどに比べて二手間くらい余計にこなせば、バッチ処理(一括処理)による自動仕訳生成は弥生会計でもできるんです。初期設定はわかりづらくて大変ですけどね。

年に一回まとめて経理処理代行を依頼されるような規模の会社なら、弥生の「スマート取引取込」で自動仕訳生成したデータをローカルの弥生会計に流してそのまま決算をやるのが会計事務所としては結局ラクなのではないかと。一つのファイルで一気通貫に申告に必要な決算書一式の作成が出来ますから。

エアレジなどの販売データとの連携もできます。スマホで領収証を読み取って自動仕訳生成することも領収証を廃棄してもいい電子帳簿保存法に適合するためのタイムスタンプを押すこともできる。

要するに、クラウド会計の利点として多くの人が挙げることは、実はクラウド会計でなくとも従来のローカルの会計ソフトでもできるんです。

それでも一定数量の人がクラウド会計を選ぶようになったのは、ローカルの会計ソフトのユーザーインターフェイス(入力の画面や導線)が10年以上進化していないことと、これらのサービスがみんな中途半端で使っても生産性向上を実感できないからではないかと。

ですから、既存のローカルの会計ソフトメーカーが時代に合わせたプロダクトをきちんと実用レベルで作っておけば、新興のクラウド会計ソフトに侵食を許す余地など元々なかったのではないかということです。

ツカエル会計の新しいクラウドアプリは、処理スピードも早いし、期待したいところ。

弥生会計オンラインは、一回捨てて、一から作り直したほうがいいと思いますね。

クラウドは手段であって目的じゃない

こういう話をすると「クラウドを使いこなせないから、そんなことをいっているんだろう」と言われるのでしょう。

ただ、「これからの会計処理はクラウド、クラウド最高!」とウェイウェイ言っている人でも、実際には、「うーん、これはどうなんだろう」と思うところはあるはず。

例えば、「現金で支払った領収証をExcelに手入力してからクラウド会計に取り込むとか間抜けなことしてまで無理にクラウドで処理する必要あるかね。直接ローカルの会計ソフトに入力したほうがずっと早いじゃん」と。

ところが、そういう話は意外と表には出てこない。

ちょうど、私が「とにかくMac最高!会計処理だってMacでやろうと思えば問題なくできるんだぜ」と言っていた頃に近いのではないかと。

ホントは「どう考えたって面倒くさい。素直にWindowsでやったほうがいいなあ」という部分が多々あるのに、そこにはあえて触れないというか。

正直に「無理にクラウドじゃなくてもいいかも」と言っちゃったらどうです?

私も9年使ったMacbookからWindowsにしたら決算申告処理もエクセルもパワポも快適でしたから。当たり前ですけど。

クラウドは手段であって、それを使うこと自体が目的じゃない。

「どうやったら、クラウドで会計処理ができるのか」を考えるのは本末転倒なのです。

実際に、クラウド上ですべて連動させるという某ベンチャー企業が開発したクラウドERPを高額の費用を支払って導入したお客様もいますが、スピードは遅いし、連動されすぎて元のデータをどこから持ってきているのか把握できないと担当者がさじを投げてしまった。

「結局、何がしたいんです?」と社長に確認したら、「いや、いつでも気になった時に業績を見たい。でも弥生会計は見づらいからいやなんだ」と。

だったら、弥生会計とマネーフォワードクラウドを併用すればいいじゃない。

そうやって担当者と経営者のそれぞれのニーズを満たすように変更したら、処理スピードも圧倒的に早くなり、コストも1/10以下になりましたからね。

クラウド導入を目的化するとかえって生産性を落としてしまうこともあるんです。

ですから、自社にとってクラウドよりローカルの方が使いやすい部分があれば、そこは堂々とローカルで処理をすればいいのではないでしょうか。

大事なのは、自社にとって問題解決に最適なツールを選ぶということです。

この先は、ローカル陣営は、利用者がストレスを感じないユーザーインターフェイスの開発と自動仕訳生成機能の充実を、クラウド陣営は処理スピードの向上を。将来の中小企業向け会計処理のスタンダードを決するのは、そのどちらが早いかの勝負というところでしょう。

「クラウド専門税理士」を名乗るのは、それをゆっくり確認してからにしますわ。

いや、名乗ることはないな。

お客様にとってみれば、税理士は、経理処理さえちゃんとやってくれれば、クラウドだろうが、ローカルだろうが、どっちだっていいんですから。

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