100%株式所有の親子会社間では資産売却による損出しで節税はできない|グループ法人税制
目次
グループ法人税制とは?
100%所有の親子会社というのは、実質的に一体だと言えます。
ただ、税法上はあくまでも別々の法人なので、それぞれの会社ごとの損益に対して課税がされるのが原則です。
しかし、中には資産売買取引を通じて、「益出し」「損出し」による利益調整をするケースも考えられるため、一定の取引については、税務上も100%所有親子会社間を一体として課税を考える「グループ法人税制」というものがあるのです。
そこで、今回は、グループ法人税制のうち完全支配会社間の資産の譲渡損益の取り扱いについてまとめてみることにします。
完全支配関係の定義
グループ法人税制の対象となる「完全支配関係」とは、その会社の株式の100%を保有しているということを意味します。
なお、この場合の「完全支配関係」というのは、直接的な親子会社だけでなく次のようなケースも含みます。
(1)A社がB社の株式を100%所有するA社とB社(親子会社)
(2)A社がそれぞれ100%所有するB社とC社(兄弟会社)
(3)A社が100%所有するB社が50%、A社が50%所有するA社、B社、C社(親会社、子会社、孫会社)
(4)同じ個人がそれぞれ100%所有するA社とB社(兄弟会社)
(5)一定の同族関係者*がそれぞれ100%出資するA社とB社(兄弟会社)
これらの会社間の取引については、グループ法人税制の対象となるのです。
*「一定の同族関係者」とは、株主の親族(6親等内の血族・3親等内の姻族)、内縁者、使用人などです。
一定の資産の譲渡損益は繰り延べられる
上記のような「完全支配関係のある法人間」の一定の資産の譲渡損益は、すぐに計上はされません。
そうすることで、資産移転による「損出し」「益出し」による利益調整を封じ込めているのです。
では、具体的にどのような資産の譲渡について譲渡損益の繰延をするのでしょうか?
次の資産のうち「譲渡直前の帳簿価額が1,000万円以上のもの」が譲渡損益の繰延の対象となります。
(1)固定資産
(2)土地(土地の上の存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)
(3)有価証券(売買目的有価証券を除く)
(4)金銭債権
(5)繰延資産
つまり、資産の部に計上されたもので、直前の帳簿価額が1,000万円以上のものの譲渡は大抵、その譲渡損益は繰り延べられるということです。
会計上は損益は計上、税務上は損益を繰延
では、完全支配関係の会社間では、上記の譲渡が禁止されているのでしょうか?
そのようなことはないです。実際に売却することは可能です。
会計上もそれらの譲渡対価と帳簿価額との差額については、資産の譲渡損益を計上します。
しかし、その譲渡損益については、法人税の計算上ないものとするということです。
つまり、会計上の利益と税務上の課税所得にその分、誤差というか時点のズレが生じます。
(1)完全支配関係会社間で譲渡をした時
例えば、帳簿価額5,000万円の土地を時価相当額の3,000万円で完全支配関係のA社からB社に譲渡をしたとします。
会計上は、固定資産売却損2,000万円(5,000万円ー3,000万円)が計上されます。
もし、経常利益が8,000万円ならば固定資産売却損2,000万円を差し引いた6,000万円が税引前当期純利益となるのです。
しかし、グループ法人税制が適用される場合、完全支配関係会社間の土地の譲渡損益はないものとされます。
つまり、固定資産売却損2,000万円は損金不算入となるので、課税所得は税引前当期純利益6,000万円に2,000万円を加えた8,000万円になるということです。
(2)完全支配関係会社から第三者に譲渡した時
譲渡損益を繰り延べるというのは、今は計上しないがいずれ計上するということです。
では、どのタイミングで繰り延べられている譲渡損は計上されるのでしょうか?
それは、譲渡先の完全支配会社が再度第三者にその資産を譲渡したときや完全支配関係が消滅したときです。
その時点で、完全支配関係会社間で譲渡をした会社の側で、繰り延べていた譲渡損益を計上することになるのです。
(減価償却資産については、譲受先で減価償却をした割合を乗じた金額だけ徐々に損益に計上していきます。)
グループ法人税制はとても複雑で、ここですべてを語るのは難しいですが、個人を含めて100%支配している会社間で資産を譲渡した場合、その譲渡損益はひとまずないものとみなされるので、一定金額以上の資産譲渡を使った利益操作による節税はできないとだけ覚えておいてください。
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