本社や工場の引越しや移設費用、その損金算入と資産計上の境界線
本社や工場の移転に伴う費用は高額に
本社や工場を移転するとなると、高額な移転費用がかかります。
では、それらの移転費用の経理処理はどうなるのでしょう。支出時に損金になるのか、資本的支出となるのか。
そこで、今回は、移転費用の税務処理のルールについてまとめてみます。
引越し費用は支出時損金算入
本社や工場などの施設を移転するというのは、売上高獲得のための行為なので、その支出は、費用となるのが原則です。
しかし、その支出の効用が1年以上の長期に渡るものや移転後にその資産に価値が増加するような改良が加えられている部分については、一旦資産計上がなされ、その支出の効果が及ぶ期間で按分した金額だけ徐々に損金に算入されていくのです。
一般的に、引っ越し代については、その支出の効果が1年以上にも及ぶということはまずないですし、移動した資産の価値が増加することもないため、支出時に全額が損金算入されます。
退去に伴う費用は支出時損金、残存資産は除却損
引っ越しに伴い、残置物を廃棄したり、清掃をしたりという費用がかかります。
これらの退去に伴う費用についても、その支出の効果が1年以上にも及ぶとは考えにくく、資産価値が上がることもないので、支出時に全額損金算入されます。
また、旧本社等にあった資産を廃棄した場合、その資産の残存帳簿価額については、固定資産除却損として全額損金算入されます。
新規に設置したものは、消耗品費または資産計上
引越し後、新たに資産を取得した場合には、原則として、新たな資産取得に要した金額が資産に計上がされます。
その際には、搬入から設置し試運転をするまでに掛かった費用はすべて資産計上です。
ただし、中小企業については、取得価額が30万円未満である減価償却資産を取得した場合、その事業年度で合計300万円までであれば、「少額減価償却資産」として支出時に全額損金算入も可能です。
この金額の基準は、その資産が「一つ一つで個別に機能を発揮するのか」に加え、実際に「どう組み合わされ一体で使用されているのか」により判定がされます。
機械装置等の移設費用
揉めそうなのは、まだ利用可能な資産を移設した場合の移設費です。
既存の機械装置を『配置換え』した時の移設費用については、価値が増加するようなことはないため、原則として全額損金算入でいけます。(法基通7-8-2)
ただし、法人税法基本通達7-3-12において
「集中生産又はよりよい立地条件において生産を行う等のため一の事業場の機械装置を『他の事業場』に移設した場合又はガスタンク、鍛圧プレス等多額の据付費を要する機械装置を移設した場合」には、運賃、据付費等その移設に要した費用(解体費は除く)は機械装置として資産計上し、旧据付費を損金に算入せよと。
なお、その移設費の額の合計額が当該機械装置の移設直前の帳簿価額の10%以下であるときは、上記の方法ではなく、移設費の額をその移設をした日の属する事業年度の損金の額に算入してもよいとされています。
収用などで強制的に移転させられる場合や製品の製造量が減り工場が集約されるなど以外は、通常、生産性を上げるためか、よりよい立地条件のところに移転するわけですが、実際の税務調査では、その移転費用の損金算入について判断が分かれそうです。
建物についてペンキ塗り替え費用を資本的支出とするのは、「その塗り替えでなにもしないときよりも耐用年数が伸びる」ということが根拠であり、別に移転したところで、機械そのものの耐用年数が伸びるわけじゃないですから。
移設費用を一時損金算入できるか資本的支出とするかの判断基準は、
原則
旧機械装置については現状通りの製造工程を踏襲している、あるいは、製造工程は変更されたが、その主たる目的が新規設備導入であれば、それにつなげる旧機械装置の移転費用を損金算入してもまず問題なし
例外
あちこちに散っていた製造ラインを組み替えて工場を集約した場合には、移転費用の資産計上もやむなし
ということではないでしょうか。
とりあえず税務署は、多額の移転費用があると、「資産計上すべき」という指摘をしてくるでしょうが、「別に広くなっただけでよりよい立地じゃない、どこの部分が以前より立地条件がいいと判断したんだ。それに、集中生産ってなんだよ。生産能力が上がったのは新しい機械のおかげであって移設した機械自体の生産能力は上がってないぞ、どこで生産性が上がったのか書面で具体的に説明して」とゴネる税理士相手では、無理には取りにくいでしょうね。
税務署も「あわよくば」と思って指摘していることも多々あるので、必ずしも「はい、そうですね」と従う必要はないのです。
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