過度に少なくした役員報酬のツケは忘れた頃にやってくる

節税と一言で言っても大きく分けて3種類ある

何度も申し上げていることですが、世間で節税と言われているものは、

・単に税金の支払期限を延期するにすぎない「繰延型節税」

・実際に税負担が軽減される「永久型節税」

・法律の盲点をついた効果の不安定な「租税回避行為」

に分けられます。

さらに、永久型節税も

・不良資産処分などの「過去の失敗の取り戻し」

・税額控除、退職金、借り上げ社宅などの「政策的な配慮」

・役員報酬調整や別会社設立などの「税率構造の乖離の利用」

という3つのパターンに分けることが出来るのです。

さて、このうち役員報酬の調整とは、法人税と所得税の税率構造の違いに着目し、法人個人を通じた税負担が最小となる役員報酬額を設定するという節税方法です。

「最適役員報酬額の設定」は永久型節税ですので、ここで得られた節税効果は、繰延型節税のように後で「取り戻される」ようなことはないはずです。

しかし、今回は「永久型節税だと思っていたものでも後でそのツケを支払わなくてはならないこともある」という話をしたいとおもいます。

法人税率は思ったより低く、最適役員報酬額はかなり低い

資本金1億円以下の中小企業の場合、法人税等の税率は

・課税所得800万円以下の部分は約20%

・課税所得800万円超の部分は約30%

となっています。

一般に思われているよりも法人税等の負担は低く、特に課税所得800万円以下の部分の税率であれば、
思いの外低い金額で役員報酬の所得税・住民税の税率のほうが高くなるのです。

さらに、役員報酬に対する概算経費とも言える給与所得控除が195万円で頭打ちとなりました。

加えて、オーナー社長であれば、社会保険料は会社負担分といえども結局自己負担であるとも言えます。

そのため、本気でこれらの税金や社会保険料の負担を最小にする役員報酬額を求めようとすると、その報酬額はかなり少ない金額になることも多いのです。

【2020年以降版】税負担を最小にする最適役員報酬はいくらなのかシミュレーション

一方で、業績が芳しくなく、本来の役員報酬額を計上すると赤字になってしまう時などには、赤字決算の回避のため、月額10万円以下といった極端に低い役員報酬とすることもあります。

これにより、オーナー社長の役員報酬に対する所得税、住民税、社会保険料の負担が軽減でき、苦しい資金繰りの中で無駄なキャッシュアウトを極力防ぐという効果が得られることになります。

なんだ結局支払わなくちゃいけないんだな

しかし、これらの極端に低い役員報酬額では、オーナー社長は暮らしていくことができません。

その場合には、通常必要な生活費に足りない分については、給与ではなく、会社からの借入としてお金を引き出すことになるでしょう。

この会社からの借入とは、会社から見ればオーナー社長への貸付金ですので、決算書上は役員貸付金となります。

この役員貸付金については、税務上認定利息を計上しなくてはなりません。

その分については、会社の収益となり、法人税等を負担することになるのです。

しかし、これは、大した問題ではありません。

実は、もっと大きな問題があります。

それは、融資を受ける際に、役員貸付金が障害になることがあるのです。

この役員貸付金というのは、銀行が非常に嫌いな科目です

その理由としては、

・会社に融資した資金が目的外で利用される抜け穴になること

・オーナー社長は一蓮托生なので、万一の際の回収可能性が低く財産的価値があやしいこと

が挙げられ、この金額が決算書に計上されている場合、「なぜ、この貸付金が発生したのか」「どうやって解消するのか」という質問が決算のたびにされることになります。

特に、この金額が多額であったり、年々増えているというのは問題です。

しかし、極端に低い役員報酬額を設定すると、当然のようにこの役員貸付金は増えていってしまいます。

ですが、融資の障害となるのであれば、この役員貸付金を返済するしかないでしょう。

では、どうやって返済をするのか。

利益水準が高くても少額の役員報酬しか計上せず、お金を会社で残していると個人の手許にはそれほどのお金がありません。

業績が芳しくなく、渋々少額の役員報酬しか計上していないのであれば尚更です。

手許のお金で返済ができないのであれば、今度は逆に、通常の生活費に役員貸付金の返済分を上乗せした役員報酬を設定せざるを得ないことになります。

当然、この時点で、オーナー社長の役員報酬に対する所得税、住民税、社会保険料の負担は実際の生活費を役員報酬としてもらっていた場合に比べて一気に重くなるわけです。

これでは、永久型節税であっても、過度に低い役員報酬を設定して得た節税分を後で吐き出しているようでもあり、単に支払期限がズレだだけのようでもあるでしょう。

* *

もちろん、融資など全く受ける必要などない業種や会社であれば、極限まで節税にこだわっても良いといえます。

しかし、融資を受ける場合には、「節税」と「資金調達」という異なる2つのベクトルが合わさりトータルで最も大きな成果をもたらす点を探さなくてはいけないのです。

いろいろ考えなくちゃいけないことがありますね。

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