事前確定届出給与で社会保険料を節約していたときの退職金損金算入限度額に要注意

事前確定届出給与で社会保険料を圧縮

オーナー社長にとって、今や税金よりも負担の重いことのほうが多い社会保険料。

その社会保険料負担を軽減しようと色々な試みがされています。

その中で、「事前確定届出給与」を活用した社会保険料軽減策というのが、一部で流行っているようです。

そこで、今回は、事前確定届出給与を活用した場合の「役員退職金損金算入限度額」への影響についてまとめてみることにします。

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事前確定届出給与とは

まず、法人税法上、役員に対する給与が損金に算入されるには、原則として、月以下の単位で「定時同額」での支払いが求められています。

つまり、毎月一定の金額を一定の日に支払ったものしか役員報酬は損金には算入されず、それ以外の部分については、損金不算入とされます。

なぜそうなったかというと、期の途中から「儲かったときには役員報酬を上げ、儲からなかったときには役員報酬を下げる」ということで会社の利益調整を図ることを封じ込めようということなのです。

別に、役員報酬が増えたところで、法人税は減るものの所得税は増えるのですからトータルではさほど税額には影響はないのですが、税務署は、とにかく利益調整は大嫌い。

別の部署である所得税担当の税金が増えたところで、自分のところの法人税が減るのは許せないのです。

しかし、経済取引はすべて税務署の都合に合わせているわけではありません。会社の役員であっても、盆暮れには特別の出費もありボーナスは欲しいもの。

そこで、考え出されたのが、「事前確定届出給与」という制度です。

これは、簡単に言うと

「そんなに言うなら、ボーナス払ってもええで」

「その代わりに事前にいくら賞与を支払うのか届け出ろや」

「その金額通りに支払うなら損金算入したってもええわ」

「ただし、1円でも金額が違ったら、その支払った賞与を全額損金不算入にしたるからな」

というものです。

どうしても役員に賞与を支払いたいー事前確定届出給与という選択肢

法人税法上の退職金損金算入上限額

さて、話は変わって、役員退職金についてです。

退職金というのは、「勤続年数に応じた退職所得控除」を差し引いた「残額を1/2にした金額」に対して、他の所得とは合算することなく「分離課税」により税額が計算されるという課税上非常に有利な所得です。

その退職金額を自由に決定できるオーナー社長であれば、それこそ青天井で退職金の支給をしたいもの。

しかし、法人税法上、支払った金額が会社の損金に算入できる上限金額が定められており、それを超えて支給された退職金については損金不算入とされるのです。

では、その役員退職金の損金算入限度額はどのように定めれらているのか?

実は、これという明確な規定はありません。

役員退職金損金算入限度額=最終報酬月額×勤続年数×功績倍率

という算式で計算するのが実務上のスタンダートとされています。

この「功績倍率」とは、一般的に、役職ごとに定められます。

代表取締役であれば、3倍までは、ほぼ税務調査で否認されるケースはないと言われています。

裁判例では、1.5倍などとこれよりも低い数字で確定しているものもありますが、これらは、納税者側が5倍や8倍など3倍を超える功績倍率を主張し、税務調査でも承服しなかった結果、係争となり、その中で類似の同業他社の実績から「適正値」として算出されたものといってよいかと。

要するに、無茶しすぎたのにゴネていたら、「ガチの基準」を用いられたということでしょう。

では、「最終報酬月額」とはどんなものか。これは、その名の通り「退任直前の月額役員報酬額」です。

できるだけ役員退職金額を引き上げたいのであれば、退任直前期にドドンと役員報酬を引き上げればよいと誰でも考えるはず。

しかし、最終報酬月額も退任直前の事業年度になっていきなり上げても、それが適正な「最終報酬月額」ではないとして、その金額をベースに役員退職金を支給している場合には、損金不算入とされる金額が出ることもあります。

退任二期間前に引き上げたものの否認されたケースもあるので、役員退職金の損金算入限度額を大きくしたいのであれば、退任「数期間程度前」から役員報酬は引き上げておきたいものです。

事前確定届出給与で定時同額給与を引き下げていた時は要注意

さて、ここからが本題です。

この事前確定届出給与を用いた社会保険料軽減策とは、ここで詳しくは書きませんが、要するに、同じ年額の役員報酬を支払うのであれば、

・定時同額の役員報酬を数万円という極小の金額にする

・年度末に残額を一気に賞与として支給をする

・賞与の社会保険料には上限額があるため、社会保険料計算の上限を超えた部分について社会保険料が加算されず、トータルの社会保険料負担が大幅に減る

というものです。

そのため、「月給が6万円で賞与が2000万円」という明らかに歪んだ支給形態が取られることもあります。

極めて歪んだ状態ではあり、制度の本来の趣旨とは異なったとしても、税務署から見れば、社会保険料の支払いが減ると、その分、法人も個人も所得が増え、課税額は大きくなるので、そんなに文句は言ってこないようです。

では、この歪んだ状態で、退職金の支給が生じた場合、損金算入限度額はどうなるのか?

「事前確定届出給与は、あくまでも、執務期間(通常12ヶ月)に対する報酬の支給形態を変えただけであるから、その執務期間の役員報酬合計額を12で割ったものが最終報酬月額になるのではないか」とも考えられます。

しかし、税務通信No.3589によると、事前確定届出給与があっても定時同額部分が最終報酬月額になるとのこと。

(該当裁決例をTAINZで読んでみたところ、この件では「役員に対する定期同額給与は支払われたものの、事前確定届出給与の支払はなかった」との記載があり、「単なる事前確定届出給与で賞与の”枠取り”をしただけで実際には賞与が未払いであることから、その賞与を最終報酬月額に加味すべきではない」と判断していると考えられ、この裁決を事前確定届出給与を活用した場合の賞与について、一般的に適用すべきものとするのには事例として適当ではなく、個人的に疑問は残ります。

仮に税務通信の言うとおりだとすれば、事前確定届出給与を用いることで、有利な退職金の損金算入限度額が一気に小さくなってしまうということもあるということになるわけです。

まあ、税務署としては、社会保険料を減らしても法人税は増えるので何も言わなかったものの、法人で退職金の損金不算入が取れるなら、そりゃそう言うでしょうね。

ですが、オーナー社長は退任時期を自ら選ぶことができます。

なので、事前確定届出給与で定時同額給与を下げている時にはすぐには退任はしない。

退任時期が近づいてきたら、通常通りの支給形態として役員報酬を引き上げていくという対処は可能でしょう。

しかし、突然死したときには、そうは行きません。

つまり、事前確定届出給与を活用するため、極小の定時同額給与としていた中で突然死した場合には、ガクンと役員退職金損金算入限度額が小さくなる可能性もあり、時には社会保険料軽減効果が一気に吹き飛ぶかもしれないということを忘れないようにしてください。

こういうこともあるので、この社会保険料軽減策を、私は勧めてはいません。私からはね。

「社会保険料、どうにかならないですか」といわれて、渋々こういうこともあるんじゃないかなと伝えたものが、なんか、途中から私が積極的に提案したみたいに話がすり替わっていることも多いですが。

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