新型コロナ禍で引き下げた役員報酬を収束後に元に戻してもよいのか?

新型コロナの影響で役員報酬を引き下げたら?

役員への給与については、法人での利益調整を避けるため、原則として一月以下の単位での「定時同額」に支払われたものしか損金にならないことになっています。

ただし、経営が著しく悪化したことなど、やむを得ず減額せざるを得ない事情(業績悪化改定事由)がある場合には、期中での役員報酬の減額も認められています。

今回の新型コロナウイルスの影響については、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」に「業績悪化改定事由」の具体的事例が記されています。

では、新型コロナウイルスが(一時的にでも)収束した場合には、また役員報酬を元に戻すことはできるのでしょうか?

合わせて、もし、税務上否認リスクがあるのであれば、どう対処すべきかについてまとめてみようと思います。

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役員報酬減額には経営責任を取らざるを得ないことが必要

役員報酬が損金に算入されるためには、「会計期間開始の日から3か月を経過する日までに継続して毎年所定の時期にされる定期給与の額改定」されたものであることが原則として必要です。

そこで定めた以外の金額の支払いがされた場合には、その差額については、役員賞与として損金不算入となります。

しかし、その役員報酬の減額が「経営の状況が著しく悪化したことその他これに類する理由」(業績悪化改定事由)によるものであれば、やむを得ないものとして、減額前後の役員報酬も損金算入が例外的にされます。

この「業績悪化改定事由」については、法人税法基本通達9-2-13で

「経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があることをいうのであるから、法人の一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれない

と明示されています。

つまり、業績悪化改定事由には、財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ないという経営責任を取らざるを得ない状況が発生していることが必要です

より具体的な例示としては、

株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合

取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合

③ 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

が挙げられています。

相当厳しい要件が課されているということが理解できるでしょう。

新型コロナウイルスでの影響が減額容認される事例

新型コロナウイルスの影響については、業種により大きく異なるため、業績に影響があるということだけで役員報酬の減額が容認されるわけではありません。

具体的に、減額が容認されるケースとして次のようなものが挙げられています。

各種イベントの開催を請け負う事業を行っていますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、イベント等の開催中止の要請があったことで、今後、数か月間先まで開催を予定していた全てのイベントがキャンセルとなりました。

その結果、予定していた収入が無くなり、毎月の家賃や従業員の給与等の支払いも困難な状況である

 

外国からの入国制限や外出自粛要請が行われたことで、主要な売上先である観光客等が減少しています。そのため、当面の間は、これまでのような売上げが見込めないことから、営業時間の短縮や従業員の出勤調整といった事業活動を縮小する対策を講じています。

また、いつになれば、観光客等が元通りに回復するのかの見通しも立っておらず、今後、売上げが更に減少する可能性もあるため、更なる経費削減等の経営改善を図る必要が生じています。

これらのケースに対して「業績悪化改定事由」に該当するとしています。

国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ|国税庁

ここから、イベント事業、飲食業、インバウンド(観光)事業などという、自粛要請により特にコロナの影響を長期間で甚大に受けているケースについては、役員報酬の減額も容認されると考えて良いでしょう。

そうではない、一ヶ月程度の休業や売上高が1-2割程度の下落見込みに対する役員給与の一時的な減額は、「定時同額ではない」と税務調査で否認されるリスクはあると個人的には考えます。  

収束後に元に戻した場合には、増額分は損金不算入とされる

では、上記の「業務悪化改定事由」に該当し、期中での役員報酬の減額が認められたのちに、ウイルス収束に合わせて、同じ期中に役員報酬を元に戻しても良いのでしょうか。

たとえ、新型コロナウイルスの影響であったとしても、「業績悪化改定事由」に該当する役員報酬の減額があった後、同一事業年度内に役員報酬を元に戻した場合には、その増額改定分については、定時同額給与ではなく役員賞与として否認されることになります。

(参照:週刊税務通信No.3603)

事前確定届出給与の活用で役員給与総額に選択肢も

経営者の才覚では乗り切ることのできないような大きな外部要因の変動があったとしても、役員報酬を一時的に引き下げそれをもとに戻すことができないというのは、あまりにも酷というもの。

しかし、税務署の「利益操作阻止」の執念は相当強いというのが実際の税務調査で受ける感触です。

それであれば、こちらもなんとか、合法的に役員報酬変更の選択肢は持っておきたいところです。

具体的には、

(1)「事前確定届出給与制度」を活用した上で、一度だけ期末に役員賞与支給を届け出る。

(2)業績低迷が小さいときにはその役員賞与支給をするが、業績低迷が長期に渡ったときには役員賞与を支給しない。

(3)事前確定届出給与制度を利用している場合、「届出額」より多くても少なくても、その支給額の全額が損金算入されないものの、実際に支給した賞与がない以上否認される金額は0。

ということで、結果的に、期末に「役員賞与を支給する」OR「支給しない」という業績に合わせた役員報酬支給額に選択の余地を残すことができるということです。

役員賞与を事前確定届出どおりに支払わなかったら?|利益操作の余地も

これは、事前確定届出給与の本来の目的と異なり、「グレー」な利用方法ではあります。

しかし、未曾有の危機を乗り切るには背に腹は変えられないのではないでしょうか。

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