1割値上げをするのと1割余計に数を売るのではどちらが利益は増えるのか?ー利益感度分析の計算をしなくても決算書だけでその結果を知る方法

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利益感度分析とは?

先日の勉強会でお話したネタを一つ披露致します。

費用は、売上高や生産量に関わらず発生する「固定費」と売上高や生産量に応じて発生する「変動費」に分けることができます。

一方、売上高は「単価」✕「数量」という因数に分解が可能です。

では、会社の利益を今より増やすにはどうしたら良いのでしょうか。

そのためには、

・単価を上げる(値上げ)
・販売数量を増やす(拡販)
・変動費を下げる(原価低減)
・固定費を下げる(固定費削減)

ということになります。

これらは、同じ比率だけ改善をしたとしても、同じ比率だけ利益が改善するわけではありません。

実は、利益に対する影響度合いはそれぞれ違います。

そこで、何を改善するのが最も利益に影響を与えるのかという分析をする方法があります。

これを利益感度分析といいます。

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利益への影響を方程式で表してみると

具体的には、それぞれの要素を例えば10%だけ改善した時にどれだけ利益が増加するのかを計算します。

そこから、利益を増大するために取り組むべき優先順位がわかるのです。

なお、この結果は、それぞれの会社の「利益構造」により異なります。

しかし、実は「値上げ」「拡販」「原価低減」「固定費削減」のうちどの順番で利益改善効果が大きいかというのはだいたい決まっているのです。

そこで、今回は、利益感度分析をしなくても、決算書だけでザックリとその結果を予測する方法を考えてみましょう。

まず、これらの要素を図にすると次の様になります。

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利益感度分析というのは、実はこの図の要素を改善することで増える利益の大きさを比較するということです。

では、それぞれの要素を同じ比率だけ改善した時に増える利益の大きさを見てみましょう

なお、

・売価:A円
・数量:B個
・原価:C円
・固定費:Z円
・増減する割合:α%
・限界利益(売上高ー変動費)

とします。

<値上げ>

販売価格をA円とすると、その販売価格をα%引き上げた時の値上げ幅はA✕α円です。

この時に増える利益の金額は、値上げされた金額A✕α円に

現在の販売数量B個を掛けた金額となります。

・値上げによる利益増加=αAB

<拡販>

現在の販売数量をB個とすると、拡販により増える販売数量はB✕α個です。

この時に増える利益は、商品一つについての利ざや(AーC円)に拡販により増える販売数量B✕α個を掛けた金額となります。

・拡販による利益増加=αB(AーC)=αABーαBC

<原価低減>

現在の原価(仕入れ値)をC円とすると、原価低減による金額はC✕α円です。

この時に増える利益は、原価低減した金額C✕αに現在の販売数量B個を掛けた金額となります。

・原価低減による利益増加=αBC

<固定費削減>

現在の固定費をZ円とすると、固定費削減による金額はZ✕α円です。

・固定費削減による利益増加=αZ

値上げと拡販の比較

値上げと拡販、それぞれの利益増加額を見てみましょう。

・値上げによる利益増加=αAB

・拡販による利益増加=αB(AーC)=αABーαBC

ここから、拡販による利益増加は、値上げによる利益増加より必ずαBC円だけ小さいことになります。

この数字は必ず正の数なので、結果として常に

・値上げによる利益増加>拡販による利益増加

となるのです。

値上げと原価低減の比較

値上げと原価低減、それぞれの利益増加額を見てみましょう。

・値上げによる利益増加=αAB

・原価低減による利益増加=αBC

在庫処分セールなど特別な事情がない限り、売価A>原価Cのはずです。

結果として、常に

・値上げによる利益増加>原価低減による利益増加

となるのです。

拡販と原価低減の比較

値上げと拡販、それぞれの利益増加額を見てみましょう。

・原価低減による利益増加=αBC

・拡販による利益増加=αB(AーC)=αABーαBC

この2つの式が=となるのは

αBC=αABーαBC

2αBC=αAB

2C=A

C=A/2

となります。

つまり

C<A/2ならば拡販による利益増加

C>A/2ならば原価低減による利益増加

ここから

C(原価)がA(売価)の1/2よりも小さければ拡販が、C(原価)がA(売価)の1/2よりも大きければ原価低減が利益をより押し上げる。

つまり、限界利益率(≒粗利益率)が50%で両者は同じになり、

・限界利益率50%未満:原価低減の方が拡販よりも利益増加大

・限界利益率50%超:拡販の方が原価低減よりも利益増加大

ということになるのです。

これは、粗利益率が高い(原価率が低い)のであれば、原価低減の効果は小さく、粗利益率が低い(原価率が高い)のであれば、原価低減の効果が大きいという皮膚感覚で理解していることを算式で示していると言えるでしょう。

つまり、値上げ、拡販、原価低減についての利益感度は

・値上げが常にトップ

・限界利益率が50%を境に、超えれば拡販>原価低減、下回れば拡販<原価低減

であるということは、わざわざ計算しなくてわかることになります。

固定費削減の感度は?

では、固定費削減についてはどうでしょうか。

これは、売上高と関係なく発生するので、わかりません。

しかし、会社が黒字か赤字かである程度の順位がわかります。

会社が黒字というのは現在の限界利益>固定費ということです。

つまり

B(AーC)>Z

ということです。

さて、

・拡販による利益増加=αB(AーC)

でした。

ここで

B(AーC)>Z

ということは

αB(AーC)>αZ

ということにもなるでしょう。

つまり、黒字であれば常に

・拡販による利益増加>固定費削減による利益増加

ここから、黒字の場合、固定費削減による効果は、常に値上げや拡販よりも利益に対する影響度は小さく、原価低減よりも小さくなることが多いということがわかります。

ただし、利益感度分析は、あくまでも会社の利益構造を知るためのものです。

いくら、利益に対する良いインパクトが大きいからといってどの会社でも値上げが実現できるわけではありません。

例えば、同じ商材をカカクコムなどで販売しているというのであれば、値上げはまず無理です。

しかし、常に行列のできる飲食店であれば、値上げをしてもそのことによるお客様の減少を吸収して余りあることも多いでしょう。

あるいは、平日と休日とで同じ料金体系にしているサービス業が予約であふれている休日の料金について値上げをするなどの余地はあります。

一方、拡販については競争が厳しければ、そう簡単には実現しませんし、原価低減には、より大きな仕入れのボリュームが必要になり、拡販が実現しない中では、より多くの売れ残りのリスクを背負うことにもなります。

結果的に、固定費削減しか余地がないという場合も多いものなのです。

また、5%の値上げと、5%の拡販と、5%の原価低減と、5%の固定費削減が同じ努力で成し遂げられるかというとそうとも限りません。

なので、よく言われる「利益を増やすために固定費削減から手を付けるのは愚の骨頂だ」というのは理論上は正しくても、それは値上げや拡販、原価低減について実効性の高い方策があってのものだといえるでしょう。

実際の目標利益を達成するための経営計画を立案するには、一つの要素の改善ではなくそれぞれの要素の改善を組み合わせることが現実的です。

これらの改善策の現実的な可能性を考慮し、それらの限界値を制約条件として目標利益を達成するための組み合わせをExcelのソルバーなどの機能を用いて計算をしてみてはいかがでしょうか。

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