「死ぬまで生活費は面倒見る」という遺産相続|代償金と終身定期金

遺産が分けづらい時には代償金で調整

遺産については、遺族(相続人)間の協議により、誰がどの財産を相続するかが決められます。

これがすべて現預金というのであれば、1円単位で分けることができますが、例えば遺産が自宅しかないという場合には、共有しても使いづらく権利関係も複雑になりトラブルの温床となります。

そこで、そのような場合には、相続人の一人が自宅をすべて相続をし、その代わりに自分のお金から他の相続人にお金を支払うことで調整をするのです。

このように遺産だけではうまく分けられない時に、自分のお金を他の相続人に支払うことで調整をすることを「代償分割」といい、他の相続人に支払うお金のことを「代償金」というのです。

そこで、今回は、この代償金について、一括の支払ではなく、「死ぬまでずっと分割して支払った場合」の取り扱いについて考えてみようと思います。

高齢者はいくらお金があっても減ることに抵抗がある

不動産など分けづらい遺産しかない場合などには、その不動産を特定の人が相続する代わりに、その相続をした人がお金を支払う「代償分割」が取られることが多いです。

その際には、金額とその支払期日などを定めますが、一般的には一括で支払うことのほうが多いでしょう。

しかし、高齢者は、余命を考えればどう考えても使い切れないくらい手許にお金があったとしても、そのお金を取り崩して毎年お金が減り続けていくと言うのは不安を感じるものなのです。

それであれば、「毎年いくらずつお金を支払いますよ」という代償金の約束にすれば良いことになりますが、支払期間を定めようにも、一体いつまで支払えばよいのか、人間の寿命は誰にもわかりません。

「そんなには生きないんじゃないかな」と周りが思うような年数であっても、本人からすれば生きている途中でお金が打ち切られるのは不安ですし、かと言ってあまりに長い年数の支払いを代償金で定めるとその残金は第二次相続時の遺産としてまた遺産相続の対象となってしまいます。

では、どうすれば二律背反する問題を解決できるのか。

できるだけ将来の揉め事のタネである第二次相続の遺産を減らしながら、高齢者が安心する最も合理的な提案は、「自分が生きている間は、毎年一定額を受け取ることができる」という代償分割となるはずです。

終身年金の相続税評価額

「自分が生きている間は、毎年一定額の金額ができる権利」のことを「終身定期金」といいます。

身近な例であれば、国民年金や民間の終身年金保険が挙げられます。

これらの終身定期金については、総額いくらもらえるかは、その人が亡くなるまでわかりません。

では、この終身定期金について、相続税法上がどのように評価がされるのでしょうか。

「定期金に関する権利」については、相続税基本通達で次のように定められています。

 平成22年度税制改正において、定期金給付契約に関する権利の評価方法のうち定期金給付契約でその契約に関する権利を取得した時において定期金給付事由が発生しているものに関する権利の価額は、有期定期金、無期定期金又は終身定期金の態様に応じ、それぞれ次のように評価することとされた(相法241)。

1 有期定期金

次に掲げる金額のうちいずれか多い金額

(1) 定期金給付契約に関する権利を取得した時においてその契約を解約するとしたならば支払われるべき解約返戻金の金額
(2) 定期金に代えて一時金の給付を受けることができる場合には、定期金給付契約に関する権利を取得した時において一時金の給付を受けるとしたならば給付されるべき一時金の金額
(3) 定期金給付契約に関する権利を取得した時におけるその契約に基づき定期金の給付を受けるべき残りの期間に応じ、その契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額に、その契約に係る予定利率による複利年金現価率を乗じて得た金額

2 無期定期金

次に掲げる金額のうちいずれか多い金額

(1) 定期金給付契約に関する権利を取得した時においてその契約を解約するとしたならば支払われるべき解約返戻金の金額
(2) 定期金に代えて一時金の給付を受けることができる場合には、定期金給付契約に関する権利を取得した時において一時金の給付を受けるとしたならば給付されるべき一時金の金額
(3) 定期金給付契約に関する権利を取得した時における、その契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額を、その契約に係る予定利率で除して得た金額

3 終身定期金

次に掲げる金額のうちいずれか多い金額

(1) 定期金給付契約に関する権利を取得した時においてその契約を解約するとしたならば支払われるべき解約返戻金の金額
(2) 定期金に代えて一時金の給付を受けることができる場合には、定期金給付契約に関する権利を取得した時において一時金の給付を受けるとしたならば給付されるべき一時金の金額
(3) 定期金給付契約に関する権利を取得した時におけるその目的とされた者に係る余命年数に応じ、その契約に基づき給付を受けるべき金額の一年当たりの平均額に、その契約に係る予定利率による複利年金現価率を乗じて得た金額

ところで、年金の方法により支払われる又は支給される保険金又は退職手当金等の額は、定期金給付契約に関する権利として評価した金額すなわち基本権の価額により課税されるものである。

一時金で支払又は支給を受ける保険金又は退職手当金等の額を分割の方法により利息を付してその支払又は支給の方法が定期的に行われるものについては、相続税法第24条の規定の適用はなく、その定期的に支払われる金額の総額(一時金の額。利息相当額を含まない。)に対して課税することなる。相基通24-2のなお書はそのことを留意的に明らかにした。

定期金に関する権利の評価が変わりました|タックスアンサー

最後のところに記載がある通り、代償金の金額を定めて、それを分割で支払いをするとしても、あくまでも相続税評価額はその代償金の総額ということになります。

では、「生きている間はずっと毎月お金を払う」という個人間の終身年金契約はどうなるのか?

上記の評価方法は、生命保険会社との終身年金契約について定められたもので、個人間の終身定期金契約にはなじまない気もします。

事実、個人間で終身の定期金契約が結ばれることは稀なことかもしれません。

それでもこの規定に当てはめるならば、個人間の終身年金契約であれば、(1)(2)はまずないので、結果的に代償金の評価額は(3)で計算することになるはずです。

その際の「予定利率」は、市中の生命保険会社の年金契約の予定利率を準用して遺産分割協議書に織り込むということかなと。(平成30年現在の予定利率は0.25%です)

相続税法の取扱いは明らかではないですが、トータルの相続財産額が変わるわけでもないのですし、お客様のご要望に応えられるのであれば、私はこの考えて取り組んでみようかと。

みなさまは、ご自身の責任の上でご検討ください。

なお、こちらで所定の数字を入力することで終身定期金の評価額を算出することができますよ。

終身定期金|タックスアンサー

揉めそうな遺産分割協議は、相続税の負担軽減としての第二次相続対策というより、「できるだけ事前にそのタネを小さくしていく」という視点で考えていくことが必要なのです。

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