実はイデコに加入しないほうが良い人|消える節税効果と手数料の落とし穴

2017年1月の改正で話題のiDeCoだが

今まで全く利用されていないといってもよいほど認知度の低かった個人型確定拠出年金・iDeCo(イデコ)でしたが、2017年1月より、その利用対象者が現役世代のほぼ全員に拡大され、金融機関も積極的にアピールしてきたため、加入者は大きく増えたようです。

イデコは、掛金は全額所得控除、運用益は非課税、もらったお金は退職金課税とその節税効果がこれでもかと強調されています。

しかし、へそ曲がりな税理士からすると、「いいよ、絶対お得」とみんなが言えば言うほど、「その節税効果を享受できる人とできない人がいる上に、そんなに良いことばかりじゃないのでは」といいたくなるわけです。

そこで今回は、節税効果の本質と金融機関の手数料から、実はイデコの利用は慎重にした方が良い人というのを明らかにしてみようと思います。

なぜイデコが節税になるのか、その本質を理解する

まずは結論を

・イデコは、掛金が全額所得控除になる分、もらったときにはその掛金分も所得税の課税対象に

・そのもらったお金が退職金として扱われることで結果的に所得税が節税になる

・掛金全額所得控除は税金を後ろに送る”ほうき”、退職金という”ちりとり”がないと節税効果なし

・退職金は一定期間内に複数回受け取ると減税効果の重複は制限される

・なので、イデコの他に会社から退職金をもらう場合には、イデコの減税効果が大幅に減ることも

・年金形式でもらう場合は、公的年金の受給とかぶるとその分課税が大きくなる

・イデコはその制度利用のためのコストが高く、節税効果が期待できないと逆ざやも

掛金全額所得控除は節税ではない

確定拠出年金のメリットには、「掛金が全額所得控除」、「運用益非課税」、「受取金は退職金または公的年金化」という3つが挙げられます。

節税という言葉の定義は色々あるようですが、私が考える節税対策とは「トータルの税負担を減らし、その対策をした方がしなかったよりも将来のキャッシュフローが増えるもの」をいいます。

その点からすると、実は、掛金が全額所得控除になるということでは、正確には節税効果を生みません。

掛金が全額所得控除になるなら、その分所得税等の負担は減るはず。それが節税効果がないとはどういうことでしょう。

確かに、加入時点での税負担は減っているのは間違いないです。

ですが、とにかく今の税金の支払を減らしたいというのであれば、うちに顧問料をたくさん支払っていただければ確実に税負担は減ります。

そうではなくて、確定拠出年金に加入するのは、全額所得控除した掛金が将来帰ってくるからなわけです。

では、そのお金を受け取ったときには、どうなるのか。

その場合には、「儲かった金額だけ所得として課税がされる」のが、所得税の原則です。

儲かった金額というのは、「もらったお金ーそのために支払ったお金」ということでありますが、実は、既に必要経費となった金額は支払ったお金として控除できません。

つまり、確定拠出年金としてもらったお金は全額所得となるということです。

これが個人年金保険などであれば、もらったお金からそれまで積み立てたお金が控除された金額のみが所得となるのに、それができずにもらったお金がすべて所得になるというのですから、確定拠出年金は自分が掛けたお金にも課税がされるということ。

要するに、確定拠出年金の掛金全額所得控除というのは、今の税金の負担を減らす代わりに受け取り時の税金が増えることを意味します。

これは、税金の支払期限を今から将来に延期したに過ぎません。このような節税を「繰延型節税」と私は呼んでいます。

運用益非課税も原理は一緒です。本来運用時に課税されていたものを受取時にまとめて課税しますよということです。

確かに、運用時に課税されて手取りが減るよりも、投資効率は良くなりますが、決して運用益に全く課税がされないわけではないのです。

ただし、ここでもう一つの特典が効いてきます。それが受取金は退職金又は公的年金として取り扱われるということです。

これらは、一般的な給与などに対する課税よりもかなり優遇されており、特に一時金でもらい退職金とすると、加入期間が長ければ、受け取る確定拠出年金は、ほぼ無税か、掛かっても僅少な税金となるでしょう。

これで、はじめて確定拠出年金は節税効果があるといえるのです。

逆に言えば、全額所得控除だけでは、税金の繰り延べ効果しかなく、受取金が退職金等とされることではじめて節税効果を生む。

要するに、確定拠出年金の節税効果の本質は、「受取金が退職金等として取り扱われる」ということです。

例えるならば、「全額所得控除」「運用益非課税」と言うのは、”ほうき”として税負担を将来に掃いて送っただけであり、本当の意味での節税には、その税負担を取り除く”ちりとり”が必要。そのちりとりこそが「受取金の退職金化」ということなんですね。

小規模企業共済の節税効果は掛金が所得控除されることというのは実は間違いー全額損金を過大評価して損をするな

ーなんだ、ケチをつけているが、結局、確定拠出年金には節税効果はあるじゃないか。

実は、ここで注意すべき点があります。

退職所得とされることの節税メリットとは

・勤続年数に応じた退職所得控除(1年40万円、20年超は1年70万円)

・控除後の退職所得☓1/2

・他の所得と合算せずに税率が適用される分離課税

の3つです。

しかし、退職金を一定期間に重複してもらうと、二度目以降の退職金からは退職所得控除を差し引くことに制限が発生します。

ですから、元々退職金をもらえる人が、会社からの退職金の受け取った上で、確定拠出年金をもらっても退職所得控除が差し引けず、その節税効果が大きく削られるのです。

多額の退職金が支給される大手企業の社員や公務員にとって個人型確定拠出年金はそれほど得じゃない

元々退職金がない人であればそのようなことはありませんが、「退職所得控除の制限」を避けるには、確定拠出年金を一時金で受け取ってから5年以上遅らせて会社からの退職金をもらうという調整が必要です。

これができることで、やっと確定拠出年金による「退職金二重取り」が完成し、真の意味での節税効果を得ることができるのです。

個人型確定拠出年金と小規模企業共済に加入している社長は退職金の支給時期に注意しよう

では、公的年金としてもらうとどうなるのか。

公的年金控除(65歳未満で最小70万円)があるため、通常の雑所得よりは税負担は小さいものの、本来もらえる厚生年金等に上乗せされた上で公的年金等の雑所得として課税がされるので、やはりイデコに加入していないときよりも税負担は増えてしまいます。

もし、本来の公的年金との重複を可能な限り避けるのであれば、確定拠出年金を60歳から5年間の有期年金としてもらいきってしまうなどの工夫が必要なのです。

(加入期間が10年未満の場合、支給年齢が60歳よりも遅くなるので要注意です。また、受給額によっては、確定拠出年金が公的年金となっても所得税等の負担が生じることもあります。)

公的年金等の課税関係|タックスアンサー

全額所得控除、運用益非課税、退職金等化というイデコの三大節税メリットのうち、全額所得控除と運用益非課税は単なる”ほうき”に過ぎず、一番大事な退職金等化という”ちりとり”がうまく機能しないと、節税効果は、長期間資金を拘束された割には思っていたものよりもずっと小さいものになる。

いずれにせよ、確定拠出年金の節税メリットを最大限享受したければ、そのもらい方にも細心の注意が必要であり、その調整が難しい人は節税効果が大きく減ることを覚悟せざるを得ません。

掛金が少ないと金融機関の手数料が実は重たいことも

イデコを利用するには、金融機関に対して「運営管理手数料」を支払わなくてはなりません。

従来は、金融機関ごとにその手数料額に大きな開きがありましたが、競争が激化し、ネット証券などでは「運営管理手数料は0」となっているところがほとんどです。

ただし、すべて無料というわけではなく、年間で2,004円の国民基金連合会等への手数料はどの金融機関であっても必要になるのです。

では、その手数料は運用に対してどれくらいの負担なのか。上限まで掛けた時は次のようになります。

加入者 掛金上限額 負担率
個人事業主 816,000円 0.24%
企業年金なし

(第二号)

276,000円 0.72%
公務員・

企業年金あり

(第二号)

144,000円 1.39%

 

安定的な所得がある人で、節税効果が最大限享受できる人であれば、それほど大きな負担ではないようにも思えますが、それでも毎年生じた手数料は、普通に積立の投資信託や定期積金をするなら不要なコストであり、あえて個人型確定拠出年金を選択することによる追加コストです。

それもこの数字はあくまでも上限金額での負担率ですから、その掛金が減るとさらにその負担率は増えることを覚悟しなくてはなりません。

つまり、個人型確定拠出年金は、受給額の退職金等化という節税メリットありきのものであり、コスト的には、積立額が小さいと通常の積立よりもかなりコストが高く不利であるということなのです。

そのことから、新たにイデコの利用対象者となった専業主婦は、頼みの節税効果がほとんどないので、イデコは、単に高コストの運用に過ぎず、加入するのは避けたほうが良いことになります。

(新たな掛金を停止しても運用指図者として年間768円ずつ手数料が掛かります)

同様に、「将来、専業主婦になる予定や可能性のある方」は、イデコが60歳まで原則解約ができないことを考えると、高コストの運用になりうるというデメリットを軽視しないほうがよいと言えるでしょう。

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