大きい土地は評価が高いの?低いの?|広大地から地積規模の大きな宅地への改正

土地は大きいほうが利用価値が高いようだが

大きなビルを建てるために小さな土地を地上げをしていくくらいですから、土地というのは面積が大きいほうが利用価値が大きいようにも思えます。

確かに、都心の一等地にまとまった土地があれば、「◯◯ヒルズ」というような大規模で資産価値の高いビルを建てられることでしょう。

しかし、戸建ての住宅にしか適していない住宅街であれば、ビルが建つほど大きな土地を個人の自宅にしようという人はまずいないので、あまりに大きな土地の売却先は住宅販売業者になるのが通常です。

その住宅販売業者が、開発行為をして分譲する場合には、道路や公共施設の設置が義務付けられているため、実質的に利用できる面積は小さくなります。

当然、住宅販売業者は、その土地を安い価格でしか仕入れないので、売主から見るとその売却可能額は単価×面積で計算される金額よりも大幅に低い価格にならざるを得ません。

このような土地を「広大地」といい、相続税の評価上も特別の評価方式が用いられていました。

しかし、この広大地の適否については、納税者側と税務署側で揉めるケースが多く、平成30年度の相続からは「地積規模の大きな宅地」としてよりルールが明確な別の方式で評価することになったのです。

そこで、今回は、「地積規模の大きな宅地」の評価について、広大地と比較をしながらまとめてみることにします。

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平成29年度までの「広大地の評価」

平成29年度までの相続については、遺産となる土地のうち、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく広大で開発行為を行う場合に道路等の設置が必要な土地については、「広大地」として、通常よりも大幅に減額された評価額が適用されていました。

その評価額は、通常の評価額に次の「広大地補正率」といいうものを掛けて計算をします。

広大地補正率=0.6-0.05×広大地の面積/1000㎡

面積によりますが、ざっくりというと、広大地とされるとその評価額は、通常の土地の約半分になるということ。

元々、広大な面積なので、その評価額が半額になるということは、相続税額にも大きな影響を与えます。

ところが、この広大地が適用されるか否かの判断基準が曖昧であり、税理士でもよくわからないレベルなのです。

そのため、土地の評価の専門家である不動産鑑定士に「この土地は、広大地であると思われる」という「意見書」を作成してもらい、税理士が相続税の申告をするということがよく行われていました。

ただ、この不動産鑑定士の意見書があれば確実に広大地の適用が認められるというわけでもなく、税務署に事前に相談に言っても「今の時点ではお答えできない」といわれるのです。

そのため、「否認されるかもしれないけど思い切って広大地でいきましょう。そのときにはこれくらいの追徴課税は覚悟しておいてください」とか「多額の追徴課税は後々また相続人で揉めるタネになるので広大地は諦めましょう」というなんとも不安定で納税者に負担を強いる申告がされていたのです。

平成30年度からの「地積規模の大きな宅地」

そんな曖昧な評価方式は納税者の負担が大きいということで、平成30年1月1日以降に発生した相続については、広大地の評価方式は廃止され、「地積規模の大きな宅地」としてより定型的な評価方式が適用されるようになったのです。

(1)地積規模の大きな宅地の計算式

下記(2)の適用要件を満たす「地積規模の大きな土地」については、通常の評価額に次の算式から求められた「規模格差補正率」を掛けて計算がされます。

規模格差補正率=(A×B+C/A)×0.8

*A=地積規模の大きな宅地の地積

B、Cについては、「三大都市圏かそれ以外か」で、それぞれ「地積と所在地区」による係数が定められています。

地積規模の大きな宅地の評価|タックスアンサー

(2)地積規模の大きな宅地の適用要件

地積規模の大きな宅地としての評価が可能なのは次の要件をすべて満たしたものです。

  • 路線価のある地域で普通商業・併用住宅地区または普通住宅地区に所在*
  • 地積が1,000㎡以上(三大都市圏では500㎡以上)
  • 市街化調整区域以外に所在(分譲開発行為が可能であれば市街化調整区域も可)
  • 工業専用地域ではない
  • 指定容積率が400%未満(東京都特別区は300%未満)

*倍率地域でも大規模工場用地に該当しなければ適用可

要するに戸建分譲をすると公共施設設置などの負担を強いられるために評価減をするのだから、戸建て分譲するはずがない土地はいくら地積が大きくとも評価減はされないということですね。

(3)広大地との違い

広大地による低い価額での評価ができるのは、戸建分譲以外に利用方法がないことがその根拠です。

ですから、広大地については、マンションに適した土地は対象外であり、適用を受けるには「この土地にはどう考えてもマンションを建てても採算が合わない」という個別の証明が必要でした。

そのため「近隣にマンションが建っているからダメ、いやあれだけ離れていれば大丈夫」という税務署と税理士の曖昧な水掛け論が見られ、中には、お金がないので土地を国に買い取ってもらう「物納」をする場合、その土地の評価額を安くしたい税務署の徴収官が「ここは広大地だ」というのを、評価額を上げて土地を高く買ってほしい私が「いや直ぐそばにマンションが建っているから広大地じゃない」などという逆のケースもあったのです。

しかし、地積規模が大きな土地はマンション適地かどうかの判断は不要です。戸建分譲にはなじまない高度な商業地区や工場の専用地域、あるいは開発行為ができない地域などにあるなど画一的に適用対象外の要件を定めるようにしたのです。

また、その土地自体が賃貸用のマンション等の場合、広大地の適用は端からありませんでした。しかし、地積規模の大きな土地については、賃貸用物件の敷地でも適用対象となります

いずれにせよ、この「地積規模の大きな土地」に評価方式が変わったことで判断基準は明確になり、否認リスクを考えてこの規定の適否を納税者が判断するということがなくなったのは良い改正だと言えるでしょう。

広大地の適用をしていない土地の相続税還付も

実は、税理士が相続税の申告をしたものについて、本来であれば広大地の適用が可能であったものの、適用されていないというケースもあります。

その場合には、相続税の申告期限から5年以内であれば、改めてその土地が広大地であるという「更正の請求」をし、既に納付している相続税の還付を受ける余地があるのです。

そのため、「相続税の還付」に特化した税理士が、登記簿謄本から地積が大きくて相続があった物件を洗い出し、「あなたも相続税が戻ってきますよ!」という派手なパンフレットを送りつけてくるという営業を資産家にしているのを見ることも。

当初に相続税の申告をする税理士としては、広大地として申告をして否認されると困るし、申告をしないとあとから来た税理士に広大地で申告できたはずと煽られるというのはなんともねえ。

結果的に、相続税の還付が受けられた場合には、その手続きをした税理士に還付額の一定割合を掛けた金額の成功報酬が支払われることになりますが、「そのお金は、税理士が当初から広大地として申告をしていれば支払わなくても良かったものなので、その税理士を訴えて巻き上げましょう」なんていうエグいセールスも行われているのです。

「知らない税理士がこんなセールスをしてきたんですが、本当にこんなことできるのですか?」と聞かれれば、私もウソをつくわけにもいかないので、「まあ、可能性はあるでしょうね。ああ、申告をした顧問税理士さんには私が言ったとは言わないでください」と言うしかないですわ。

まさに「税理士が税理士を食う」時代。なんとも世知辛い世の中になったものですね。

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