インボイス制度後の領収証保存義務|法人税・所得税と消費税の違い
目次
インボイス制度になると適格請求書の保存が義務化
2023年10月より消費税法にインボイス制度が導入されます。
このインボイス制度が導入されると、消費税の納付額の計算上控除される仕入税額控除を受けるためには、適格事業者が発行したインボイスが必要となるのです。
クレジットカード決済をした上で、クラウド会計など改ざんをしてもその履歴が残るシステム上で会計処理がされた場合には、領収証の原本の保存が回避される特例もありますが、インボイス制度導入後にはどのような影響を受けるのでしょうか?
そこで、今回は、インボイス制度導入後の領収証の原本保存の必要性についてまとめてみようと思います。
現状での領収証保存義務
法人税、所得税
法人における法人税、個人における所得税において、課税所得の計算上控除される損金ないし必要経費については、一定期間(原則として申告期限到来から7年間)の保存が必要とされています。
しかし、以下の要件を満たす場合には、その領収証の原本の保存はありません。
- 「電子取引」の取引情報に係る電磁的記録の記録事項にタイムスタンプが付された後、その取引情報の授受を行うこと(電子帳簿保存法規則8一)
- 次の要件のいずれかを満たす電子計算機処理システムを使用して、その取引情報の授受及びその電磁的記録の保存を行うこと(電子帳簿保存法規則8三)
(1) その電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること。
(2)その電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行うことができないこと。
「クラウド請求・会計システム」は、2に該当するということです。
「電子取引」に該当するのは、以下のようなものがあります。
⑴ 電子メールにより請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)を受領
⑵ インターネットのホームページからダウンロードした請求書や領収書等のデータ(PDFファイル等)又はホームページ上に表示される請求書や領収書等の画面印刷(いわゆるハードコピー)を利用
⑶ 電子請求書や電子領収書の授受に係るクラウドサービスを利用
⑷ クレジットカードの利用明細データ、交通系ICカードによる支払データ、スマートフォンアプリによる決済データ等を活用したクラウドサービスを利用
⑸ 特定の取引に係るEDIシステムを利用
⑹ ペーパレス化されたFAX機能を持つ複合機を利用
⑺ 請求書や領収書等のデータをDVD等の記録媒体を介して受領
具体的には、
(3)クラウド請求システムを利用した請求書等の発行
(4)クラウド会計システムを利用したクレジットカード・交通系ICカード利用明細からの自動仕訳処理
(4)スマホアプリで領収証を読み取った従業員の立替経費の精算
が電子取引に該当すると考えられます。
つまり、これらのクラウド請求・会計システムを利用した場合、請求書や領収証の原本を保存しなくても良いということです。
消費税
クレジットカード決済についてクラウド会計で処理をしたとしても、仕入税額控除を受けるためには、原則として領収証の原本の保存が必要となります。
ただし、以下の場合には、仕入税額控除を受けるために領収証の原本の保存を求めていません。
・請求書等の発行されない「電子商取引」
・決済金額が税込3万円未満
また、その事業者が簡易課税を選択していれば、仕入税額控除は業種ごとに定められたみなし仕入率により計算がされるので、仕入税額控除を受けるために領収証の原本は求められていません。
結局、領収証の原本を廃棄できるのは?
簡易課税を選択していたり、電子商取引や取引金額が3万円未満であれば、消費税の仕入税額控除のために領収証の原本保存は求められませんが、法人税、所得税の損金、必要経費算入のためには保存が求められます。
一方、クレジットカード決済分についてクラウド会計で処理をすれば、法人税、所得税の損金算入のためには領収証の原本保存は求められませんが、上記以外の取引については、消費税の仕入税額控除のためには、領収証の原本保存が求められるのです。
つまり、面倒なスキャンをしてタイムプタンプを押すなどの処理なしに、領収証の原本を廃棄してもかまわないのは、
消費税の原則課税事業者
・電子商取引や税込3万円未満の決済額の領収証で
・クレジットカード決済分をクラウド会計で処理したもの
消費税の簡易課税事業者・免税事業者
・クレジットカード決済分をクラウド会計で処理したもの
に限定されるということです。
インボイス制度後の領収証の保存義務
法人税、所得税
インボイス制度は消費税の仕入税額控除の要件についての改正ですので、法人税、所得税の損金算入のための領収証の保存には影響はありません。
消費税
インボイス制度になると、消費税の仕入税額控除を受けるためには、適格事業者の発行した「適格請求書」(従来の請求書・領収証に税率と消費税額、登録番号が記載されたもの)が必要になります。
インボイス制度でも、その実務上の取り扱いを考慮し、インボイスの発行及び保存を必要としない取引も定められています。
その取引は以下のものです。
① 3万円未満の公共交通機関(船舶、バス又は鉄道)による旅客の運送
② 3万円未満の自動販売機及び自動サービス機により行われる商品の販売等
③ 郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)*
*この他「 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食料品等の販売」「生産者が農業協同組合、漁業協同組合又は森林組合等に委託して行う農林水産物の販売」についても適格請求書が不要のものもあります。
また、古物商、質屋、宅建業者や再生資源業者など「中古転売業」がその販売目的での仕入れについては、適格請求書の保存は不要です。
なお、簡易課税を選択していれば、どの業種のどの仕入れ等であっても仕入税額控除のために適格請求書の保存は不要です。
結局、領収証の原本を廃棄できるのは?
簡易課税を選択していたり、3万円未満の自販機や公共交通機関の利用料金などであれば、消費税の仕入税額控除のために領収証の原本保存は求められませんが、法人税、所得税の損金、必要経費算入のためには保存が求められます。
一方、クレジットカード決済分についてクラウド会計で処理をすれば、法人税、所得税の損金算入のためには領収証の原本保存は求められませんが、上記以外の取引については、消費税の仕入税額控除のためには、領収証の原本保存が求められるのです。
つまり、面倒なスキャンをしてタイムプタンプを押すなどの処理なしに、領収証の原本を廃棄してもかまわないのは、
消費税の原則課税事業者
・税込3万円未満の公共交通機関の利用料金や自販機利用料金の領収証で
・クレジットカード決済分をクラウド会計で処理したもの
消費税の簡易課税事業者・免税事業者
・クレジットカード決済分をクラウド会計で処理したもの
に限定されるということです。
インボイス制度になると、一般的な業種の原則課税事業者は、スキャナ保存の要件を満たさない限り、やっぱり領収証の原本はほとんど保存が必要ということになりそう。なんだかなあという感じですね。
9割の人が間違えている「会社のお金」無料講座公開中
「生命保険なら積金より負担なく退職金の準備が可能」
「借金するより自己資金で投資をするほうが安全」
「人件費は売上高に関係なく発生する固定費」
「税務調査で何も指摘されないのが良い税理士」
すべて間違い。それじゃお金は残らない。
これ以上損をしたくないなら、正しい「お金の鉄則」を