賃上げ促進税制の繰越控除を適用するにはその期も賃上げが必須です
目次
大判振る舞いのように言われていたが
岸田内閣の肝いりであった「賃上げ」。その促進策の一つとして、給与総額を引き上げた分の一定割合を法人税から控除する「賃上げ促進税制」というものがあります。
メディアでは、「賃上げ額の最大40%」も法人税の控除があると大盤振る舞いのように報じられましたが、実は、もう一つ、その控除額の上限は「法人税の2割」という隠れた壁があったのです。
そのため、赤字会社はもちろん、黒字の会社であっても、思い切って賃上げをしたのに思ったような金額の法人税の控除ができないという懸念があったところ、ならばその事業年度の法人税では控除しきれない分については、翌期以降の5年間の法人税から繰越して控除ができるようになったのです。
しかし、黒字で法人税を納付していれば、すべての期間で繰越して控除ができるわけではないです。
そこで、今回は、賃上げ促進税制の繰越控除についてまとめてみようと思います。
中小企業向け賃上げ促進税制の概要
制度の要旨
中小企業向け賃上げ促進税制は、中小企業者等又は青色申告書を提出する常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主が、前年度より給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
適用期間
令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度が対象。個人事業主については、令和7年から令和9年の各年が対象となります。
適用要件と税額控除
適用要件 | 税額控除 | |
必須要件 | 雇用者給与等支給額が前年度と比べて
① 1.5%以上増加していること または ② 2.5%以上増加していること |
控除対象雇用者給与等支給増加額の
① 15% または ② 30% を法人税額又は所得税額から控除 |
上乗せ要件① | 教育訓練費の額が前年度と比べて、5%以上増加していること
適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること |
税額控除率を10%上乗せ |
上乗せ要件② | 適用事業年度中にくるみん認定、くるみんプラス認定若しくはえるぼし認定(2段階目以上)を取得したこと
又は 適用事業年度終了の時において、プラチナくるみん認定、プラチナくるみんプラス認定若しくはプラチナえるぼし認定を取得していること |
税額控除率を5%上乗せ |
ただし、法人税額又は所得税額の20%(通常・上乗せ共通)が上限となります。
なお、仮にいくら賃上げをしたとしても、この法人税額の20%という上限を超えた分については、切り捨てられていました。
「賃上げ額の最大40%の法人税が控除される大盤振る舞い」かのようにメディアでは報じられていましたが、現実には、この法人税額の20%という隠れた壁に阻まれ、賃上げに率をかけた税額控除を満額取れるのは、その税額控除の5倍以上の法人税があるケースのみだったのです。
賃上げ促進税制の繰越控除
中小企業者等又は青色申告書を提出する常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主は、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額(上記の法人税額の20%の上限に引っかかった金額)の5年間の繰越しが可能になりました。
繰越控除が可能なのは賃上げをした期間のみ
この賃上げ促進税制の繰越控除は、赤字法人が頑張って賃上げをしても法人税の控除はできないのではという批判を受けて、「とにかく賃上げをして、もし、その年が赤字であっても、そのあと5年間控除のチャンスはあるから」という趣旨のものです。
これまで、法人税の20%という上限に阻まれていたものが、その後5年間で繰越控除のチャンスがあるとなれば、そんな”騙し討ち”もなくなるのではと期待していました。
出典|中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック(中小企業庁)
しかし、その取扱Q&Aをみると、どうもそうではない。
前期以前に生じた控除しきれていない控除額を繰越しての控除が可能になるのは、賃上げを実施した事業年度のみであるということです。
なんだこれ。要するに、賃上げ促進税制で法人税額の20%という上限に阻まれた金額を繰越して控除したければ、ずっと賃上げをし続けろということです。
さらに、繰越控除制度の適用を受ける場合には、その事業年度の賃上げに係る税額控除と繰越控除をあわせて法人税の20%が上限となります。
一定率以上の賃上げをしたら、その事業年度の分の税額控除が発生するわけで、繰越控除分を先に控除したら、新たに控除しきれない税額控除が発生すると。
これだと、賃上げ額に率をかけた金額だけ満額を繰越控除するにしても、やっぱり、とにかく高額の法人税を計上して、「法人税の20%」という上限を引き上げていくしかない。
お題目の「赤字の会社でも賃上げしてくれれば、法人税が安くなる機会がありますよ」というアナウンスとは、かなり実態は違うものになってます。
それも、賃上げ税制の繰越分については、賃上げがされなかった事業年度についても、繰り越すための申告が必要で、それを忘れると以後の事業年度での繰越控除はできないという税理士には一つもうれしくない地雷まで埋め込まれている。忘れたらその時点で、損害賠償ですから。
財務省は、政治家のメンツを守りながら、キレイに骨抜きにして大した減税措置にしないというのは常套手段。おそらく政治家もそれはわかってて、やってるのでしょう。
今話題の基礎控除の引き上げだって、仮に実現したとしても、そっと別の制約が埋め込まれて期待したほどの減税にはならないかもしれません。
既に、所得税の基礎控除は引き上げても、住民税は引き上げないだの、所得税の基礎控除引き上げにも所得制限を加えるなどという話も出てきています。
税理士が、年収103万円の壁の引き上げという減税なのに、イマイチ乗り気じゃないのは、こういうことを繰り返されてきたからなのです。
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