年収の壁が123万円だ178万円だというがその引き上げの中身もよく見てみましょう
目次
年収の壁引き上げは、2025年も継続して審議するようで
国民民主党が主張する「年収103万円の壁の解消」
国民民主党は、年収178万円にその壁を引き上げようと強硬に主張していましたが、政府税調とは折り合わず、昨年12月の税制改正大綱には、自民党案の年収123万円と記載したものの、2025年になってから再度協議をするということになったようです。
国民民主党の主張する壁の金額が「年収178万円」の時の税収減の見積もりは7兆円であったものが、今回の「年収123万円」では、その税収減は7,000億円と大きな隔たりがあります。
これは、単純に、178万円と123万円という金額以外に、引き上げた中身による影響が大きいからです。
そこで、今回は、2025年度税制改正大綱で人的控除の何がどう引き上げられたのかについて検討していこうと思います。
所得税と住民税
まず、「年収103万円の壁」といいますが、所得税の人的控除に関する条文の中には、どこにも103万円という数字は出てきません。
これは、すべての納税者に適用される「基礎控除」48万円と給与所得者の概算経費である「給与所得控除」の最低保証額55万円を加算したもので、その金額までなら、本人に所得税の課税はないということです。
なお、住民税の基礎控除は45万円のため、給与所得者の年収の壁は、100万円(基礎控除45万円+給与所得控除55万円)です。
今回の税制改正大綱で示されたのは、所得税の基礎控除を10万円引き上げて55万円にするということであり、住民税についての基礎控除は45万円のままです。
基礎控除と給与所得控除
すでに申し上げたように、基礎控除はすべての納税者に適用がされます。しかし、給与所得控除は給与所得者にしかありません。
今回の税制改正大綱で示されたのは、103万円から123万円へその壁が引き上げられたものの、その中身は、基礎控除10万円と給与所得控除の最低保証額10万円であり、個人事業主や年金受給者への影響は基礎控除の引き上げのみとなります。
給与所得控除の最低保証額の意味
給与所得控除が10万円引き上げられたということになれば、すべての給与所得者に恩恵があることになります。
しかし、今回の税制改正大綱で示されたのは、給与所得控除が10万円引き上げるというものではありません。
給与所得控除は、給与収入が増えるにつれて最大195万円まで増えますが、その給与所得控除の最低額を55万円から65万円に引き上げただけです。
つまり、給与収入が約188万円以上の人は、そもそも給与所得控除は65万円超であったため、今回の税制改正での給与所得控除改訂の影響はないということです。
このように、年収の壁が103万円から123万円に20万円引き上げられたといっても、基礎控除引き上げは10万円のみ、住民税には基礎控除引き上げなし、給与所得控除は全体の引き上げではなく最低保証額を10万円引き上げただけ、ということです。
そりゃ、税収減の金額も大きく減るわけです。
本人の控除と扶養者の控除
年収103万円の壁というのは、本人の年収によって本人に納税が発生するのかと、扶養対象者の年収によって世帯主の控除がなくなるのかという2つの話がごちゃごちゃに語られていました。
まず、本人については、年収の壁を超えたとしても、収入以上に税負担が増えることはありません。税金の支払はイライラするでしょうが、手取りを増やすためには、103万円を超えて働いたほうが良いです。
この本人についての103万円は、基礎控除48万円に給与所得控除55万円を加えたものです。
一方で、配偶者や子どもなどの扶養対象者に対する世帯主の控除には、配偶者には「配偶者控除」が、16歳以上の子どもには「扶養控除」があります。
こちらの配偶者控除や扶養控除の適用要件は、その人の「合計所得金額」が48万円とされています。
この合計所得金額とは、収入から経費を差し引いたもので、給与であれば、給与収入から給与所得控除を差し引いた金額のことです。
給与所得控除の最低保証額は55万円でしたので、その給与所得控除を差し引いた合計所得金額が48万円になるのは、給与収入103万円ということになるわけです。
同じ給与収入103万円であっても、その計算式は大きく異なります。
本人=基礎控除48万円+給与所得控除55万円
扶養対象者=給与所得控除55万円+合計所得金額48万円
つまり、基礎控除の引き上げは、本人についての年収の壁は引き上げにはなるが、扶養対象者にとっては基礎控除の引き上げは何ら関係がないということです。
今回の税制改正大綱では、大学生世代(16歳から22歳)までの子どもについては、その世帯主からの扶養控除については、合計所得金額が58万円以下(給与収入123万円)であれば、扶養控除の適用を受けることができるようになりました。
さらに、これだとその子どもが給与収入を123万円を超えた瞬間、世帯主からの扶養控除63万円がすべてなくなると、またそこで世帯全体での手取りが減ることで働き控えが発生します。
そこで、給与収入に応じて扶養控除の金額を徐々に減らす仕組みが一緒に導入されました。それが特定親族特別控除というものです。
これを見ると、子どもの合計所得金額が85万円以下(給与収入150万円)以下であれば、扶養控除63万円は使えない代わりに、「特定親族特別控除」が63万円適用を受けることができる。
つまり、16歳から22歳までの子どもは給与収入150万円まで働いても、扶養控除が特定申告特別控除に名前は変わるものの満額の控除が適用され、それ以上働いても段階的に控除が減少します。
だったら、扶養控除の所得要件を合計所得金額85万円にすればいいだろうと思うのですが、これにより、より働いたことで世帯全体の手取りが減少する「働き損」は概ね解消され、わざわざ大学生が年収を気にして「働き控え」をする理由は大幅に減ったと言えます。
なお、この大学生世代の子どもに対する「扶養控除+特定親族特別控除」という仕組みは、配偶者についても、「配偶者控除+配偶者特別控除」として、同じ仕組みが導入されていました。
つまり、配偶者についても、給与収入150万円までは同じ金額の控除が世帯主は受けられたので、そもそも年収103万円の壁というのはなかったのです。
それは良いとして、今回の改正で人々には、「年収123万円」という数字が強くインプットされましたが、また、本人についての基礎控除48万円+給与所得控除65万円としての123万円と、扶養対象者の扶養控除が適用できなくなる合計所得金額58万円+給与所得控除65万円としての123万円、さらに特定親族特別控除が0になる合計所得金額123万円が同じ123万円で揃うことになります。
また本人の話と扶養対象者の話なのかの切り分けができずに、議論をする人が増えそうです。
今後の年収の壁の引き上げは金額だけでなく中身にも注目を
すでに、デフレどころかインフレ基調になり、食料品を中心にした物価高に対する支援をする中で、さらなるインフレを引き起こす懸念のある減税をすることが正しいのかはよくわかりません。
少なくとも高校の教科書では、インフレ抑制は金利アップと増税と書かれていたはずです。
今回の恒久減税で、さらにインフレになれば、低所得者ほど生活はきつくなって逆効果になる恐れもある一方、昨年も定額減税で3兆円もばら撒いてもいるわけで、一体どうすればよいのかという正解は、街の税理士には、よくわからないです。
ですが、減税を是とするのであれば、今後の年収の壁引き上げの議論について、政治家同士がメンツを保つために作った数字だけではなく、その中身がどんなものなのかにも注目をしておく必要があるでしょうね。
9割の人が間違えている「会社のお金」無料講座公開中
「生命保険なら積金より負担なく退職金の準備が可能」
「借金するより自己資金で投資をするほうが安全」
「人件費は売上高に関係なく発生する固定費」
「税務調査で何も指摘されないのが良い税理士」
すべて間違い。それじゃお金は残らない。
これ以上損をしたくないなら、正しい「お金の鉄則」を