毎年同額の贈与をしていると一括の贈与をしたとされる「定期贈与」という”都市伝説”|それよりも贈与を否認されないよう契約書の日付を取れ

目次

理論上はあり得るが実務では見たことのない都市伝説

毎年同額の贈与をしていると、定期贈与とみなされてまとめて課税されるー税理士ではないファイナンシャルプランナーの方が書く一般の方向けの記事の定番としてよく目にします。

言っていることは間違いではなく、昔から税法の豆知識としてよく取り上げられるものです。

しかし、税理士として独立してからの32年間、私自身がそのような指摘はされたことはないですし、周りでもそのようなことで修正申告を求められたという話は一度も聞いたことがありません。

そこで、今回は、「贈与で怖いのは定期贈与の認定よりも贈与がないとされることの方だ」という話をしてみようと思います。

まずは結論を

・毎年同額でも「定期的に贈与する約束(契約)」がなければ定期贈与の認定は至難の業

・実務上、定期贈与として課税された事例はほとんど見当たらない

・本当のリスクは「贈与の事実そのものを否定される」こと

・対策はシンプルで、毎年その年分の贈与契約書を作成することとその日付を証明すること

定期贈与とは何か

定期贈与の根拠となるのは、相続税法24条の「定期金に関する権利の価額」という規定です。

たとえば「10年間、毎年100万円を贈与する」という約束を、最初に一度の贈与契約として結んだとします。

このとき、受贈者には「10年間にわたって毎年100万円を受け取る権利(定期金給付契約に基づく権利)」が初年度に移転したとみなされます。

その権利全体の価額を、贈与として一度に課税するーこれが定期贈与課税の論理です。

つまり、定期贈与として課税されるためには、「最初から定期的に贈与するという約束を締結したこと」が前提になります。

毎年同額だから定期贈与になる、というわけではないのです。

では、実務上「定期贈与課税」は行われているのか

少なくとも私の知る限りは「毎年同額の贈与をしていたから定期贈与と認定された」という事例はほとんどないといえます。

税務署が「これは定期贈与だ」と認定するには、「最初に総額1,000万円(年100万円×10年)の贈与契約があった」という事実を立証しなければなりません。

相続税の負担を軽減しようと毎年定額の贈与を繰り返す人が、わざわざ定期贈与の認定をしてくれと言わんばかりに「これは一括で総額1,000万円の贈与をするのに、毎年100万円ずつ10年に渡り贈与をする」などというバカげた贈与契約書など作るわけがないでしょう。

その中で、毎年実施されている贈与を金額と日付が毎年同じだという事実だけで、当事者が明示もしていない一括での贈与の意思を証明するのはまず無理ですし、苦労の割に実りがないのではないかと。

そもそもですが、生前の贈与だけのための税務調査など、聞いたことがないですから。

ですから、巷でよく言われるような、定期贈与とされないために、贈与の日付や金額をずらすという対策は、あまり意味はないかなと個人的には考えます。

本当に怖いのは「贈与の事実」を否定されること

税務調査で実際に問題になるのは、定期贈与の認定よりも、贈与そのものの否認です。

「その贈与、本当に成立していましたか?」という指摘です。

具体的には、次のようなケースで贈与が否定されることがあります。

子の名義の口座に振り込んでいたが、通帳も印鑑も親が管理していた。子がその口座の存在を知らなかった。

贈与は、上げる側が「上げた」というだけでは成立しません。もらった側が「もらった」という意思表示をしないと成立しないのです。

ですから、名義が子どもや孫になった預金であっても、その相続人がその存在すら知らなかったということになれば、「もらったという意思表示がされていないので、贈与は不成立だ」とされるわけです。

こうしたケースでは、その預金についての贈与は成立していないので、実質的に、その原資を負担している被相続人の預金であるとして相続財産に加算がされます。

これを「名義預金」といいます。

定期贈与よりも、こちらのほうが実務上はるかに現実的なリスクなのです。

贈与の事実を確認するためには贈与契約書の作成を

対策はシンプルです。毎年、その年の贈与だけを対象とした贈与契約書を作成することです。

書式に決まりはありません。

「○年○月○日、甲(贈与者)は乙(受贈者)に○○円を贈与する」という内容を書いて、双方が署名・捺印すれば有効です。押印も三文判で何ら問題はないです。

翌年は、また翌年分を新たに作成します。

受贈者が未成年の場合は、親権者が法定代理人として署名すればよいでしょう。

贈与による金銭のやりとりは、振込で行うことをお勧めします。現金手渡しでは記録が残りません。

受贈者本人名義の口座に振り込むことで、さらに客観的な証拠が残ります。

そして、受贈者が通帳と印鑑を自分で管理し、実際にそのお金を使える状態にしておいてください。

これが「贈与が成立していた」という事実の裏付けになります。

一番良いのは、そのお金を贈与を受けた側が、少しでも引き出し、資産運用を含めて使ってしまうことです。

贈与の事実を確認するには、郵便局で消印をもらう

なお、贈与契約書については、本当はその時点で作成されたものではないのではないか。あとからまとめて作成したのではないかとの疑念を持たれることもあります。

そのような指摘がされることがないようにするには、作成した贈与契約書に、公証人による「確定日付」というものを押印してもらうのが理想です。

しかし、その分、コストも掛かりますし、毎年、公証役場まで出向くのも面倒でしょう。

その場合、代用として、郵便局による消印の活用を考えます。

具体的には、贈与契約書の表面に、はがきの最低料金の切手を貼り、郵便局でその切手に消印をしてもらうのです。

表面に貼るのは、そのままコピーをしても、しっかり消印が残るからです。

では、なぜ、どこにも発送をするわけでもない契約書に切手を貼り、郵便局の消印をもらうのか。

今や民間企業となった郵便局ではありますが、郵便局による消印は「間違いなくこの日にこの契約書が存在していた」という税務署でもそう簡単に反論のしようのない証明になるからです。

ただ、実際にやろうとすると、郵便局の方が、「押印したら切手が使えなくなるけどよいのか?」と怪訝な顔をすることもあります。

しかし、それでも、「今日の記念にするので」といえば、まず問題なく消印をくれるはずですよ。

郵趣のための押印サービス|郵便局

いずれにせよ、せっかく相続税負担を軽減しようと毎年贈与を繰り返すのであれば、定期贈与などという都市伝説のための対策をするよりも、その贈与をないものとされないような手続きをきちんと踏んだほうが良いでしょう。

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