高額療養費制度の自己負担限度が引き上げられるのを機会に事前確定届出給与を活用する落とし穴
目次
高額療養費制度の自己負担限度額が引き上げられます
令和8年8月から高額療養費の自己負担限度額が引き上げられることになります。
あくまでも、万一の事故や病気の際の自己負担の限度額が上がるものであり、すぐに負担が増えるわけではありません。
しかし、多額の役員報酬を受け取っているオーナ経営者からすると、毎月の社会保険料の負担にうんざりしている中、さらなる負担増とはどういうことだと。
そのため「事前確定届出給与」を使えば、この高額療養費の自己負担限度額引き上げを回避できるのではないかという話も出てきています。
そこで、今回は、事前確定届出給与が、医療保険の受給にどんな影響があるのかについてまとめてみようと思います。
まずは結論から
・令和8年8月から、高所得者を中心に高額療養費制度の自己負担限度額が引き上げに
・事前確定届出給与により毎月の報酬を低く抑えれば、高額療養費の自己負担限度額も小さくできる
・しかし、傷病手当金の金額も減るので、万一の保障としては痛し痒し
今回の高額療養費制度の変更点
高額療養費制度というのは、1か月の医療費が高額になった場合に、所得に応じた「自己負担限度額」を超えた分が払い戻される制度です。
今回の改正では、この上限額が高所得者を中心にして引き上げられます。
具体的な数字でいうと、年収約650〜770万円の区分では、現行の月8万100円+αから、令和8年8月以降は11万400円+αへ。約38%増です。年収510〜650万円の方でも、現行の月約8万円から約8.5万円に上がります
(令和9年8月にはさらに約9.8万円へ引き上げ予定)。
一方で、令和8年8月からは、毎年8月から翌年7月までの自己負担額について、新たに年間上限が設けられます。
長期にわたり治療を続ける人については、月ごとの負担額が積み上がっても、年間53万円で頭打ちになるため、従来より負担が軽くなる場合があります。
多数回該当についても、直近12か月に3回以上高額療養費に該当すれば、4回目以降の上限額は44,400円のまま据え置かれます。
つまり、今回の改正は、短期間に治療費が集中する人には負担増、長期に治療を続ける人には年間上限による負担軽減もあり得るという内容です。
とはいえ、ただでさえ、既に多額の社会保険料負担を背負っている人からすれば、どうにかしてその負担を軽減したいと考えるのではないでしょうか。
「事前確定届出給与で所得区分を下げれば回避できる」のか?
「標準報酬月額を下げれば、所得区分が下がり、高額療養費の自己負担の上限額も低くなる」
これは、正しいです。
これまでも、この標準報酬月額を引き下げる手法として「事前確定届出給与」というものが利用されていました。
これは、毎月の役員報酬を大幅に減額し、減らした分をまとめて賞与として支給するというものです。
月額報酬が下がることで標準報酬月額が下がり、毎月の社会保険料負担も軽減されます。
代わりに受け取った賞与も社会保険料の算定対象にはなります。
しかし、賞与については、健康保険の年間573万円、厚生年金については1回150万円が、その計算の上限とされています。
そのため、それらを超える部分の賞与を受け取ったとしても、社会保険料の算定対象外となるのです。
結果的に、特に高額の役員報酬を受け取っている場合、毎月の役員報酬を僅少にして、その分を年一回の賞与としてもらうことで、毎月定額の役員報酬をもらった時に比べて、同じ年収であっても、大幅に社会保険料の負担が軽減できることがあるのです。
この事前確定届出給与は、本来は、定時同額の役員報酬以外損金にならない役員であっても、賞与を損金算入する。
ただし、その金額は、事前に報告をして、その金額通りに支給をしなくてはならないという制度です。
要するに、どうしても賞与の支給を受けたいなら、それも認めるが、その賞与支給によって利益調整をすることは許さんというものです。
決して、社会保険料の負担を軽減するための制度ではありません。
しかし、現時点では、法人税法上も社会保険制度上も合法とされているため、利用している中小企業経営者も多いのではないでしょうか。
標準報酬月額が減れば傷病手当金が激減する
毎月の標準報酬月額が下がれば、社会保険料の負担も高額療養費の自己負担限度額も引き下げることはできます。
しかし、傷病手当金の支給額も低くなることになります。
傷病手当金とは、「病気やケガで会社を休んだときに給料が出なくなった場合、給与の約3分の2に相当する額が、最長1年6ヶ月間支給される」のですがですが、その受給額は次のように定められています。
【傷病手当金の日額】
支給開始日前12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 2/3
ポイントは「賞与(標準賞与額)は一切カウントされない」という点です。月額の標準報酬月額だけで計算します。
具体例で考えましょう。
月額報酬50万円の場合 → 500,000円 ÷ 30 × 2/3 = 約11,111円/日
月額報酬10万円に下げた場合 → 100,000円 ÷ 30 × 2/3 = 約2,222円/日
21日間(3週間)休んだとしたら、本来なら約23万3,000円もらえるはずが、約4万6,600円になってしまいます。
これは、今回の高額療養費制度の改正の前からも見られる現象です。
しかし、今回の高額療養費制度改正に合わせて、万一の事故や病気の際の自己負担限度額を引き下げようと、この事前確定届出給与をにより標準報酬月額を引き下げるというのであれば、同時にその事故や病気の際に受給できるはずだった傷病手当金も少なくなってしまうということは忘れないようにしてください。
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