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導入から30年以上を経過する消費税。その間に何度も税制改正はされてきましたが、2023年10年、従来の帳簿等保存方式から「インボイス方式」に変わることが最も大きな変化と言えるかもしれません。
このインボイス方式に変わることで、免税事業者からの仕入れに伴う「仕入税額控除」が劇的に変わります。
その結果、免税事業者というのはほぼいなくなり、実質的に「事業者全員消費税申告時代」が来ることでしょう。
では、宅建業者が個人や免税事業者といったインボイスを発行できない者から販売目的で不動産を仕入れた時には消費税について仕入税額控除ができないのでしょうか?
そこで、今回は、インボイス方式になった際に、税務署と揉めそうな宅建業者の不動産取得についての消費税についてまとめておくことにします。
消費税の納税額は、課税売上に伴い預かった消費税から課税仕入れに伴い支払った消費税額を差し引く(仕入税額控除)ことで計算がされます。
この仕入税額控除を受けるために、現在の「請求書等保存方式」では、帳簿の保存に加え、取引の相手方(第三者)が発行した請求書等の保存を要件としています。しかし、請求書等に適用税率・税額を記載することは義務付けられていません。
これが、インボイス方式になると、消費税の納税額を計算する際に、預かった消費税額から控除をする消費税(仕入税額控除)について、登録された「適格請求書発行事業者」が発行した「適格請求書」(インボイス)に記載された消費税額に基づき計算がされるのです。
請求書等保存方式では、仕入税額控除が可能かどうかは、支払った消費税額が課税売上高に対応するものであれば控除可能、非課税売上に対応するものは控除不可という「何のために使ったのか」という点だけが判断基準となります。
その支払先が課税事業者であるか免税事業者であるかという「誰に支払ったのか」は仕入税額控除では影響がありません。つまり、支払う相手が免税事業者や個人消費者であっても仕入税額控除が可能なのです。
一方で、インボイス方式では、「何のために使ったのか」だけでなく「誰に支払ったのか」も仕入税額控除で問題になってきます。
というのも、免税事業者や個人消費者はこのインボイスを発行することが出来ません。当然、免税事業者や個人消費者からの仕入れについては仕入税額控除ができないことになるのです。
この仕入税額控除変更の影響はとても大きいです。
今まで、不動産業や中古自動車販売業、リサイクルショップなどは、消費税の納税義務など気にかけない個人などから実質的に消費税の上乗せをしていない金額で仕入れをしておきながら、消費税の計算上、仕入税額控除が認められるというとてもオイシイ状態でした。
これが、インボイス方式になると、個人や免税事業者はインボイスを発行できないため、同じ金額で仕入れをしたとしても、仕入税額控除ができないということになります。
しかし、これでは影響が大きいと、業界団体の猛プッシュがあったのか、インボイス方式になっても仕入税額控除についての例外規定が設けられたのです。
具体的には、 古物営業、質屋又は宅地建物取引業を営む事業者が棚卸資産として購入をする場合、古物、質物又は建物の購入については、個人や免税事業者であっても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められることになります。
つまり、これらの質屋やリサイクルショップ、不動産業者が個人などから「販売用として仕入れた」場合は、従来通り仕入税額控除が可能であるということなのです。
逆に言えば、これらの業者であっても販売用として仕入れたのではなく、自らが使用する目的や賃貸する目的で個人などから仕入れをした場合には、仕入税額控除ができないということでもあります。
つまり、現状であれば、個人や免税事業者から仕入れた建物について、自社使用目的や賃貸目的であっても事務所や倉庫などであれば仕入税額控除が可能であったものが、インボイス方式になることで仕入税額控除ができなくなるということです。
個人や免税事業者から取得した建物の消費税仕入税額控除の可否
取得目的 | 用途 | 現行 | インボイス方式 |
販売目的 | 事業用 | ◯ | ◯ |
居住用 | ◯ | ◯ | |
自社使用・賃貸目的 | 事業用 | ◯ | × |
居住用 | × | × |
宅建業者の当初の取得目的が「販売用」であれば建物取得に伴い支払った消費税額全額が控除できるのに、「賃貸用」であれば全額控除ができなくなるということですが、収益物件として販売をする場合、賃借人を入居させ利回りを上げることで販売価格が高くなるため、まずは入居者を募集してから転売するということもあるでしょう。
これがそもそも販売用で仕入れたものなのか、収益物件としようとして仕入れたものの良い条件で売れそうなので売ることにしたのかの判断はむずかしい。
どのような「目的」で取得したかは、多分に主観によるもので、その事実認定について税務調査で揉めるというのが、インボイス方式になることで、居住用だけでなく事業用にも広がるということです。
なお、 販売目的で仕入れた居住用建物に賃借人がいる場合には、「建物の販売という課税売上取引」と「居住用建物の賃貸という非課税売上取引」に共通対応するものとして、建物の消費税の仕入税額控除については、建物取得に伴う消費税額に売上高全体に課税売上高の割合である「課税売上割合」を掛けた金額とされるという厄介な問題は、インボイス方式になってもそのままということになりそうです。