会社と社長との貸し借りの利息はどれくらいもらえばいい?

会社のお金も社長のお金も左右のポケットの違いしかない

オーナー経営による中小企業の場合、会社のお金と社長個人のお金というのは、現実には、預金の名義が違うだけであり、お金が足りなければすぐに充当するなど、左右どっちのポケットにお金が入っているかくらいの違いしかないです。

結果的に、会社と社長個人のお金のやり取りも多くなり、会社から見ると社長からの借入金、社長への貸付金が生じやすくなります。

通常、お金の貸し借りについては、利息が発生します。

では、会社と社長個人とのお金の貸し借りについての利息の利率はどれくらいにすればよいのでしょうか?

今回はその点を見ていきましょう。

会社が社長にお金を貸した時

認定利息を取らないとどうなるのか?

会社は営利を追求するものなので、無利息で融資をすることは通常あり得ないでしょう。

そのため、社長に対する貸付金であっても、適正な利息をもらう必要があります。これを「認定利息」といいいます。

もし、認定利息をもらっていない場合、会社は認定利息と実際にもらった利息との差額を一旦もらったものとして益金に計上した上で、同じ金額を再び社長に対して支給したものとするのです。

それであれば、社長個人について給与課税はされるものの法人では益金(受取利息)が増えた分だけ損金(給与)が増えるので課税がないようにも思えます。

ただ、実際には、万一認定利息の計上を税務調査で求められた場合、「じゃあ、その利息はいずれ払います」といえば法人での所得への加算は求められても、社長個人に対して給与課税がされることはありません。

認定利息の利率は?

では、その認定利息はどのくらいの利率なのでしょうか?

まず、その貸付をした資金が他から借り入れた上で転貸したことが明らかであれば、その調達した利率によるものとなります。

そうでない場合には、利子税を計算する際に用いられる「特例基準割合」によることが原則です。

所得税基本通達36-49

使用者が役員又は使用人に貸し付けた金銭の利息相当額については、当該金銭が使用者において他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には、その借入金の利率により、その他の場合には、貸付けを行った日の属する年の租税特別措置法第93条第2項《利子税の割合の特例》に規定する特例基準割合による利率により評価する。(平19課法9-9、課個2-20、課審4-32、平25課法9-7、課個2-16、課審5-32改正)

この特例基準割合は、市中金利と連動するようになっており、令和三年現在の特例基準割合による利率は1.0%です。

しかし、仮に1.0%未満の利率しか認定利息を計上していなかったとしても「会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって役員又は使用人に対して金銭を貸し付ける場合」は給与課税がされないことになっております。

では、給与課税はされないけれども、特例基準割合との差額について法人で受取利息を追加計上させられるかというと、税務調査で認定利息計上を求められる際にも、会社の平均調達金利で認定利息の計上を求められることが多いので、そういう例はまずないはずです。

つまり、認定利息の利率は、

・特例基準割合(年1.0%)

・会社の平均調達金利

のいずれか低い利率で計上しておけば、実務上修正申告を求められることはないでしょう。

(たまに、勝手にとんでもなく高い利率を言ってくることもありますが、その際にはこちらで平均調達金利を求めるか特例基準割合である1.0%にせよといいましょう)

なお、厳密に言えば、認定利息については、その「貸付をした年度」のものを固定金利で継続して適用することを求めていますが、会社と個人の貸借をひとまとめにしている場合には、常に貸付金の残高に増減が生じておりどの年度に発生した貸付金がどれだけ残っているものなのかを区分することは現実には困難でしょう。

そのような指摘を税務調査でされた場合には、「じゃあ、そちらで区分して認定利息を計算してくれればそれに従います」といえば良いでしょう。

金銭を低い利息で貸し付けたとき(タックスアンサー)

元本はどうやって計算する?

そもそも元本額はどのように把握をすればよいのでしょうか?

会社と個人の間で頻繁にお金の出し入れや経費の立替えなどが行われていると元本額が変動するはずです。

それをまるで銀行のようにその都度利息を計算するのは大変です。

そこで、「毎月月末の残高を平均」した残高を元本額とするなどして、その金額に認定利息を掛けることになります。

実際には、期末残高だけを元本額とすると「それはチョット」と言われますが、(期首残高+期末残高)/2を元本額としておけばまず問題になることはないでしょう。

少なくとも私はそのように計算しています。

認定利息は単利?複利?

認定利息については、さらに利息が課される、いわゆる「複利」で利息がつくようなことは原則としてありません。

以前は、過去の認定利息分を未収入金としているとそれを貸付金元本に組み入れて認定利息を計算するよう修正申告を求めてくる調査官もいましたが、現在では国税庁の個別通達で元本だけ返済して認定利息分をそのまま放置しているなど課税上弊害がある場合以外は、認定利息に利息を付す必要はないことで統一されているのです。

認定利息の取扱について(タックスアンサー)

会社が社長からお金を借りた時

利息を取らないとどうなる?

既に高い役員報酬を受取り、高い税率が課されている社長にとって、総合課税の雑所得となる同族会社からの利息をもらうメリットはまずありません。

それであれば、会社から利息を受け取りたくないのですが、もし利息を受け取らないとどうなるのでしょうか?

結論は、社長から会社への貸付について利息を受け取らなくても「通常は」問題はないです。

というのも、個人は法人と異なり常に営利を求めて活動をしているわけではありません。無償の奉仕の精神で行動をすることもあるでしょう。

それを否定し、当事者間で利息を取らないとされているものを無理やり利息を取ったものとして税金を課すことはできないのです。

認定利息の計上がされたこともある

しかし、判例上、会社が個人から借りた金について、認定利息を計上せよと言われたこともあります。

それは「平和事件」といわれるもので、大手パチンコメーカー「平和」のオーナーが3455億円もの資金を会社に無利息で貸付していたことについて、所得税の負担を不当に免れたとし、利息相当額について雑所得として課税されたのです。

ただ、これはあくまでも特殊な事例であり、通常の個人から会社に対する無利息の貸付について、利息認定をされることはありません。

役員貸付金と役員借入金では大きく意味が異なる

社長個人のお金を会社に貸し付けた「役員借入金」については、あえて利息を計上する必要がない上に、融資審査上、実質的には返済の優先順位の低い「準純資産」として見てくれるので、あっても特に支障はありません。

しかし、会社から社長個人にお金を貸し付けた「役員貸付金」については、認定利息の計上が必要な上に、融資審査上も、財産的な価値もない上に勝手に社外にお金が流出したものとして非常に問題視されます。

法人と個人を通じた税負担を最小にしようと役員報酬を過度に小さくしてしまうと、役員貸付金が生じてしまうことがあり、その返済のために結果的に役員報酬を上げざるを得ずむしろ高い税金を支払ったなどという本末転倒となることもあります。

過度に少なくした役員報酬額のツケは忘れたころにやってくる

ですから、役員報酬額については、目の前の税負担だけでなく、役員貸付金が生じることがないかなどにも注意した上で、金額を決定する必要があるのです。

オーナーの役員報酬額を決める上で考えなくてはいけない5つのこと

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ヨシザワ マサル