新型コロナ感染症に対する資金繰り支援策として、日本政策金融公庫のセーフティネット貸付、信用保証協会によるセーフティネット保証が、いつもの融資とは別次元の審査の鷹揚さでスピーディに実行されています。
私の基本的なスタンスは、「どれだけ大きな波が来るのかがわからないのだから、できるだけ”高台”に逃げよ」ということ。
融資を鷹揚に受けることによる財務体質の悪化にはひとまず目をつぶり、出来得る限りの融資を受けて預金残高を積んでおいてほしいということです。
しかし、中には、本当にこのタイミングで融資を受けてもよいのか、立ち止まって考えるべき人もいると思っています。
そこで、今回は、「緊急融資を受けるべきではない人」について考えてみようと思います。
私は感染症の疫学については、全くと言ってよいほど知識はありません。
しかし、厚生労働省の専門家会議などから発表される資料を丁寧に読んでいくと、
「新型コロナウイルスの問題は1-2ヶ月で解決する問題ではなく、何らかの行動規制が強弱をつけながら長期に渡って求められる。」
のではないかということが読み取れます。
なにせ、リーマン・ショック時の56兆円の二倍に当たる108兆円もの財政出動するんですから。リーマンショックの底の期間が2年間ですから、どれだけ谷が長く深いのかと。どう考えても、数ヶ月のためにGDPの2割もの財政出動なんかするわけがないです。
一方で「インフルエンザの方がずっと犠牲者が多いのに、なぜ新型コロナだけこんなに恐れるのだ。経済停滞での自殺者のほうが遥かに多くなる」という考えも決して否定できるものでもなく、経済へのダメージまで考えての最適な解決策はなにか、私には全く判断はできません。
しかし、世界の主要国は、医療崩壊を防ぐため、ウイルス終息まで都市封鎖や渡航禁止を含めた自国民への行動規制を強いていくことは間違いなさそうです。
結果として従前のようなフル稼働ができるようになるには、業種によっては一年以上、あるいは年単位での時間を要するのではないか。
それであれば、イベント事業や飲食業、旅館業などでは売上高が対前年比で90%以上の下落をしている中、今の売上高が一年以上も継続するとどれだけの赤字が累積され、それは元に戻ったときに返済できるものなのかは冷静に判断する必要があるのではないでしょうか。
今まで業績が順調であった会社であれば、できるだけ多くの緊急融資を受けて、可能な限りの預金残高を積んでおく。
それが安全を買うことになるとともに、周りの会社が淘汰されていったときには、そのお金の価値が上がることを意味します。
そのための”過大”に受けた融資の利息は、決して無駄なコストではなく、予測できない事態への保険料であると考えれば合理的なものです。それが無利子で受けられるのであればなおさらでしょう。
また、こんな事を言うと批判をされそうですが、破綻しても失う資産がなかったり、既に家屋敷が担保に提供され、事業をやめたところで、その借金を返せそうにないというのであれば、緊急融資を可能な限り受けたほうがいいです。
状況が回復すれば、今の事業の利益で借金を返せる可能性は全くないわけではありません。
あるいは、今の事業では満足に利益が上がらないとしても、その事業を縮小して、別の事業でチャレンジをするための資金にしてもよいです。
既に借金が返しきれないのであれば、これ以上いくら借金が増えたとしてもそれほど変わらないので、少しでも事業継続の可能性があるほうに賭けたほうがよいでしょう。
実際に、バブル崩壊にしろリーマンショックにしろ、そうやってピンチを乗り切ってきた会社はたくさんあります。
というか、業歴の長い会社というのは、どこの会社もどうやっても乗り越えられないだろうという苦境を乗り越えてきた会社なんです。
しかし、今であれば事業をやめても、自宅は残すことはできる。そして、別の仕事に就くことや年金・貯蓄で暮らすことは可能であるというのであれば、この緊急融資を受けることは踏みとどまってもう一度考えたほうが良いです。
もちろん、「年単位でフル稼働できないだろう」というのは勝手な憶測であり、ずっと早く事態が収束することも考えられます。いつ収束するのかなど誰にもわかりません。
また、会社は自分の子供のようなものであり、いくらここでやめるのが合理的だとしても、まだ助かる可能性があるものをここでやめるという決断は中々できないかもしれません。
それでも、「ここで撤退することもあるのではないか」という選択肢について、融資を受ける前に誰もが一度は考えておくことをおすすめ致します。
要するに、融資を借りた時と借りなかった時の一年後を比較してみて、借りた方が良いなら借りる、そうでなければ借りないということ。
緊急融資は、通常の融資と異なり、良くも悪くも返済可能性など全くと言ってよいほど考慮されずに実行されるものですからね。