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令和8年10月にインボイスによる消費税UPが本格化、とはいえ「2割特例」は延期しても「5割控除」はそのまま実施でいいでしょ

目次

インボイス制度導入から3年でいよいよ免税事業者は窮地に

令和5年10月にインボイス制度が導入されました。

事業者は、消費税の納付額の計算上、売上に伴う消費税から仕入れに伴う消費税を控除(仕入税額控除)することができます。

この仕入税額控除については、消費税導入時に反発を和らげようと、売り手が本当に消費税の納税をしているのかの確認は不要とされていました。

そんなテキトーな処理が、導入から35年近くも継続されていたのです。

インボイス制度では、仕入税額控除を受けるには、売り手がきちんと消費税の納税をすることの証明(インボイス)を受けることが条件に。

その結果、消費税の納税をしていない免税事業者は、大きなダメージを受けることになったのです。

そこで、免税事業者がビジネスから排除されることがないようにと、2つの「激変緩和措置」が講じられました。

1つ目は、導入から6年間は、免税事業者からの仕入れ等でも段階的にその控除を認めなくする「経過措置」というもの。

2つ目は、免税事業者がインボイスを発行する事業者(適格請求書発行事業者)になった場合、その納税額は売上に伴い受け取った消費税の2割の額でよいという「2割特例」です。

それらの2つの制度は、このままですと令和8年9月で終了ないし縮減され、免税事業者ないし免税事業者であった者の負担が一気に増えることになります。

実は、零細事業者へのインボイス制度によるダメージが本格化するのは、この令和8年10月からと言ってもよいのです。

では、インボイスに伴う免税事業者への「激変緩和措置」は、今後どうなるのでしょうか?

インボイスは付加価値税には必須の制度

消費税は、事業者の売上げを課税標準にする税金ですが、流通過程のすべての事業者がそれぞれの売上について消費税が課税されてしてしまうと、消費税が重複して納税されてしまいます。

売り手にとっての売上げは、買い手にとっての仕入れです。

ですから、事業者の消費税の納税額の計算上、売上に伴い受け取った消費税から仕入れに伴い支払った消費税(=売り手の売上に伴い受け取った消費税)を控除することで、税負担の重複を排除することとしています。

この控除のことを「仕入税額控除」といいます。

もし、消費税の納税をしていない免税事業者からの仕入れまで、仕入税額控除を認めると、必要以上の控除が発生してしまう。

その結果、消費者が国に届くはずだと思い負担した消費税が、流通過程の誰かの手元に残ってしまうことになるのです。

そこで、この仕入税額控除を正しく計算するには、売り手が本当に消費税の納税をきちんとしているのかを確認する必要があります。

その売り手が「きちんと消費税を納税します」という証明書として機能するのがインボイスです。

「消費税は預り金ではないから益税などない。そのなので、益税解消のためのインボイスなど不要」という主張もあります。

しかし、同じ税金で納税義務がある人とない人がいれば、ない人が得をするのは間違いないので、「益税」は絶対にあります。

そもそも、預り金だろうが売上の一部だろうが、税の重複を排除するために、適正な控除が必要という付加価値税の趣旨からして、インボイスが不要になるわけがありません。

消費税の嘘を信じていないか?税理士が語るインボイスと消費税の真実|吉澤大・アゴラ

これまで、付加価値税が導入されている国でこのインボイスがなかったのは日本だけであり、日本の改正でインボイスのない国はなくなりました。

それだけ、インボイスは、付加価値税の根幹ともいえる、あって当たり前の制度なのです。

つまり、インボイスをやめて、元の制度に戻そうというのは、少なくとも税理論的にはありえないことだということです。

免税事業者からの仕入れの「経過措置」とは

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の下では、原則として適格請求書発行事業者以外の者(免税事業者、消費者、または登録を受けていない課税事業者)からの課税仕入れについては、仕入税額控除を行うことができません。

これまで免税事業者に仕事を発注していた買い手である事業者は、同じ金額を支払うと消費税が控除できなくなった分だけ自らの消費税の納付額が増えることになります。

それを回避するため、売り手である免税事業者に対して、消費税相当額の値下げを要請するか、同じ金額で受注してくれる適格請求書発行事業者(適格事業者)に仕事を依頼し、免税事業者が仕事から排除されてしまう恐れもあります。

そこで、インボイス制度導入からの6年間は、免税事業者等からの仕入れであっても、一定割合を仕入税額とみなして控除できる「経過措置」が設けられています。

期間 控除割合
令和5年10月1日から令和8年9月30日 80%
令和8年10月1日から令和11年9月30日 50%
令和11年10月1日以降 0%

こうすることで、買い手の立場からすると、

「どうせこれまでの消費税相当額の80%が控除されるなら、大して負担は増えない。

だったら、売り手が免税事業者のままでもいいかな。一々新しい外注先を探すのも面倒だし」

という事業者も出てくるはずです。

要するに、この免税事業者からの仕入れについての「経過措置」は、免税事業者のままでいようとする事業者への支援措置なのです。

免税事業者であった者への「2割特例」とは

「2割特例」とは、インボイス制度(適格請求書等保存方式)に関連する「支援措置」の一つです。

本来、消費税の納税義務者になると、売上に伴い受け取った消費税から仕入れに伴い支払った消費税を差し引いた金額を納税する必要があります。

買い手の要請により、インボイスの登録をした適格事業者になると、免税事業者はそれまでなかった消費税の納税が生じます。

その分を買い手にそのまま上乗せして請求できればよいのですが、そもそも、それまで「+消費税」として代金に上乗せをしていた免税事業者としては、さらに消費税を二重に上乗せして請求するというのは、難しいでしょう。

そのため、インボイス登録を渋々した免税事業者は、手取りが減ってしまいます。

そこで、インボイス制度導入の直前になって、インボイス制度導入から3年以内に始まる事業年度については、免税事業者からインボイスの適格事業者になった事業者は、その消費税の納税額を売上に伴い受け取った消費税額の2割を納税すればよいという特例措置ができたのです。

つまり、免税事業者であった者の「2割特例」というのは、インボイス登録をして適格事業者になった者への支援措置だということです。

特例終了・経過措置縮減のインパクト

この「経過措置」については、令和8年10月以降の取引から、「8割控除」が「5割控除」に縮減されます。

では、それにより、免税事業者について、どんなインパクトがあるのか。

8割控除の時には、わざわざ外注先を探すのも面倒だし、公正取引委員会もうるさいから、そのままの条件でもよいとしていた買い手の事業者も、さすがに5割の控除しかできないとなれば、そっと新しい外注先を探すか、取引継続の条件に消費税が控除できない5割部分について値下げ要請をすることも増えるでしょう。

一方で、「2割特例」については、令和8年10月以降開始の課税期間から廃止され、その後は、原則課税か簡易課税を選択することになります。

簡易課税とは、仕入税額控除の額を業種ごとに定められた「みなし仕入率」というものを用いて概算で計算できるものです。

免税事業者であった者の多くは、経理処理も簡便であり、納付額が原則課税よりも少なくて済むことが多いため、簡易課税を選択することが多いはずです。

区分 みなし仕入率 納付税率
第一種(卸売業) 90% 1%
第二種(小売業) 80% 2%
第三種(建設業・製造業) 70% 3%
第四種(飲食業) 60% 4%
第五種(サービス業) 50% 5%
第六種(不動産業) 40% 6%

これらのうち、フリーランスのライターやエンジニアについては、サービス業(第五種事業者)とされ、ざっくりというと、消費税の納税額が売上に伴い受け取った消費税の5割になるということです。

これまでの2割特例では、売上高(税抜)の2%(消費税率10%の2割)の消費税を納税すればよかったものが、2割特例廃止後には売上高(税抜)の5%の消費税を納税をしなくてはなりません。

つまり、サービス業の事業者であれば、これまでの2.5倍の消費税を納税しなくてはいけないということです。

インボイス登録者を増やし、免税事業者を例外的な存在に

免税事業者は、そもそもが売上高が小さいため、大騒ぎはされたもののインボイス導入による経済全体のインパクトは、”さざ波”程度しかありませんでした。

しかし、インボイス導入の前の段階で、全事業者の6割は免税事業者という状況であって、とにかく影響を与える人数が多い。

さらに、令和8年10月からの特例終了及び経過措置縮減は、特にネットで声の大きなライターのようなフリーランスを直撃するので、また大きなインボイス反対運動が展開されることになるでしょう。

そのため、政治的には、何らかの救済措置を検討することになるのかもしれません。

では、「2割特例」も「8割控除」の経過措置も延長すればよいのか。

私は、やはり、事業者が、消費税の上乗せをした請求をする以上は、原則としてインボイスの適格事業者の登録はすべきであり、免税事業者は例外的な存在であるべきだと考えます。

零細事業者は、思うように消費税を価格に転嫁できないと言われます。

しかし、経済産業省の調査によれば、事業者間取引をしている事業者の93.1%はすべて価格に転嫁できていると回答し、全く価格に転嫁できていないと回答しているのは、わずか1.6%しかいないのです。

消費税の転嫁状況に関するサンプル調査の結果を取りまとめました|経済産業省

つまり、大半の免税事業者も、事業者間取引であれば、消費税は納税しないのに、「+消費税」として消費税を上乗せして請求がされ、その「益税」が自分の”手取り”となることが既得権化しているのです。

そうなると、零細事業者を支援するにしても、インボイスの適格事業者への登録をする動機づけは必要です。

その点からすると、2割特例も8割控除も延長しては、「現状の消費税相当額について、2割分の消費税を負担するか、2割分の値下げに応じるのか」という話になる上、買い手によっては、そのくらいなら面倒だから現状のままの取引条件でよいということになれば、あえて、インボイスの適格事業者登録をするという強い動機づけにはならないでしょう。

ですから、インボイスの適格事業者登録を増やすのであれば、「2割特例」は延長をし、「8割控除」は淡々粛々と「5割控除」ヘ移行するのが良いのではないか。

そうすることで、さすがに、買い手も、消費税相当額の5割しか控除にならないとなれば、免税事業者に対して、その分の値下げ要請をすることも一気に増えるはず。

そうなると、免税事業者のままで、消費税の5割相当額の値下げ要請をされるよりも、適格事業者になって消費税の2割相当額を納税するほうが良いという動機づけになるということです。

零細事業者の”果実”は、より力の強い事業者に奪われるだけ

同じ税金で納税義務がある人とない人がいれば、ない人の方が有利であり、その納税を免れる分だけ「益税」が生じることは、どんな理屈をこねても否定のしようがありません。

その分、消費者が国に届くと思って負担した消費税が、事業者の手元に残ることは事実なのです。

その「益税」を実感できなかった零細事業者は、立場が弱く、免税事業者として手にすることができたはずの「益税」をより立場の強い事業者に奪われていたということでしょう。

確かに、消費税は、インボイス反対派がいうように「預り金」ではなく、価格への上乗せは強制されていません。

消費税は事業者の売上の一部であり、価格への上乗せは事業者の任意であるという仕組みである以上、いくら免税という恩典を与えても、その”果実”は、より力の強い事業者に奪われるだけなのです。

某有名美容整形外科が、その雇われ院長を、実質的には雇用なのに、事業者への支払いだとすることで、自分だけがその消費税の控除を受けていたのが税務調査で否認されたという事例もあったでしょ?

それを解消するには、他者ではなく自分が選ばれる特徴的優位性を持つことで、自らの価格決定力を強めるしかない。それが、プロという残酷な世界だということでしょう。

そのことは、この先いくら経過措置を延期したところで変わりはないのです。

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ヨシザワ マサル