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即時償却を拡充するなら一緒に無意味なお役所仕事をなくしてください

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投資促進減税としての即時償却導入を首相が示唆

高市総理は、衆議院の予算委員会で、企業の設備投資にかかる費用の全額を初年度に減価償却を可能にする「即時償却」の導入に意欲を示したとのこと。

そもそも、売上獲得のために支出した金額が、長期間を掛けてしか損金算入できないことは不条理な話であり、その解消として即時償却が認められる領域が広がるのは歓迎すべきことです。

とはいえ、また政治家が人気取りの政策をぶち上げたものの、財務省が気づかれないような制約をそっと加えて骨抜きにし、経済産業省が、これに乗じて自分たちの仕事を増やそうといういつものパターンに落ち着きそうではあります。

そこで、今回は、投資促進として即時償却を拡充するのは良いが、だったら、こういう無意味なことはやめてくれという話をしようと思います。

中小企業投資促進税制の概要

青色申告書を提出する中小企業者などが新品の機械装置などの取得または製作をして、国内にある製造業、建設業などの指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、特別償却または税額控除を認めるものです。

特別償却限度額

通常の減価償却限度額に加えて、取得価額の30%相当額の特別償却限度額として、減価償却の上乗せが可能です。

税額控除限度額

通常の減価償却をした上で、取得価額の7%の法人税の控除が可能です。

ただし、税額控除の控除上限は、下記の「中小企業経営強化税制」と合わせて、その事業年度の(調整前)法人税額の20%相当額を上限とされています。

中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|タックスアンサー

中小企業経営強化税制の概要

中小企業者等で青色申告書を提出するもののうち、中小企業等経営強化法の認定を受けた事業者等が、その中小企業者等のその特定認定に係る特定経営力向上計画に記載された新品の特定経営力向上設備等の取得した場合、その事業年度において、特別償却または税額控除を認めるものです。

特別償却限度額

取得価額から通常の減価償却限度額を控除した金額=即時償却が可能

税額控除限度額

通常の減価償却をした上で、特定中小企業(資本金3,000万円以下)は、取得価額の10%の法人税の控除が可能です。

ただし、税額控除の控除上限は、上記の「中小企業投資促進税制」と合わせて、その事業年度の(調整前)法人税額の20%相当額を上限とされています。

中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|タックスアンサー

多くの中小企業経営者は真にオトクな税額控除より目先の即時償却を選ぶ

即時償却というのは、通常よりも早く減価償却できるというだけであり、最終的に売上獲得に要した資産の取得価額が全額損金に算入されることは、通常の減価償却と同じです。

ですから、この即時償却については、税負担が軽減されるという効果はありません。

何日かに分けて食べるようにと言われていたケーキを、今日は誕生日だから余計に食べても良いと言われたというだけのことなのです。

一方で、税額控除というのは、通常の減価償却を行うことが出来る上に、法人税の減額という恩恵が受けられます。

こちらは、時間さえかければ、通常の償却によって即時償却と同様、取得価額全額を損金算入させることができた上に、税額控除が受けられるのですから、この適用によって明らかに税負担軽減効果があります。

これは、通常通りケーキを食べられた上に、誕生日だからとお小遣いももらうようなものなのです。

常識的に考えれば、税額控除のほうが有利なのですが、いくらそのような説明をしても、私の肌感覚では9割位上の中小企業経営者は「即時償却」を選択します。

それだけ、中小企業経営者にとっては、「即時償却」「全額損金」というのは魅惑的な言葉なのです。

決算時期に、思わぬ形で利益が出たというときに、機械装置等の購入した分が即時損金ということになれば、それこそ「投資が促進」されるのは間違いないでしょう。

経営力向上計画など実効性は1ミリもない

一方で、そのような即時償却を広く認めれば、建築現場の足場やドローンなどがそうであったように、節税商品としてそれらが跋扈することは火を見るよりも明らかです。

ですから、その即時償却の対象となる資産については、設備投資をする意義のあるものに限定される必要はあります。

そのため、現在も即時償却の対象となる資産は、「生産性向上に寄与する設備」「投資利益率向上に寄与する設備」「事業承継やM&Aに資する設備」などとの認定を受けたものが対象となっています。

おそらく、その対象となる設備投資は、高市総理の「重点分野」とされた「AI・造船・防衛」など17分野にかかるものに拡大されていくのでしょう。

それは構わないのですが、もうそろそろ意味不明な適用要件は撤廃してほしい。

というのも、この中小企業経営強化税制の適用を受けるには、「経営力向上計画」というものを策定して、経済産業省の認定を受け、その計画に従って投資をしなくてはならないのです。

経営力向上計画導入の経緯

経営力向上計画というのは、「中小企業が自社の経営課題を可視化し、生産性向上を図るための計画」であり、自己診断・経営改善計画ツールとして2016年(平成28年)に導入がされました。

しかし、そんな計画書を作ったくらいで、複雑な問題が解決され、生産性が向上されるなどということは誰も期待しません。

結果的に、初年度認定件数は、約2,000件台に過ぎなかった。

要するに、この政策は経済産業省の独りよがりで、失敗したのです。

そこで、利用実績が多かった即時償却などの中小企業経営強化税制について、この”不人気”な経営力向上計画作成をその適用要件に2017年から加えたのです。

結果、この計画の認定件数は

2016年度:約2,000件

2017年度:約4万件

2018年度:約8万件

2025年現在:約19万件

と爆発的に増加しました。

あんな数枚の計画書で生産性が向上するわけがない

経済産業省は、このことをもって、まるで、この経営力向上計画が実効性の高い制度であるがゆえに広く利用されているのだとし、さらに「認定企業の生産性上昇率は非認定企業より高い傾向」があると自画自賛しています。

しかし、現場で実務を行う側からすれば、こんな経営力向上計画が生産性向上に寄与したとは全く思っていません。

現行の計画書は、テンプレート化され、わずか3〜5枚程度で「現状・課題・目標・取組内容」を記載すれば認定される設計です。

それも、経営者は自体が、この計画策定に関与することもなく、外注された税理士やコンサルタントといった認定支援機関が、それこそ過去に認定を受けたテンプレに従い代筆をしているのが実情です。

この計画の認定企業の方が生産性上昇率が高いのは、別に経営力向上計画のおかげでもなんでもなく、積極的に生産性向上に寄与する企業群がこのような税制優遇を受けているというだけのことでしょう。

投資対象を厳選するのは構わないが、無駄な手間を増やすな

現在でも、これらの経営強化税制の適用を受けるには、生産性向上に寄与することをその機械装置の工業会等が確認した「証明書」や経済産業局による「確認書」を取得するなどが必要です。

そうやって、単なる節税商品としてではなく、真に生産性が向上する設備投資を促すことは必要でしょう。

ですが、経営力向上計画という失敗した政策を後から正当化するかのように、役所が税制優遇の要件に加えるのは明らかにおかしい。

役所だって、ただでさえ人が足りないのに、本来はわざわざ無意味な仕事を増やす余裕はないはずです。

これのためにどれだけ無駄な人件費を支払っているのだろうか。

それと、税務署。

天井クレーンを即時償却するのに、日本クレーン協会が「天井クレーンは機械装置」だと説明しているから、申告書に「機械装置」だと記載したのを、税務署が「工業会の証明書には附属設備と書いてあるから、即時償却は認められない」という指摘を税務調査でするのはどうなのでしょう。

ちゃんと会社は、国が税制優遇までして「こんな設備投資をしてくれ」という投資をしたのに、どうでもいいことでそれを阻害しようとしないように。

結局、半年近くも揉めた後、「だったら、工業会の証明書が間違っているんだろう。書き直してもらうから、それまでずっと待ってろ」というこっちのセリフで、渋々認めることになったわけでしょ。

こんなどうでもいいことで、お互いどれだけ無駄な時間を使ったのか。

国が本気で生産性向上を目指すなら、こんな生産性を悪化させるようなお役所仕事をまずはやめてくれ。

生産性向上を目指す企業にとって、経営力向上計画作成を投資促進税制の適用要件から外すことが、最も確実で簡単な生産性向上策なのですから。

最初に取り組むべき、一番効果のある効率化は、やらなくてもいいことをやめることなんだって。

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