当期の業績を反映させた決算賞与は、当期の経費とするのが合理的ですが、計算の都合上、実際の支給は翌期となる事が多いでしょう。
その場合には、賞与引当金(未払金)を計上することで、実際の支給は翌期であったとして、当期の費用とすることは出来ます。
しかし、法人税法では、原則として、未払賞与の当期での損金算入を認めておらず、一定の要件を満たす場合のみ例外的に当期の損金算入を認めているのです。
そこで、今回は、未払賞与が当期の損金とされるための要件と、それが所得拡大税制という他の規定にも及ぼす影響についてまとめてみることにします。
従業員に対する賞与については、その損金算入時期は、原則その支給日でありますが、例外として次に掲げる要件の全てを満たす賞与については、使用人にその支給額の「通知をした日」の属する事業年度の損金とすることが認められています。
要するに、事業年度終了の日までに全従業員に賞与の金額を通知し、新事業年度開始から一ヶ月以内に支払えば未払賞与の計上はOK。ただし、更正の請求したり税務調査の時にあとから未払賞与の計上をするのはNGね。ということです。
これだけをみると、「どうせ日付なんか後から遡って事業年度内に通知をしたことにしておけば良い」と考えそうですが、この通知の事実は、税務調査で、従業員に確認を取られたりと結構シビアに見られます。
なので、社内のイントラやメールなどを通じて、実際に全従業員に対して事業年度終了の日までに賞与の金額の通知があったことを証明できるようにしておくことが重要なのです。
とにかく、税務署は「決算時の利益調整」を異常に嫌います。
決算賞与は、当期の業績を踏まえてその利益分配としてなされるものなのですから、当期の損金とするのが理屈に合うのですが、「利益が上がってどうせ税金で持っていかれるよりは従業員に還元したい」というような利益調整はどうしても受け入れられないようです。
なお、税務調査でこの未払賞与が否認されたとなると、その分当期の損金が減り、追徴される代わりに、翌期の損金が増え翌期の税金が減ることになります。
トータルの税負担は一緒なのだから、税務署もそんなに目くじらを立てることはないように思うのですが、税務調査の目的は、正しい申告をさせることではなく、追徴課税することなんだと思うしかないですね。
政策的な配慮から人件費の支払いが一定金額以上増えた会社に対しては「所得拡大税制」として一定金額までの法人税の税額控除が可能です。
以前は、この制度の適用を受けるためには、対象者を選定しその支給額を各人ごとに把握するなど計算がメチャクチャ大変でした。しかし、平成30年4月1日以後に開始する事業年度分からは新所得拡大税制となり、計算はかなりシンプルになったのです。
給与等の引上げ及び設備投資等を行った場合等の税額控除|タックスアンサー
この制度を受けるための要件をものすごくザックリというと
当期の全従業員の給与総額が前期の全従業員の給与総額に比べて増えている
前期も当期も毎月給与をもらった雇用保険加入社員の給与総額を比べると当期は前期の1.5%以上増えている
という2つを満たすということです。
そして、この要件を満たす場合には、当期の全従業員の給与総額が前期の全従業員の給与総額を上回った金額について最大15%の法人税の税額控除が可能となるのです。
そうなると、当期の未払賞与の計上が否認されたとなれば、「当期の全従業員の給与総額」が少なくなるので、この所得拡大税制による控除額が少なくなることもあります。
さらに、未払賞与の計上が否認された結果、「前期も当期も毎月給与をもらった社会保険加入社員の当期の給与総額」(継続雇用者給与等支給額)が減ることになれば、前期の継続雇用者給与等支給額を1.5%以上上回るという要件そのものを満たさなくなり、所得拡大税制による税額控除が一切できなくなるということもあるのです。
まさに、未払賞与否認による所得拡大税制否認という”ドミノ倒し”のようです。
これは納税者側から見ると痛いことですが、取る側の税務署から見るとムチャクチャ効率が良くてオイシイわけです。
ですから、「課税売上高が1000万円弱、5000万円弱」とか、ちょっと課税売上漏れを指摘するだけで免税や簡易課税が適用されずに多額の消費税追徴課税が可能なものと同じように、未払賞与と所得拡大税制がセットで適用されているような申告書は税務調査で狙われやすいのではないかということです。
少なくとも私が税務署員だったら、そういう申告を狙いに行きますよね。