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所有する土地が公共事業などのために強制的に国や自治体に買い取られることを「収用」といいます。
自分が住んでいたり利用している土地が勝手に買い取られてしまうというのは、悲劇のようですが、実はそんなに悪いことばかりではありません。
というのも、買い取りの価額は、「公示価格」をベースにするため、一般の売買よりも価格が高いケースが多く、税金的にも種々の恩典があるのです。
そこで、今回は、土地が収用された場合の所得税の課税の特例についてまとめてみることにします。
個人が土地等を収用等されると各種の補償金が支給されます。
補償金は、その性質により所得区分が変わりますが、課税上、次のように分類されるのです。
補償金の内容 | 区分 |
収用等された資産の対価となる補償金 | 対価補償金 |
資産を収用等されることによって生ずる事業の減収や損失の補てんに充てられるものとして交付される補償金 | 収益補償金 |
事業上の費用の補てんに充てるものとして交付される補償金 | 経費補償金 |
資産の移転に要する費用の補てんに充てるものとして交付される補償金 | 移転補償金 |
原状回復費、協力料などの補償金 | その他の補償金 |
これらの補償金のうち収用等の課税の特例の適用がある補償金は、原則として、対価補償金だけです。
なお、補償金の原則的な課税上の取扱いは、次の表のとおりです。
ただし、補償金の名目は対価補償金でなくとも、次の表の太字のようなケースでは、対価補償金として取り扱うことも認められています。
補償金の種類 | 課税上の取扱い |
---|---|
対価補償金 | 譲渡所得又は山林所得 |
収益補償金 | 不動産所得、事業所得又は雑所得 ただし、建物の収用等を受けた場合で建物の対価補償金がその建物の再取得価額に満たないときは、収益補償金のうちその満たない部分を対価補償金として取り扱うことができます。 |
経費補償金 | (イ) 休廃業等により生ずる事業上の費用の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、不動産所得、事業所得又は雑所得 (ロ) 収用等による譲渡の目的となった資産以外の資産(たな卸資産を除きます。)について実現した損失の補てんに充てるものとして交付を受ける補償金は、山林所得又は譲渡所得 ただし、事業を廃止する場合等でその事業の機械装置等を他に転用できないときに交付を受ける経費補償金は、対価補償金として取り扱うことができます。 |
移転補償金 | その交付の目的に従って支出した場合、総収入金額に算入されません。 その交付の目的に従って支出されなかった場合又は支出後に補償金が残った場合は、一時所得。 ただし、建物等を引き家又は移築するための補償金を受けた場合で実際にはその建物等を取り壊したとき及び移設困難な機械装置の補償金を受けたときは、対価補償金として取り扱うことができます。 また、借家人補償金は、対価補償金として取り扱うことができます。 |
その他対価補償金の実質を有しない補償金 | その実態に応じ、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入します。 ただし、改葬料や精神的補償など所得税法上の非課税に当たるものは課税されません。 |
自分の不動産が収用され、代わりに別の不動産等を取得した場合、その対価補償金(売却代金)のうち新たな不動産等を取得に要した金額までは、対価補償金はなかったものとすることができます。
これを「収用等の買換え特例」といいます。
この特例を受けると、売った金額より買い換えた金額の方が多いときは、売った年については譲渡所得がなかったものとされます。
売った金額より買い換えた金額の方が少ないときは、その差額を収入金額として譲渡所得の金額の計算を行います。
この特例を受けるには、次の要件すべてに当てはまることが必要です。
一定の要件を満たした対価補償金を受け取った場合、譲渡所得の金額の計算上、最大で5,000万円を差し引くことができる「収用等の5,000万円特別控除」の適用を受けることができます。
この特例を受けるには、次の要件すべてに当てはまることが必要です。
この特別控除の特例は、同じ公共事業で2以上の年にまたがって資産を売るときは最初の年だけしか受けられません。
公共事業のために土地建物を売った場合は、これらの2つの特例のうち、どちらか一方の特例を受けることができます。
確定申告書には公共事業の施行者から受けた公共事業用資産の買取り等の申出証明書や買取り等の証明書など一定の書類を付けることが必要です。
「買取り等の申出があった日から6か月を経過した日までに譲渡」となっていますが、収用は、最初の申し出から6ヶ月以内に完了することのほうが稀です。一般的には、実際の収用の日から6ヶ月以内に買取り等の申し出があったように自治体で”調整”をすることも多いでしょう。
「収用等の買換え特例」については、譲渡所得の計算上、受け取った対価補償金から買い換えた不動産の取得価額をすべて差し引くことができます。
しかし、買い換えた不動産の取得価額だけ非課税になるというわけではなく、新たに買い換えた不動産の取得価額がその分引き下げられるということです。
譲渡所得の金額は、「売った時の価格」から「買った時の価格」*を差し引いた値上がり部分の金額です。
*建物についてが、時の経過に応じた価値減耗分である減価償却費相当額を取得価額から差し引いた金額となります。
買換え特例を使うと、収用の際の譲渡所得の計算上、新たに買い換えた不動産の取得価額をもう差し引いてしまっており、その買い換えた不動産の譲渡所得の計算ではもう、”使えない”のです。
結果的に、買換え特例を使うと言うことは、買い換えた不動産を譲渡した時に対価補償金をもらった時の譲渡所得税を一緒に支払うことになるのです。
そのため、買い換えた不動産を取得した時に予想外に高い税負担になったり、資金繰りに困って買った時よりも安い価格で渋々売却をしたのに税金が掛かるなどということもあるのです。
一方、収用等の5,000万円控除については、特別控除を対価補償金から差し引いたとしても、買い換えた不動産を譲渡した時の税負担が増えるようなことはありません。
ですから、対価補償金も新たに買い換えた不動産も1億円以上と高額でない限りは、まずは収用等の5,000万円特別控除の利用を検討したほうが良いでしょう。
複数の税制優遇措置が適用できる場合、目の前の税負担額軽減額だけでなく、その税負担軽額が将来どんな影響をもたらすのかも考慮する必要があるのです。