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12月14日に令和6年度の税制改正大綱で、賃上げ税制の中小企業版「所得拡大税制」の適用拡大が公表されました。
具体的には、その事業年度の法人税の2割という繰越上限額を超えた分について、これまでは切り捨てられていたものが、今後は以後5年間の繰越控除が可能になるというものです。
そこで、今回は、まだ詳細はわかりませんが、令和6年度改正による所得拡大税制についてまとめてみようと思います。
中小企業向け賃上げ促進税制は、中小企業者等が、前年度より給与等を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。
雇用者に対する給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加
増えた給与総額の15%を法人税額から控除
(1)雇用者に対する給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加
控除率を15%上乗せ
(2)教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加
控除率を10%上乗せ
(1)(2)の上乗せ要件をどちらも満たすことで、前年より増加した給与総額の最大40%の控除が可能とされています。
雇用者に対する給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加
増えた給与総額の15%を法人税額から控除
(1)雇用者に対する給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加
控除率を15%上乗せ
(2)教育訓練費の額が前年度と比べて5%以上増加で給与等支給額の0.05%以上
控除率を10%上乗せ
(3)「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けた一定の要件をみたす
控除率を5%上乗せ
(1)(2)(3)のすべての上乗せ要件をどちらも満たすことで、前年より増加した給与総額の最大45%の控除が可能とされることになります。
賃金は損金になるわけで、賃金の支給を増やした分については、その約30%だけ法人税の負担は減ります。
その上で、賃金を増やした分の最大45%も税額控除を受けることができるのであれば、両方合わせれば、賃金を増やした分の約75%も税負担が軽減されることになる。
そう見えなくもないのですが、この賃上げ税制については、上記の税額控除が全額可能なわけではなく、もう一つの隠れた上限額があります。
それは、その事業年度の法人税額の2割とするというものです。
例えば、当期の給与総額が前期よりも3000万円増やした法人があるとします。その事業年度の法人税額が仮に500万円だとします。
この法人が通常要件を満たしていて、増えた給与総額の15%が控除できるとなれば450万円(3000万円×15%)となるわけですが、もう一つの法人税の2割である100万円(500万円×20%)があるため、実際の税額控除額は100万円にしかなりません。
これでは、給与を増やした額の最大45%の税額控除ができると大盤振る舞いのように報じられているものの、現実の控除額は一切増えていないことになります。
この法人税の2割という控除限度額を超過する部分については、これまでは切り捨てられていました。
それが、令和6年度の税制改正により、この控除限度額超過分については、以後5年間の法人税額から控除できることのなったのです。
これで、本当に上乗せ要件の意味は出てくるのではないかと思われます。
適用開始時期は、旧法律が令和6年3月31日までに開始する事業年度なので、令和6年4月1日開始以降の事業年度となるのはまず間違いないです。
具体的な繰越控除の方法はまだわかりませんが、同様の繰越控除を認めている中小企業投資促進税制と同じような仕組みとなるのではないかと思われます。
つまり、賃上げ税制により生じた繰越控除額については、翌期以降繰越は可能だが、その事業年度の法人税の2割という上限はあるということです。
中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)|タックスアンサー
さらに、その繰越控除をする事業年度については、当期の給与総額が前期の給与総額を超える場合に限り適用ができるとされている点にも注意が必要です。
実務上それらの判断をするのは大変なので、以後は、すべての法人について、この賃上げ税制の別表について当期の給与総額を入力し、控除の適否については、申告システムに判断をしてもらうことになるのではないかなと思われます。
これまで私のお客様について、のべ200件以上はこの賃上げ税制の申告をして来ましたが、一件たりともこの賃上げ税制があるとの理由で賃上げをした事業者はありません。
一方で、顧問契約の変更やセカンドオピニオンとして申告書をみるとこの賃上げ税制の適用漏れが散見されます。
この賃上げ税制は、当初申告要件があり、後から適用をすることはできません。
繰越控除が可能になることでその分適用を忘れた時の税理士の責任も重くなりますので、適用忘れのないようにしたいものです。