9、どれだけの資金の立替をしなくては
いけないかを理解していたのか?
夜中は、伝票書きと問い合わせ対応に明け暮れのためか、
いつしか昼夜の逆転した生活になっていた。
寝ぼけながら聞いた着メロはいつもの目覚まし
ではないことに気付くには少し時間がかかった。
眠い目をこすりながら着信者の名前を見て胸が高鳴った。
「シオックス」
震える手で着信ボタンを押した。
「ああ、吉田さん。あの後吉田さんがことを上司に話したら、
興味を示してね。一度うちに来てくれないか」
シオックスのバイヤー鈴本さんからの電話だった。
「は、はい。今すぐ行きます」
「いや、今すぐじゃなくても。」
「でも、早いほうが良いから明日の9時に時間取ってよ。」
満員電車はこんなにも辛いものだったのか。
「勝負服」のスーツもよれよれになりながら、
地下鉄の出口から見上げたシオックスのビルは
今の自分には急に大きくなったように思われた。
30分ほど待たされた後、バイヤーの鈴本さんは笑顔で話し始めた。
「この間、吉田さんが置いていったデザイン
にうちの上司が興味を示してね」
「独立のお祝いもかねて、とりあえず少ないけど5,000枚
くらいのTシャツをうちの買い取りで良いから作ってよ。」
5,000枚!今の自分には気の遠くなるような数量だ。
「は、はい。ありがとうございます。」
「すぐにデザインを起こして、承認を受けたらすぐに製作に入ります」
とうとうきた。これで一気に大逆転だ。
1週間後必死に書いたデザインの中から
1,000枚ずつ5つのデザインが採用となった。
しかしオリジナルのデザインだからな。
今の在庫は使えないと言うことか。
と言うことは、新たに製作代がいると言うことになるわけだ。
カネがない。どうしよう。仕方がない。
「事業が軌道に乗ったら結婚する」と約束していた彼女の明代に電話をかけた。
「申し訳ないが、結婚資金を貸してくれないか。
シオックスとの契約が成立したんだよ。
ただ、どうしても製作費を先に支払わないといけないんだ。」
明代は何も言わずに、通帳と印鑑を渡してくれた。
「絶対すぐに返すから。そして結婚しよう!」
どさくさにまぎれてプロポーズをしたまますぐに
銀行に駆け込んだ。
明代の定期預金300万円を解約し、
すぐそのまま上海の商社に製作費の振り込みをしたのだ。
★ポイント 通常、商材は仕入代金を先払いする。
そのため受注が急激に伸びたときほどカネが足りなくなる。
【編集後記】
この間、あまりのうまさにカロリーを無視して
2日連続で食っちゃったのがこれ
あまおう苺パフェ by TAKANO
1個 682円也
尋常じゃなくイチゴがデカイ。
激ウマです!