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いよいよ、2023年10月から消費税にインボイス制度が導入されます。
この制度が導入されると、自身の消費税の納税額の計算上控除できる「仕入税額控除」は、登録をした消費税の納税をしている者(適格事業者)からの仕入等のみとなります。
消費税の納税をしない免税事業者からの仕入等については、仕入税額控除ができないため、そのままの金額を支払うと買い手の課税事業者側でその分コストが増えてしまうことになります。
当然、買い手としては、売り手の免税事業者に適格事業者への登録をしてもらうよう要請をするか、どうしても免税事業者のままであれば、その控除ができなくなる分の消費税相当額について値下げ要請をするはずです。
そこで、間接的に免税事業者の負担を軽減できるよう、インボイス制度導入から一定期間は、免税業者からの仕入等であっても、その消費税相当額に一定割合を掛けた金額だけ消費税の控除ができるという「経過措置」が設けられました。
もし、買い手の課税事業者の負担をインボイス制度導入後も増やしたくなければ、その控除不可となる部分だけ免税事業者は値下げに応じればよいわけです。
では、具体的には、その金額はいくらなのでしょう。「そりゃ今まで控除していた消費税相当額の2割だろう」と思っていたのですが、どうもそれだとピタリとこないことに気がつきました。
そこで、今回は、免税事業者との取引について、経過措置期間中の値下げ要請金額の計算方法について検討してみようと思います。
インボイス制度になって、いきなり免税事業者からの仕入れについて一切仕入税額控除ができなくなると、免税事業者が取引から排除されてしまうことも懸念されます。
そこで、免税事業者は消費者からの仕入れについてもその消費税相当額の当初3年間は80%、その次の3年間は50%が控除ができるという経過措置が設けられているのです。
仕入税額控除可能部分 | 仕入税額控除不可部分 | |
2023.10.1-2026.9.30 | 80% | 20% |
2026.10.1-2029.9.30 | 50% | 50% |
2029.10.1- | 0% | 100% |
今回のポイントは、仕入税額控除不可部分のほう。つまり、インボイス制度がはじまると、免税事業者からの仕入等については、その消費税相当額のうち、当初の3年間は2割、次の3年間は5割の控除ができない。
ですから、そのままの金額を買い手が支払い続けると、その分だけコストアップとなり、インボイス制度によるコスト負担をしたくなければ、控除不可となる分だけ免税事業者に値下げ要請をすれば良いことになるわけです。
では、具体的にいくら値下げ要請をすれば良いのでしょうか?
例えば、店舗の家賃550,000円(うち消費税50,000円)の支払いをしているテナントが、どうしても適格事業者登録はしないという大家さんに対して自身の負担を変えたくないのであれば、いくら値下げ要請をすれば良いのでしょうか?
現状の消費税は50,000円であり、当初の3年間はその2割である10,000円の控除ができなくなるわけですから、10,000円の値下げ要請をすれば良いように思えます。
具体的には、インボイス制度後の家賃は、現状よりも10,000円の値下げをした540,000円(税込)にしてもらえばよいと。
このときの経理処理は次のようになります。
税込金額 540,000円
本体価格 540,000円/1.1=490,909円
消費税額 490,909円×10%=49,091円
控除不可額 49,091円×20%=9,818円
仮払消費税 49,091円ー9,818円=39,273円
支払家賃 | 490,909円 | 預金 | 540,000円 |
仮払消費税 | 39,273円 | ||
雑損失 (控除不可額) | 9,818円 |
仮払消費税は消費税の計算上控除されるもので、事業者が負担するものではありません。
テナントの負担は、支払家賃の本体価格と消費税の仕入税額控除が不可となる部分の合計金額です。
そうなると、インボイス制度後に免税事業者から現状の消費税相当額の2割の値下げに応じてもらったときの負担は500,727円となります。
あれ?現状の負担は500,000円ですから、10,000円の値下げに応じてもらっても、まだ727円とはいえ負担が増えてしまうことになるのです。
では、どうすれば、インボイス制度導入前後で買い手の負担を一致させることができるのか
<インボイス制度前>
本体価格(値下げ前)X円
消費税額 0.1X円
<インボイス制度後>
本体価格(値下げ後)Y円
消費税額 0.1Y円
控除不可額 0.1Y×0.2円
となり、インボイス制度前とインボイス制度後の負担を一致させるということは
X円=Y円+0.02Y円=1.02Y円
Y円=X円/1.02
となる。
つまり、当初の3年間(本体価格)の家賃は、現状の支払家賃の本体価格を1.02で割った金額にすれば良いということです。
これにその10%の消費税相当額を加えた金額が支払家賃となります。
今回のケースでは、
現状の本体価格 500,000円
値下げ後の本体価格 500,000円/1.02=490,196円
消費税額 490,196円×10%=49,020円
控除不可額 49,020円×20%=9,804円
仮払消費税 49,020円ー9,804円=39,216円
支払家賃 | 490,196円 | 預金 | 539,216円 |
仮払消費税 | 39,216円 | ||
雑損失 (控除不可額) | 9,804円 |
テナントの負担は、支払家賃490,196円+控除不可額9,804円=500,000円
となり、現状の支払家賃の負担500,000円と一致するということです。
次の3年間は、消費税相当額の5割の控除ができなくなります。
<インボイス制度前>
本体価格(値下げ前)X円
消費税額 0.1X円
<インボイス制度後>
本体価格(値下げ後)Y円
消費税額 0.1Y円
控除不可額 0.1Y×0.5円
となり、インボイス制度前とインボイス制度後の負担を一致させるということは
X円=Y円+0.05Y円=1.05Y円
Y円=X円/1.05
つまり、次の3年間の家賃(本体価格)は、現状の支払家賃の本体価格を1.05で割った金額にすれば良いということです。
これにその10%の消費税相当額を加えた金額が支払家賃となります。
経過措置が終了した後は、消費税相当額は一切控除できなくなります。
<インボイス制度前>
本体価格(値下げ前)X円
消費税額 0.1X円
<インボイス制度後>
本体価格(値下げ後)Y円
消費税額 0.1Y円
控除不可額 0.1Y円
となり、インボイス制度前とインボイス制度後の負担を一致させるということは
X円=Y円+0.1円=1.1Y円
Y円=X円/1.1
つまり、インボイス導入6年後からの家賃(本体価格)は、現状の支払家賃の本体価格を1.1で割った金額にすれば良いということです。
これにその10%の消費税相当額を加えた金額が支払家賃となります。
こんなに細かいことをいうかどうかはわかりませんが、買い手である課税事業者側の負担が変わらない「フェアな値下げ要請額」は次のようになるということは覚えておいて損はないでしょう
期間 | 値下げ要請後の金額 |
2023.10.1-2026.9.30 | 現状の本体価格/1.02+消費税相当額 |
2026.10.1-2029.9.30 | 現状の本体価格/1.05+消費税相当額 |
2029.10.1- | 現状の本体価格/1.1+消費税相当額 |
まあ、ぶっちゃけ、こういう面倒なことになるので、売り手にはできるだけ適格事業者登録をお願いしたいということになるんですけどね。
免税事業者の方にも、買い手側では免税事業者との取引についてこんな面倒を負担しなくてはならず、いくら経過措置があろうと、既存取引は継続する余地はあっても、新規契約はよほどの理由がないと難しいということをご理解いただきたいものです。