仮想通貨の利益は不動産投資で節税できる?

仮想通貨の利益は、雑所得として課税

2017年に仮想通貨が暴騰したため、億単位の利益を得た「億り人」が多数出たようです。

さて、個人の場合、仮想通貨の取引による利益は、雑所得として総合課税が適用されることとなりました。

ざっと言えば、雑所得(その他)というのは、利益については、給与所得など他の所得と通算され最大55.945%の累進課税がされる一方、損失については、給与所得などの他の所得との通算は一切認められないという不利なもの。

そこで、なんとか、仮想通貨の利益の税金を少しでも減らしたいといろいろ模索がされているようです。

その中で、「不動産投資をすれば仮想通貨の利益に対する税金の節税になるのでは」というご質問をお客様から頂いたので、その論点を整理してみようと思います。

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個人の所得は、その発生原因により10種類に区分がされます。

そのうち、株式の譲渡所得、不動産の譲渡所得、退職所得などについては、他の所得と通算されることなくその所得金額のみに対してそれぞれ定められた税率が掛けられる「分離課税」が適用されます。

一方で、これら以外の給与所得や事業所得、不動産所得や雑所得などは、それらが合算されて課税所得が計算され、その課税所得金額に応じた累進課税がされる「総合課税」が適用されるのです。

これは、ある所得がマイナスで別の所得がプラスの場合、それらが通算(相殺)されて課税所得が計算されるということ。

しかし、この所得のマイナス分が、他の所得と「損益通算」できる所得は、「不動産所得」「事業所得」「山林所得」「譲渡所得(総合課税)」の4つに限定されているのです。

ですから、仮に仮想通貨の取引で損失が生じたとしても、雑所得であるため、その所得のマイナスは、他の所得とは通算できません。

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一方で、「不動産・事業・山林・譲渡(総合)所得」で赤字が発生した場合には、「一定のルール」のもと、給与所得や雑所得などと通算して、税負担を減らすことが可能になるのです。

不動産投資は初年度に多額の赤字が生じるが

不動産投資をすると、仲介手数料以外にも、概ね物件価格の3-4%程度の諸経費が掛かると言われています。

そのため、不動産投資をした初年度には不動産取得税などの諸経費により多額の赤字が生じるケースが多いもの。

(購入時の仲介手数料は取得価額となり、支出時の必要経費にはなりません)

ですから、仮想通貨で多額の利益が生じた年度に不動産投資をすることで、そこから生じた不動産所得の赤字は、仮想通貨の利益との通算が可能であり、結果的にその時点で支払う税金の額を減らすことになります。

ただし、不動産所得については、その赤字のうち、土地を取得するために要した借入金の利子相当額については損益通算ができないという規制があるのです。

これは、バブル期に、”一部の”税理士が「サラリーマンも不動産投資で節税をしながら資産形成を」などといって、申告書も書かずに賃貸用不動産を売りまくったことへの「節税封じ策」ですが、不動産市況が大きく変わったのに未だに規制がされたままなのです。

実際にお金を払い、損失が生じているのに税計算で切り捨てられるというのは大きな負担でしょう。本当に余計なことをする税理士がいるものですね。

減価償却に節税効果はないが、所得の”組み換え”効果も

不動産所得の赤字は、実際に支出がされて赤字になったのですから、それが仮想通貨の利益と通算されたとしても、別に得をしたというわけではないでしょう。本当に損をしているのに、節税と言われてもねえ。

では、建物の減価償却費はどうなのか?建物の減価償却費は不動産所得の必要経費となり、時には、それによって不動産所得が赤字になることもあるでしょう。

よく「減価償却費は支出もないのに必要経費になって節税になる」と言われますが、実際はそうではありません。

建物を取得した際に、ドンとまとめて支出しているのをお忘れでは?

その支出がすぐに全額が必要経費に算入されず、長い時間を掛けて必要経費に算入される。それを必要経費に算入される期間だけをみて「支出もないのに経費になる」といっているだけのことなのです。

その取得の際の支出が借入により賄われていると、その”支出の痛み”を感じずに、お金が出ていかないのに必要経費になる部分だけをみて減価償却は素晴らしいことのように思ってしまうのでしょう。

最近は、不動産の取引価額は、家賃収入を想定利回りで割って求める「収益還元価値」をベースに計算されることが多いため、家賃が下がらないと建物の価値が減耗しているということを理解し難いかもしれません。

しかし、建物が古くなると、買い手側の期待する利回りが高くなります。あなたが賃貸用不動産を購入する場合、家賃収入のブレ幅の大きい古い物件を購入するというリスクを負う以上、その分高いリターンを要求するはずです。

収益還元価値は家賃収入を利回りで割ったものですから、同じ家賃収入でも期待利回りが高いほうが収益還元価値は小さくなる。

つまり、建物の収益還元価値も時の経過に応じて小さくなっていきます。

減価償却費は、あくまでも支出した取得価額を耐用年数で按分したものであり、その建物の価値減耗分が必要経費となったものです。

お金も払わず、資産価値も目減りしないのに、勝手に減価償却費という必要経費が湧いてくるわけではないのです。

なお、減価償却により確かに不動産所得は小さくなります。そのことにより、所得税等の負担が小さくなるのも事実です。

しかし、その不動産投資の成果は、賃貸していた期間の所得だけでなく、その物件を譲渡したところまでを勘案しなくてはなりません。

その不動産を譲渡した時に、売った時の金額(譲渡対価)が買った時の金額(取得価額)よりも大きければ、その分が不動産投資のトータルの利益に上乗せされます。

この不動産の譲渡による利益は、譲渡所得として分離課税されますが、譲渡所得の計算は、「売った時の金額(譲渡対価)ー買った時の金額(取得価額)」ではありません。

不動産の譲渡所得の金額は、「譲渡対価ー取得費」として計算がされるのです。

この「取得費」は、買った時の金額である「取得価額」とは別のものです。

「取得費」とは、取得価額からそれまで減価償却された金額を差し引いた金額なのです。

仮に運良く不動産を買った時と全く同じ価格で売却できたとすれば、譲渡所得は0のようにも思えますが、実際には、それまで減価償却をした金額だけが譲渡所得の金額に上乗せされ税金が掛かるのです。

つまり、減価償却により、不動産所得が減った分だけ、後日譲渡所得の金額が大きくなることになります。

要するに、減価償却による節税効果は、その税金の支払期限を繰り延べたに過ぎません。減価償却による税負担軽減効果は、本来はないのです。

しかし、減価償却により、課税される対象が不動産所得から譲渡所得に変わることになります。

不動産所得は、累進課税による総合課税であり、最小で15.105%から最大55.945%の税率が適用されます。

それに対して、不動産の譲渡所得には、所有期間が5年以下(短期譲渡)であれば39.63%、所有期間が5年超(長期譲渡)であれば20.315%の一律による分離課税が適用されるのです。

仮想通貨で「億り人」になって利益確定させた人であれば、課税所得が4,000万円超の部分には55.945%の課税がされます。

もし、不動産所得が赤字となれば、その赤字(土地の負債利子は除く)が雑所得と通算がされその金額の55.945%だけ税負担は軽減される。

そのうち、減価償却分については、後日譲渡所得として課税されたとしても、税率は、短期譲渡であれば39.63%、長期譲渡であれば、20.315%であるため、その税率の差だけ税負担軽減の余地があることになります。

また、仲介手数料を除く諸経費分で不動産所得の赤字となった金額が多額の雑所得と通算されれば、そのときに本来課税されるべきであった税率とその後回収したお金が不動産所得として課税される税率の差程度には税負担軽減の余地もあるでしょう。

確かに「仮想通貨のようなブレ幅の大きな投資はもうしんどいので、ひとまず利益確定をさせて別の投資をしたい」と言うのであれば、その投資対象として不動産というのは、ありかもしれません。

ですが、単年度の減価償却費の金額など大した金額でもないし、支出した諸経費を回収するのも大変なので「仮想通貨の利益の税負担を軽減すること」を目的に不動産投資をするほどの節税効果ではないかなとは思います。

税率を引き下げたいのであれば、最初から仮想通貨を法人で買えば、その損得は、本業の所得と通算の上、税率も課税所得800万円超の部分で約30%、課税所得800万円以下の部分で約20%ですし、万一欠損金が生じても翌期以降9期間に渡って繰越が可能ですからね。

仮想通貨の損失を税金で取り戻す|法人で仮想通貨取引をするという選択肢

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