税務調査で指摘された報酬の源泉徴収漏れを会社が負担した時の課税関係

報酬の源泉徴収義務は微妙なものが多い

役員や従業員だけでなく、外注先への報酬について一定のものには、源泉徴収をし国に納付する必要があります。

ところが、報酬の源泉徴収義務についてはその判断に悩むものもあり、源泉徴収していなかったところを税務調査で源泉徴収すべきと追徴課税がされることもあるのです。

ただ、従業員など社内の人間ではなく、外注先からいまさら源泉徴収税額分をくださいというのはなかなか大変です。

そこで今回は、報酬の源泉徴収漏れ分を会社が負担したらどうなるのかについてまとめてみようと思います。

報酬の源泉徴収義務の有無は判断に悩むものも

個人事業主に対する報酬・料金の支払いについては、次の場合、源泉徴収をする必要があります。

原稿料や講演料など

弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金

社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬

プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金

芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金

ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金

プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金

源泉徴収義務については限定列挙であるため、ここに掲げられたもの以外については源泉徴収義務はありません。

報酬・料金等の源泉徴収事務|タックスアンサー

ですが、例えば、「プロのテニス選手」という表現をとっても、テニスのプロ登録をしていなくとも「テニスのコーチ」を事業(プロ)として営んでいる人に対する報酬を支払ったら、それが源泉徴収の対象なのか判断に悩みます。

あるいは、報酬として支払ったものが、実態は給与であるとして源泉徴収すべきとされることもありえます。

つまり、税務調査で、それらの社外の人に対する支払いについて源泉徴収すべきであるという指摘がされるケースも多々あるのです。

源泉徴収が必要な報酬、不要な報酬

源泉徴収分を会社が負担した場合には外注費に

役員や従業員などに対する源泉税の徴収漏れがあったとしても、翌月の給与から差し引くことは容易でしょう。

社外の人であっても、経常的に仕事を発注しているのであれば、次回の報酬の支払額から立て替え払いをした源泉徴収税額を差し引くことも可能かもしれません。

しかし、単発で依頼をした報酬に対して、税務署から源泉徴収をすべきと指摘されたからといって、いまさら回収はできないというケースも多いでしょう。

会社が負担したらその金額は外注費となる

そんなときには、会社が本来外注先が負担すべき源泉徴収税額を立て替えたままとなりますが、その支出はどのように経理処理を行えばよいのでしょうか

回収を図っているうちは、立替金などの勘定科目で良いですが、回収のめども立たなかったり、いまさら徴収しようというのもどうよというのであれば、会社がその負担をすることになるでしょう。

この本来、外注先等が負担すべき源泉徴収税額を会社が負担した場合のであれば、何ら役務提供もされていないので、法人からの寄付となり損金不算入とされるのではないかとも考えられます。

しかし、外注先等への報酬の源泉徴収漏れ分について、会社が負担した場合には、その金額についても報酬とすることが通達で認められているのです。

(支払者が税額を負担する場合の税額計算)

221-1 法第221条の規定により同条に規定する者から源泉徴収に係る所得税を徴収する場合において、その者がその徴収すべき税額を徴収していなかったときは、同条の規定により徴収すべき税額は、次により計算することとなることに留意する。

(1) 当該税額を徴収していなかった理由が、当該徴収すべき税額を支払者が負担する契約となっていたことによるものである場合には、取引手取額により支払金額が定められていたものとして、181~223共-4により計算する。

(2) 当該税額を徴収していなかった理由が、(1)の理由以外のものである場合には、既に支払った金額のうちから当該税額を徴収すべきであったものとし、既に支払った金額を基準として計算する。この場合において、その計算した税額を納付した支払者が、その納付した税額につき法第222条《不徴収税額の支払金額からの控除及び支払請求等》に規定する控除又は請求をしないこととしたときは、当該控除又は請求をしないこととした時においてその納付した税額に相当する金額を税引き手取額により支払ったものとし、その支払ったものとされる金額に対する税額を181~223共-4により計算する。

会社負担をした源泉徴収税額に更に源泉徴収が必要

ただし、ここで注意すべきことがあります。

それは、その支払が外注先等への報酬とされるということは、その金額についても源泉徴収義務が生じることになります。

例えば、源泉徴収漏れがあり会社が負担した税額が1,000円であれば、その金額を手取り額として支払うこととしたとして113円の源泉徴収税額の納付が必要ということです。

1000円÷0.8979=1,113円

1,113円×10.21%=113円

(1-0.1021=0.8979)

手取契約の場合の源泉徴収税額の計算方法|タックスアンサー

なお、消費税については、報酬として源泉徴収漏れとなった分を会社が負担すればその金額も報酬として消費税の課税対象とされますが、報酬として処理していたものが実質的に給与とされたことによる源泉徴収漏れを指摘されその分を会社が負担した場合には、その者に対する追加給与とされるので、消費税の課税対象とはならず消費税の控除はできないことになるのです。

ホント面倒くさいですよね。徴税事務を会社に押し付けるのはいい加減勘弁してほしいところです。

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